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体験型コマースで購入前後の期待ギャップを埋める

体験型コマースで購入前後の期待ギャップを埋める

これまで得られなかった体験をどう実現していくか

Ximera Media Next Trends #32|Author: Ikuo Morisugi|March 28, 2022

はじめに

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第32回となる今回は「体験型コマース」について、取り上げます。

コロナ禍を経て現代では物販に関してECを使う割合が増えましたが、ECで購入前に期待したことと実際に手に届いた製品のギャップを感じることがあります。大きさ、形、重さ、色、匂い、効用、使い心地などさまざまな点で、実際に使ってみないといけないとわからないことがあります。

多くの場合、製品詳細をよく読み、ユーザのレビューを確認することで、購入前にギャップの解消を図ろうとしますが、ときには読みが外れてしまうこともあります。とくにシャンプー、化粧品、インテリアなどの製品は、試してみないとよくわからない上、一度買って使ってしまったら返品も容易ではなく、満足いかないまま処分するか使いつづけることを強いられます。

これまでは、ショールーム化された店舗を訪れ実物を確認する、AR機能を使ってスマートフォンで3Dの製品イメージを確認する、などで期待ギャップを埋めようとするソリューションが提供されてきました。一方で既存のソリューションは依然として形や色味を確認できる程度で、実際利用したときに得られる効能や製品同士を組み合わせたときの状況をリアルに想起することができません。

こうしたギャップ解消が十分できていない問題に対し、購入前に「体験」の一部を提供することでうまく解消しようとするサービスにシリコンバレーをはじめスタートアップ界隈で投資が集まっています。今回はそれを「体験型コマース」と呼び、事例を見ていきたいと思います。

実利用をきっかけとしたコマース体験: Minoan

Airbnbで宿泊すると、ホテル顔負けの整備された宿泊施設で、今まで使ってみたことがなかった良い家具や調理器具、家電に触れる機会がしばしばあります。実際に使ってみるととても良い印象で、自分でも欲しいと思うことがありますが、どこのブランドのものかわからないことも多いですし、わざわざオーナーに聞くのも面倒です。そういった製品は気にはなるものの、結局探すことを諦めてしまいます。こうした問題をうまい方法で解決しソリューション提供しているのが、スタートアップのMinoanです。

MinoanはAirbnbのオーナーやホテルチェーンに対して通常価格よりもディスカウントされたパートナーブランドの製品を提供します。宿泊するゲストがその製品を実際に利用して気に入った場合、製品に付属するQRコードを読み取り購入することができます。ゲストが購入すると売上の数%がAirbnbオーナーやホテルにマージンとして渡されます。

(1) ゲストは新たなお気に入り商品を見つける機会を得られ、(2) Airbnb/ホテルオーナーは元々コストセンターである宿泊設備を従来よりも低コストで整えられる上に新たな収入源にでき、(3) Minoanは集客が不要でECで売上を立てられるため、ゲスト、Airbnbオーナー/ホテル、Minoanの三方良しの形を実現できています。

Minoanで導入した製品(家具、電化製品等)にはQRコードが付加され、ユーザが購入可能になる image:
Minoanで導入した製品(家具、電化製品等)にはQRコードが付加され、ユーザが購入可能になる image: Minoan

Minoanの導入促進にうまく機能しているのが、製品卸価格を通常のリテール価格より大きくディスカウントしていること(30%以上)、宿泊施設側は製品の導入検討や販売成果の確認以外に関与する必要はなく販売システムやサプライチェーンをMinoanに一手に任せられること、の2点です。Airbnbオーナーやホテルにとって、宿泊設備の入れ替えを行うことや新しく製品販売プロセスを作ることは負担となるものですが、Minoanの取り組みによって、導入ハードルを下げることで、宿泊施設パートナーの獲得に成功しています。

