ソーシャルメディアを主戦場とするクリエイターは、コンテンツ製作の爆速化を迫られている
By キメラ|Ximera Media Next Trends #15| @July 7, 2021
はじめに
メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第15回となる今回は「コンテンツ製作の爆速化」について紹介していきたいと思います。
近年Creator Economyが広がるなかで、クリエイターは世界でプロ・アマ含め5000万人以上いると言われています。競争環境の激化によって、各クリエイター達はユーザにエンゲージする品質を維持しながら、爆速にコンテンツを製作する必要に迫られています。メディアやクリエイターによっても違いますが、収益化の観点から、更新頻度はYouTubeでも週2〜3本以上、TikTokに至っては1日に数本投稿されることも珍しくありません。ソーシャルメディアを主戦場にするクリエイターはこの更新頻度を維持するため、コンテンツ製作の爆速化を迫られているのです。
またリアルな製品を扱う物販についてもその商品製作が爆速化しています。たとえば、中国発のファッションECを展開するSHEIN(シーイン)は、データサイエンスとサプライチェーンの最適化により、新作のデザインから生産までなんと3日という驚くべき製作スピードを誇り、SHEINはこれによって毎日1万点以上の新作投入を可能にしています。トレンドを押さえながらも製作を爆速化したことによりSHEINの2020年の売上は100億ドルを突破、App Storeのショッピングカテゴリーにおいて56カ国で1位、Webサイトでもトラフィックや平均滞在時間で世界トップ(2021年6月30日現在)となり、大きくビジネスを成長させています。
このようにデジタルでもリアルでも爆速かつ質の高いコンテンツを製作することが必要な状況です。一方で、一般的な企業や個人クリエイターはコンテンツ製作やマネタイズのために、著作権管理、スポンサー獲得、各種交渉などバックエンドでやらなくてはいけないことが数多くあります。資本も人数も桁違いのテック企業と同じようなスピードを実現するのは困難です。そこで今回はこうしたクリエイターやブランドが直面するタスクを軽減し、コンテンツ製作の爆速化を図るためのスタートアップの事例を紹介します。
リアル製品のコンテンツを爆速に:Soona
リアルな製品を作るにしろ、デジタルコンテンツを作るにしろ、惹きのある画像や動画は欠かせません。とくにリアル製品を販売する物販ではその製品の良さをオンラインでビジュアルも含め訴えかける必要があります。最近では大手のブランドや新興D2Cブランドだけではなく、ソーシャルメディアのインフルエンサーがオリジナルブランドのリアル製品を出すことも珍しくありません。
そういった需要の高まりを受け、各ブランドやクリエイターが自社の製品の美麗な画像・動画の製作を容易にするスタートアップが登場しています。SoonaはUSのデンバーを本拠地とするスタートアップで、Soonaに自社の製品を発送すると、希望したオプションに応じて数十枚の画像や動画をプロスタジオ品質で撮影してくれます。また撮影された画像や動画は気に入ったものだけを選んで料金を支払うことができます(画像49ドル/枚、動画93ドル/クリップ)。こちらでこれまで製作された画像を見ることができます。
Soonaがユニークなのは、製品の画像/動画という特注品を製作する業務をeコマース化している点です。従来、ブランドマネージャーがクリエイティブスタジオと何度も話をして進めていた業務を、注文の段階でパッケージ化することでeコマース化に成功し、注文してから24時間以内に製作が完了させることで大きく効率を上げています。製作されたコンテンツについては、Soonaの担当者と個別に連絡をとり、背景色やキャプションを変えるなど調整作業を経てさらに求める品質へ近づけることも可能になっています。Soonaはこのモデルによってコンテンツ製作の爆速化をサポートし、かつ一定の品質も担保するということに成功しています。
数年前からのD2C市場の伸びに加え、コロナ禍でもリモートでコンテンツ製作ができるSoonaのサービスは需要が増え続けており、2021年6月現在では4000社のクライアントがおり、売上は2020年から400%増加しました。Soonaは2021年4月に約1000万ドル(約10億円)の資金調達も行い、今後さらに効率的にコンテンツを製作するためのサブスクベースのプロダクト開発も行っていくとされています。
コンテンツ二次利用を爆速に:Catch & Release
たとえば、自社の製品・サービスをユーザが利用しているようすをプロモーション動画に使う、ニュースとして惹きのある画像・動画コンテンツをソーシャルメディアなどのオープンインターネットから探してくるなど、第三者が製作したコンテンツを二次利用することはコンテンツ製作のスピードアップの観点で有効な手法です。一方で著作者が存在するコンテンツについては、著作権の確認、著作者との交渉、適切なライセンス管理など商用利用においてそのハードルは低くありません。著作権関係の処理は複雑であり、個人クリエイターや中小企業のみならず大企業であってもかなり骨が折れる作業で時間と労力がかかります。その問題を解決しようとしているのがサンフランシスコを拠点とするスタートアップのCatch & Releaseです。
