Arc XP主催「Connect London」から得られる学び|2025.09.24(原文)
今日のデジタル視聴者の期待を再解釈することから、編集ワークフローへのAI組み込みまで、「Connect London」で開催された2つの注目セッションでメディアを再構築する力について議論された。
Arc XPはAWS、Press Gazette、Bauer Media Groupを招き、現代の視聴者のニーズに応えるために必要な要素、そして優れたユーザー体験の提供が成功の核心である理由を話した。
セッション1:オーディエンス2.0の台頭 ― メディアが現代のデジタル消費者の要求に応える方法
Arc XPのCTOジョー・クローニーがモデレートしたこのパネルでは、AWSのマット・カーター氏とPress Gazetteのドミニク・ポンスフォード氏が、パブリッシャーが次世代のデジタル消費者に対応するためにどう進化すべきかについて活発な議論を展開した。
オーディエンス2.0とは何か?
カーター氏によれば、この新たなオーディエンスは4つの特徴によって形作られている:
- フォーマット:現代の消費者は基本的にオムニチャネルである。印刷物、ポッドキャスト、動画など、プラットフォームをシームレスに移動する。
- アテンション獲得の熾烈な競争:注目を集め、維持することがかつてないほど困難になっている。彼らが求めるのはAIを活用したオムニチャネルコンテンツだ。
- プライバシー優先の期待:これは逆説的だ——人々はプライバシー侵害を感じさせないパーソナライゼーションを求めている。
- 本物志向:人々はAIコンテンツを即座に見抜く。人間の手が加わった部分が依然として重要だ。AIが浸透した世界では、「リアル」なコンテンツが信頼を築く。
Z世代にリーチするには異なる戦略が必要
ポンスフォード氏は、Z世代がパブリッシャーのサイトに直接アクセスしない点を強調した。代わりに、アプリやソーシャルフィードを通じて、手軽に消費できる習慣性のあるニュースに触れている。「継続型ニュース消費が顕著なトレンドだ——『情報通になった』と感じる最低限の量で満足する」と彼は述べ、Duolingoのようなゲーミフィケーションプラットフォームとの類似性を指摘した。
音声・動画コンテンツは伝統的な印刷媒体のパブリッシャーでも拡大を続け、Google Discoverやニュースレターといった見過ごされがちなチャネルも勢いを増している。しかし新たな流通モデルへの適応は、アルゴリズムの課題と向き合い、質を犠牲にしてクリック数を追い求める誘惑に抗うことを意味する。
AI、感情、そして倫理の綱渡り
カーター氏はユーザー理解とそのニーズに基づくコンテンツ(emotionally intelligent content)を作る際のAIの役割について「重要なのは、人が何をするかではなく、そのコンテンツがどのように感じさせるかだ」と述べた。マルチモーダルを活用することでAIは感情フィードバックに基づいてコンテンツをカスタマイズし、エンゲージメントを高められる。
しかしその力には責任が伴う。ポンスフォード氏は、脆弱なユーザーがAIによるターゲティングで過去に被害を受けた事例を挙げ、リスクを警告、カーター氏もガードレールの重要性を強調した:「搾取を伴わない有用性——それが目標だ」
要点:オーディエンス2.0への対応とは、コンテンツ量を増やすことではない。ユーザーが置かれた状況に応じた、本物で倫理的、感情に配慮した体験を創り出すことである。
セッション2:AIによるユーザー体験の変革 ― Bauer Media Group マルセル・ゼムラー氏による基調講演
バウアー・メディア・グループ(Bauer Media Group)の最高製品責任者マルセル・ゼムラー氏は力強い基調講演で、議論の焦点をオーディエンスの期待から、それを満たすために構築されたツールの背後にあるユーザー体験へと転換した。彼のメッセージはこうだ:AIの効果は導入状況に依存し、導入の成否は使いやすさに懸かっている。
UXがAIの成否を分ける決定的要因である理由
「AI導入の最大の脅威は規制や倫理ではなく、悪いUXだ」とセムラー氏は明言した。複雑すぎるAIツールは、とくに時間制約のある編集チームにおいて、実運用を阻害すると主張した。
代わりに、AIはスマートフォンのように感じられるべきだ——シンプルで直感的、そして即座に役立つものであるべきだと。
AIの未来は目に見えず、組み込まれる
セムラー氏が描く未来像では、AIがワークフローにシームレスに織り込まれ、ユーザーは存在にほとんど気づかない。この理念が、バウアー社内で編集作業の舞台裏でアシスタントとして機能するツール、TonyやEVAの開発を牽引している。
「AI自体が製品であってはならない。価値はそれがもたらす結果にある」と彼は語った。派手なチャットボットや単発のウィジェットではなく、コンテンツ制作者をアイデア出しからSEOまで支援する、能動的で組み込まれたAIに焦点を当てるべきだ。
スピードだけでなく、スマートなワークフローを
タスクを加速させるだけでなく、次の段階のAIはタスクを予測すべきだ。「革命はGPTインターフェースにあるのではなく、『その見出しを仕上げるお手伝いをしましょうか?』と、あなたが頼む前に提案するAIにある」と とセムラー氏は説明する。
要点:出版業界におけるAIの未来は、思慮深い統合にかかっている。ツールが直感的で目立たない存在であれば、生産性を向上させるだけでなく、コンテンツ制作の根本的な形を変える。
全体像:体験こそがすべて
両セッションを通じて、一つのテーマが鮮明に浮かび上がった:現代メディアにおける成功は、技術を積み上げたりコンテンツ量を増やしたりすることではない。重要なのは、秀でた体験を構築すること——コンテンツを消費するオーディエンスと、それを制作するチームの両方に。
Z世代の進化する習慣を理解するにせよ、背景に溶け込むAIツールを設計するにせよ、メディア組織は包括的に考える必要があります。この新たな章で勝者となるのは、コンテンツを単なる製品としてではなく、信頼・関連性・利便性に基づく関係性として扱う方たちです。
株式会社キメラは米ワシントン・ポスト紙が開発した先進的なコンテンツ・プラットフォームである「Arc XP」と日本展開における戦略的パートナーシップ契約を締結しました。伝統あるニュース紙自らが開発した先進的なCMSを通して、日本のパブリッシャーに現代のデジタルメディアに必要な優れたワークフローを提供し、情報価値の最大化を支援していきます。もっと詳しく >