Minoanは2022年2月時点で、160を超えるブランドを製品提供のパートナーとし、80以上の物件の1800スペースで体験型コマースを展開しています。

また2022年2月に500万ドル(約5.5億円)をACCEL(シリコンバレーの老舗VC)をリード投資家として資金調達を行いました。現在はアメリカでの展開となっていますが、コロナ禍においても徐々に海外旅行需要が戻ってきているため、宿泊施設における体験型コマースプラットフォームがさらにグローバルに展開されることが期待されます。

インテリアコーディネートを自在に: SpaceJoy

新しくインテリアを購入しようと思うとき、部屋を見回して、頭の中で購入後のイメージを想像してみることはないでしょうか。そして実際に購入し届いてみて、本稿の冒頭の通り購入前後にギャップが生じることがあります。とくにECでインテリアを購入する場合、大きさや色味や部屋との相性など、組み合わせが非常に重要になります。しかし、インテリアはアイテム単体を見ても正確に組み合わせを想像することは難しく、それがECで容易に購入できないハードルとなっていました。

これまでのインテリアECでは、上記の問題に対して、希望のテイストを実現できるデザイナーとユーザをマッチングさせ、ユーザの部屋の間取りや写真をデザイナーに送付し、デザイナーが希望に沿ったインテリアコーディネートを提案することで解決を図ってきました。一方でデザイナーを雇うと時間も費用(一般的に数万円)もかかる上、デザイナーも完璧にユーザの頭の中のイメージをくみ取れるわけではないため、思ったものと違う提案が出てくることもあります。これに対し、リアルタイムなインテリアコーディネートシミュレーションによって問題解決を図ろうとしているのがSpacejoyです。

Spacejoyは、各インテリア製品を独立した3Dオブジェクトとして扱い、部屋の模様、椅子、テーブル、ライト、絵画、鏡、タンスなどありとあらゆるインテリアを組み合わせて部屋全体のシミュレーションができるようになっています。一からすべてを選択する必要はなく、Sapcejoyが用意するプリセットのインテリアコーディネートのスタイルを選び、そこから変更したいインテリアを自由に差し替えられます。

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部屋のインテリアがすべてオブジェクトで、自由に商品を切り替えてインテリアコーディネートをシミュレーションできる Image:
部屋のインテリアがすべてオブジェクトで、自由に商品を切り替えてインテリアコーディネートをシミュレーションできる Image: Spacejoy

Wayfair、Pottery Barn、Crate  & Barrelなど主にUSを中心に展開する35以上のリテイラーとパートナーシップを組み、Spacejoyデザイナーチームがパートナーの製品を組み合わせ、多数のプリセットのインテリアコーディネートを提供しています。気に入った商品についてはそのままECサイトで購入ができます。

Sapcejoyの売上は24ヶ月で10倍の約500万ドル(5.5億円)に到達しており、創業者によると次の18カ月でさらに10倍の成長をすると推測されています。

Spacejoyは2022年2月に400万ドル(約4.4億円)をACCELをリード投資家として資金調達を行いました。この資金を元に上記の10倍成長するプランを実現させていくと思われます。

おわりに

今回は「体験型コマース」についてとりあげました。近年では、b8taのように店舗で売らずECへ誘導する「店舗のショーケース化」が進んでいます(日本では丸井が売らない店舗で売上を伸ばすという事象が起きています)が、依然としてほとんどの製品は店舗で少し触れる程度で、実際のユースケースを体験できるわけではありません既存アプローチではまだ購入前後の体験ギャップが存在しています。

今回取り上げたMinoanの事例では、製品を体験できる場所(ショールーム)をプラットフォームとしてホテルやAirBnBなどに拡大し、ECへの購入へつなげていくというモデルでギャップを解消しようとしていました。また、Spacejoyの取り組みでは、自身の製品利用イメージをECサイト上でリアルタイムに次々に試していけるという点で、リアル店舗でもできない体験によりギャップを解消しています。

近年ではOMO(Online Merges with Offline)と呼ばれるオフラインからオンラインや、オフラインからオンラインをつなぐコマースのあり方が叫ばれていますが、今回取り上げた事例を見る限り、単純な送客の話ではなく、従来得られなかった「体験」をどのチャネルでどう実現していくかが非常に重要と考えられます。

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