Ximera Media Next Trends #7
@February 24, 2021
はじめに
メディアのトレンドについて米国のスタートアップを中心に取り上げるマガジン「Ximera MEDIA NEXT TRENDS」の第7回となる今回は「ニューローカル・ニッチメディア」について現状のトレンドを見ながら、未来を考えていきます。
メディアの信頼について取り扱った前回のポストでもご紹介しましたが、近年新たに出現してきたメディアにはアルゴリズム、またはその志向や信条により情報の局所化・断片化が起こりやすい状況があります。前回はそれらにより情報の偏りとその修正が難しくなる点を挙げましたが、今回は特定の領域に情報を絞り込むことによって、ユーザ需要を満たしポジティブな傾向が見られるニューローカル/ニッチメディアを取り上げます。
本稿ではニュースメディアを中心に、1. 地元特化型、2. カルチャー特化型、3. ソーシャルメディア経由型の観点でニューローカル・ニッチメディアの動きをご紹介していきたいと思います。
1. 地元特化型
ローカル・ニッチメディアの特徴の1点目、「地元特化型」についてです。2020年はローカル性の高い重要な出来事が多く起こりました。近所の新型コロナウイルス感染状況、Black Lives Matter運動では近所のどこでデモや暴動が起こっているのか、アメリカ大統領戦では地元での投票方法や開票状況がどうなっているかなどです。その中で人々が知りたいローカルニュースを正確にリアルタイムに手に入れる需要が高まりました。
ユーザが住む地域を中心としたローカルニュースのアグリゲーションを配信するNews Breakは「地域ニュース」(Local News)のブロックが、トップページのファーストビュー直下にあり、ローカルニュースを徹底して伝える姿勢を明確にしています。
ローカルニュース需要をうまく捉えたNews Breakは近年大きくユーザを伸ばすことに成功し、2021年1月時点で2000万のDAU、4500万のMAUを抱えるまで成長しました。また直近のSeries Cラウンドで1億1500万ドル(約115億円)の資金調達を行い、さらなるビジネス拡大が期待されています。News BreakについてはXimeraの別記事でも説明していますのでぜひこちらも読んでみてください。
次に興味深い動きをしているのが2020年に生まれた新しいメディアのLookout Localです。Lookoutはローカルメディアの情報やコミュニティ形成がかつてないほど重要になっていく中で、あるべきローカルメディアの姿を模索しています。
Lookoutは、ローカルメディアながら寄付から賄われるのみではビジネス的な成功に必要なコントロールが失われると考え、利益ではなく社会貢献を最重要視するパブリックベネフィット・コーポレーション(PBC)と自らを位置づけています。
Lookoutは各都市でのローカルメディアを立ち上げていく戦略の第一弾として、Santa Cruz(Californiaのサーフィンで有名な都市)をとりあげ、Lookout Santa Cruzを立ち上げました。スタッフは報道チーム8名を含む15名で成っており、メンバーシップとダイレクト広告から半分ずつの収益を上げ、徐々にメンバーシップの比率を高めていく予定としています(出典:DIGIDAY)。
メンバーシップはサブスクによる有料コンテンツの購入というよりは、参加したメンバーが長期的にパブリケーションを中心としたコミュニティへの貢献を行うこと自体を価値としています。またLookout Localは70%以上の支出をジャーナリストへ充てており、メンバーシップ型のサブスク収入がその質と量の確保に非常に重要な役割を果たしています。
2. カルチャー特化型
ローカル・ニッチメディアのジャンルの2つ目が「カルチャー特化型」のメディアです。こちらは地域にも関係がありますが、ブラックカルチャーや南アジア出身者の活躍など、「文化」をテーマの中心に据えたメディアです。
BlavityはBlack Cultureにフォーカスを置いたスタートアップメディア企業です。Blackコミュニティに関するニュースを提供するBlavity Newsを筆頭に、ハリウッドにおけるBlack Celebritiesに特化したShadow & Act、黒人が運営するおすすめのお店/旅行先を紹介するTravel Noire、ミレニアム世代の黒人女性をターゲットにした21ninety、カンファレンス運営のAfroTechなど幅広く5つのブランドを運営しています。
ビジネスモデルはブランド間でのアドネットワークおよびディスプレイ広告、スポンサー記事/ビデオ、Black Communityにおけるマーケティングキャンペーン、イベント運営を主としています。
