Ximera Media Next Trends #28|Author: Ikuo Morisugi|Jan 24, 2022
はじめに
メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第28回となる今回は、2022年のWeb3どうなっていくかを著名VCやクリエイターの予測を参考に、ざっくり理解したいと思います。
今回は特に当該領域で定評のある下記3名の投資家・クリエイターの方々の2021年振り返り&2022年の変化を予測する記事を参考としました。
①Web3はまだキャズムを超えていない
年末記事でも取り上げましたが、2021年の後半に引き続きWeb3の盛り上がりは多くのVCやクリエイターが予想しています。PackyさんやRexさんはともに「Web3はまだキャズム(アーリーアダプターを超えて一般層に普及していく谷)を超えていない」と述べています。Web3がキャズムを超えるには主に2点で、複雑さの解消、適用領域の拡大が求められます。
複雑さの解消
Rexさんは「多くの人々がWeb3が存在していることを知らない。なぜならWeb2はフロントエンド革命だったがWebはバックエンド革命だからだ」と述べています(※Jack DorseyさんのWeb3に関するTweetに対してイーロン・マスクさんの「Web3を見たことがある人はいますか?。私は見つけられない。」とTweetしたことに掛けていると思われます)。
ここでは人々がWeb3の存在を知らないことは問題ではなく、知らなくても使える状態になってないことを問題にしています。Web2では人々はHTTPの仕組みを知らなくてもインターネットを使えますが、Web3ではそういった状況にまだなっていません。理由は明白で、Web3ではウォレットやトークンなど特有の仕組みや専門用語が飛び交い、使いやすいとは言い難いインターフェースを理解することが必要で、現状とても敷居が高いです。筆者は一般の方よりもほんの少しだけ暗号資産やWeb3について知識や経験があると考えていますが、いくつかのWeb3のサービスの利用経験を経ても依然利用ハードルは高いと感じています。
DAO(Decentralized Autonmous Organization: 分散自律的組織)も、本来民主主義を取り戻す装置として機能するものですが、Rexさんによると多くのDAOでは実際のところ投票率は低いそうです。多くの人々は裏側の仕組みまでしっかり理解してまでサービスやシステムを使いたくないのです。こうした複雑さに対して抽象化が必要であり、それを提供できる企業やコミュニティが信頼を得ていくと考えられます。
適用領域の拡大
Packyさんは、Web3を分散自律化と検閲への抵抗としての概念としてではなく、ガバナンスとインセンティブの実験の場としてみなすことが重要と述べています。また、これまでのWeb3はビットサイド(デジタルアイテムの所有、見知らぬ人とコミュニティを形成)に大きく焦点があたっていましたが、2022年はWeb3が適用領域を広げ、ヘルスケアや気候などの課題に有意義な影響を及ぼしはじめる年だと予測しています。既に多くのDAOやDAO用のツールが立ち上がり、社会実験のようなことが行われています。合衆国憲法の原本を入札する、土地を共同所有する、ファーストフードフランチャイズを購入する、など多種多様なDAOが立ち上がっています。こうした実験から、ヘルスケア、気候変動、絶滅危惧問題など、社会課題に対するメカニズムの種が立ち上がってくる可能性があります。一見馬鹿らしく見える取り組みが最終的には社会問題解決につながることは歴史上も繰り返されています。社会問題解決につながることで、Web3が一般の人々の関心につながることは間違いないでしょう。
このように2つの問題が解消されることで、2022年にWeb3がキャズムを超える瞬間が来ることを期待したいです。
②Creator Economyにはまだ問題がある
Li Jinさんは、2022年もさらにクリエイターの影響力が拡大すると考えています。背景としては未だに多くのクリエイターが報酬を正しく得ることができない現状にWeb3が貢献すると期待しているからです。
現状、富は一部の強いクリエイターに集まってしまっています。例えば、Spotifyのストリーミングロイヤリティの90%は、ミュージシャンの上位1.4%に支払われます。Twitchでは上位1%のストリーマーが、すべての収益の半分以上を獲得し、ポッドキャスターの1%が、ポッドキャスト広告の収益の大部分を占めています。
多くのストリーミングは広告収益が主な収益源であり、視聴数に応じて分割されるビジネスモデルです。クリエイターは多数のユーザを獲得し、広告主に魅力のあるコンテンツを作る必要があり、ニッチで深いコンテンツはネットワーク効果が働かず、十分な収益を稼ぐことが難しい状況にあります。1000人のTrue Fanを集めよという言葉がありますが、1000人集めようにも、よっぽどの強いコンテンツがない限り読者はあくまで消費者であり、自律的なインセンティブをもって参加する動機がありません。
この状況を打破できる可能性があるのが、Web3です。Web3によって、NFTコンテンツによるオーナーシップの共有、トークンの発行によるインセンティブ、DAOによる共創的なコミュニティ運営が実現できます。2022年はWeb3がCreator Economyに入り込み、よりニッチなコンテンツやクリエイターでも、自立的運営が可能となることが期待されています。
③オーナーシップエコノミーへの移行
Li Jeanさんは、「Attension EconomyからOwnership Economyへ」という言葉で、今後のCreator Economyに起こる変化を言い表しています。Attensionとはすなわちトラフィックのことであり、注目を集めることです。これまでクリエイターは、SNSや動画サイトなどプラットフォームに依存し、自身のアカウントやフォロワー、コンテンツは所有していませんでした。TwitterからFacebookにアカウントやデータは移行できませんし、Banされればすべてを失います。ただその代償にAttension(ユーザからのトラフィック)を得て、広告収入やサブスク課金に変えることでマネタイズしてきました。
一方でOwnershipとは「所有する」ということで、クリエイターはアカウントやコンテンツに所有権を持ち、他のプラットフォームに移転させることができるようになります。さらにそれだけにとどまらず、トークン、NFT、DAOを活用して、(1) クリエイター自身が価格決定力を持ち、(2)クリエイター支援を投資行為化し、(3)プログラマブルにコラボーレーションを行い(4)プラットフォームとコミュニティでコンテンツを共同所有する ということが可能になります。
Web3によって、所有の概念が大きく変わるため、AttensionからOwnershipへの移行が可能になり、クリエイターエコノミーはWeb3オープンスタンダードな世界へ変わっていくことが期待されます。
例えば音楽分野のSoundというWeb3スタートアップは、アーティストが楽曲をNFT化し、先行して聴ける権利をListening Partyという形で販売することで収益を得る、一連のコミュニティを作る支援をしています。楽曲を購入したファンは楽曲の中にタグを埋め込むことが可能で、例えばある曲の1分20秒の部分に「このサビが最高」といったコメントを埋め込むことができます。NFTのトラッキング機能により楽曲を転売するとそのタグも消えるといった仕掛けが入っており、ファンのエンゲージを高めることができるようになっています。これは(1)アーティストが楽曲の価格を設定し、(2)楽曲の一部をファンがNFTで所有し、(3)アーティストとファンがタグづけなどプログラマブルにコラボレーションし、(4)NFTはファン・アーティスト・マーケットが共同所有する という上記で説明された4項目を実現させています。このようにWeb3に早期に取り組んだアーティストは、早くもSpotify以外にマネタイズできる形が出てきているので、Li Jinさんが書いていることは現実に起こりつつあります。一方で、これもクリエイターやユーザのアーリーアダプターがうまく時代に適応しているだけで、レイトマジョリティにも同じ状況が起こるかはまだ不明な部分があります。2022年にはさらにWeb3関連のサービスやコミュニティが立ち上がるはずなので、そこに注目したいと思います。
④Ximera Media Next Trendsが注目する7分野のサービス
最後に筆者が今年注目したいWeb3関連のスタートアップやDAOやトークンを7分野から選びました。過去に本連載で紹介したものや既に大きな知名度があるものが含まれておりますが、いずれもWeb3を実装したサービスであり、「複雑さの解消と適用領域の拡大」を経て今年さらに存在感を増していくのではないかと考えています(まだ紹介できていないサービスについては今後の連載の中で取り上げていきたいと思います)。
おわりに
2022年に期待されるWeb3関連トレンドをまとめてみました。今回取り上げた3名の方はみなキャピタリストであり、Jack DorseyさんのTweetの通り、Web3関連のスタートアップやDAOに既に投資をしています。Web3が普及することが当然投資リターンへつながるわけなので、ポジショントークと言われても否定できません。一方で、アーリーアダプターとして利益を享受するだけではなく、Web3の普及へ向けた課題と解決のシナリオを強烈に意識している点は見習いたい部分で、ただのポジショントーク以上の熱量を感じます。今回の記事の中で、彼らが「ニッチな世界のもので終わらせない」、「適用領域を大きく捉える」、「具体的に起こる社会変化を創造する」、という部分で各々の著者が独自の観点を持って解釈していることがおわかりいただけたかと思います。これは日々のビジネスへの向き合い方として参考にすべき大事な姿勢で、筆者も身が引き締まる思いでした。
本連載がみなさまの多少のお役に立っていましたらなによりです。今年もどうぞ株式会社キメラおよびXimera Media Next Trendsをよろしくお願いいたします。
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