一番アクセスが多いBlavity Newsは200万のユニークユーザ、中央値7万5000ドルの収入がある18-34歳がユーザ属性で、65%が女性、35%が男性ユーザ。Black Cultureと関連が強いエンターテイメントニュースと平行して、Black Lives Matterが展開される6年前から黒人に対する不平等をトピックとして多く扱っています(出典:blavity)。
Afro Techブランドでは、年に一度Afro Tech Conferenceと呼ばれる黒人にゆかりのあるFounderやエンジニア、スタートアップが集まるイベントを開催しています。2019年のイベントは4日間開催され、60人以上のスピーカー、1万人が来場する大きなイベントとなっています。そのほかにグッズのeコマースも手がけ、収入源を多角化しています。
次にご紹介するのがThe Juggernautです。The Juggernautは南アジア(インド・パキスタン・アフガン・ネパール・バンガロール・ブータンなど)と世界の南アジア出身の人々に関する情報発信を行うメディアです。
現在南アジアは、インドを中心とした経済発展やインド国内で数多くの南アジア出身創業者を輩出したこと、さらにはグーグル、マイクロソフトというようなグローバル企業のトップにも出身者が並んでいることに伴って注目が集まっている地域です。The Juggernautはグローバルに伝わりやすい視点で、現地ローカルのスタートアップ、文化、政治、経済などをテーマに記事を提供しています。
ビジネスモデルは、 月額9.99ドル(約1,000円)、年間契約で月額3.99ドル(約500円)、生涯契約で249.99ドル(約2万5000円)と3つのTierの有料サブスクを収入源としています。こちらもコロナ禍においてユーザ獲得がうまくいっており、前月比20〜30%ずつ有料サブスクユーザを伸ばしています。
3. ソーシャルメディア経由型
最後にメディアとは少し異なるのですが、ソーシャルメディアを経由したニュース消費について新たな動きをご紹介します。まず、メディアニュースの取得ソースを見たとき、GenZ層とミレニアル層はFacebook、Instagram、YouTube、TikTokなどでニュースを見つけ消費していることがわかります。
アメリカでは広告をメインの収益元にしていたメディアの多くが、コロナ禍における経営不振により大量のレイオフ実施、Black Lives Matterで表層化した大手メディア内でのレイシズム(例えば、ニューヨーク・タイムズが社説で軍によるデモ制圧を発表して炎上し、時間あたりの解約数が過去最大となりました)など、現代はかつてないほどメディアの分断が起こっています。
そのため人々は信頼できるニュースソースをニュースレターやソーシャルメディアを使ってアカウントベースで取得する傾向が強まってきているなか、存在感を増しているのがInstagramでのニュース閲覧です。とくにインフォグラフィックを用いたInstagramのニュースによって、人種、政治、外交問題を取り上げ、新しいニュースの見せ方を提供するメディアや若い世代のジャーナリストが出てきています。
例えば、spicy.zineは昨年起こったレバノン/ベイルートの爆発事故を10枚のインフォグラフィックスでうまく見せています(合わせて本文でも重要部分のサマリと画像では機能しないリンクを掲載)。
特徴的なのは、明るい色、太いフォント、わかりやすい画像など、aesthetic(エステティック)と表現されるInstagramで好まれる美しさにオプティマイズされており、ライターとデザイナーが持つ技を使ってジャーナリズムを体現していることです。
特にGen Zを中心とした若い世代は大手メディアで報道されていることと自分の身の回りで起きていることの違和感に気づき、自らインフォグラフィックの作り方を学び、ソースによって論拠をサポートした上で、真実を伝えることをモチベーションとして投稿しています。
伝統的なニュースメディアと違い、草の根で独立系ジャーナリストが勃興している状況のため、ファクトチェックなど、信頼性については今後さらに検証される必要性があると考えられますが、新たなニュース消費の形として非常に興味深い動きです。
おわりに
本稿ではニューローカル・ニッチメディアの需要の高まりとその出現について、いくつかのスタートアップやジャーナリズムの例をご紹介しました。ソーシャルメディアがニュース購読の起点となっている一方で、ローカル・ニッチメディアは特定の地域や文化に高い関心を示す層にフォーカスして持続的なビジネス運営ができる可能性を秘めています。