Catch & Releaseでは、インターネット上の画像や動画を自社で使いたいと思っているビジネスユーザ(主に広告代理店やブランド)がコンテンツを発見した際に、二次利用の可否、利用できるライセンスの範囲確認、ライセンス可能なコンテンツ購入(免責補償付き)を一気通貫で行うことができます。まず、Catch & Releaseが提供するChrome Extensionをインストールし、Web上で使いたいコンテンツを探します。使いたい画像・動画を見つけ、Chrome Extensionでチェックすると二次利用が可能なコンテンツなのか判別できます。利用が可能なコンテンツの場合においても、すべてのコンテンツが使えるわけはありません。たとえば動画なら何分何秒から何分何秒までを使いたいのか、そこに商用利用できない音楽やロゴなどが登場していないかチェックする必要があります。このクリアランスと呼ばれる著作権管理の工程も、Catch & Relaseへ任せることが可能です。面倒な交渉事についても、Catch & Relaseが著作権者へ連絡をとり、オリジナルのリクエストに対して交渉を行ってくれます。ユーザは最後にライセンス処理が完了したコンテンツをeコマースのようにカートに投入して簡単に購入することができます。
著作権者側(とくにソーシャルメディアで画像や動画を挙げているクリエイター)もソーシャルメディアのアカウントをCatch & Releaseが提供するプラットフォームとリンクさせることで、自身のコンテンツが商用二次利用される機会を知ることができ、その交渉やライセンス料の支払いまで一括してCatch & Releaseに任せることができます。これまでにCatch & Release は300万ドル(約3億円)以上を著作権者へ支払っており、マネタイズの実績も出はじめています。
このCatch & Releaseの仕組みによって既存コンテンツのキュレーションによって新たなコンテンツ製作が可能になっています。たとえばTikTok、Samsonite、honey Baked Ham CompanyなどがSoonaの顧客として、ソーシャルメディアに上がっている動画を組み合わせ、新たな広告やプロモーション動画を製作しています。プロフェッショナル動画との組み合わせやユーザ動画のみの組み合わせなど、構成のパターンもさまざま考えられます。コンテンツ製作のスピードアップもさることながら、利用できるソースの多様性によって、製作できるコンテンツの幅も拡がりそうです。
コンテンツスポンサーシップを爆速に:Curastory
最後にコンテンツ製作のマネタイズ手法のひとつであるスポンサーシップについてもスピードアップを図っている事例をご紹介します。スポーツや格闘技など肉体を駆使するジャンルのクリエイターはその派手なパフォーマンスを動画に撮り視聴者を魅了しています。一方でそのコンテンツの製作はアスリートとしての練習も含め、多くの時間と労力がかかります。また無名な選手やスポーツの場合はスポンサーが付くことも少なく、動画の広告だけではマネタイズが難しい状況にあります。こうしたアスリート系クリエイターの動画製作とスポンサーシップのマネタイズをサポートするのがニューヨークのスタートアップであるCurasotryです。
アスリートがスポンサー付き動画を撮る際にハードルとなってくるのが、1. スポンサーを見つけ適切に契約管理ができること、2. スポンサーが求めるレベルに必要な高品質な動画を撮影できることの2点です。1. に関しては、Curastoryがさまざまなブランドと提携しており、アスリートがそのなかから好きなブランドを選ぶことが可能になっています。またCurastoryが仲介することでスポンサーシップ契約が締結され、アスリートがマネタイズを模索することができます。2. については、 Curastoryから動画編集ソフトウェアおよび動画撮影用の機材一式が35ドル(約3500円)からレンタルできます。これらのソリューションによって撮影をはじめるまでのハードルを大きく下げています。
動画編集ソフトウェアでは、自動サブタイトル生成、各ソーシャルメディア向けのリサイズ、9万曲を超えるBGMや効果音など、動画編集に必要な機能が提供されます。動画が完成するとCurastoryのソフトウェア経由でソーシャルメディアへ動画を投稿、その視聴数をCurastoryがトラッキングし、数に応じてスポンサー広告料がアスリートへ支払われるというモデルになっています。
スポンサーシップの形は、マーケットプレイス上でブランド側がアスリートの動画に競売でbidをつける(最低30ドル/CPMから)Video Bidding、動画内でアスリート自身がブランドや製品を紹介するCustomized Ads、4ヶ月以上ブランドからスポンサーシップを受けれるSponsorships の3つがあります。
Curastoryはアスリートのみならずアウトドアアクティビティなどを中心にエンタメ要素の強いYouTuberやTikTokerなどにも同様の仕組みを広げようとしています。今後ほかのジャンルでも適用できる余地があれば、スポンサーシップコンテンツがさらに増えていく可能性もありそうです。
おわりに
今回はコンテンツ製作の爆速化を図るためのスタートアップの事例を取り上げました。大手ブランドや新興D2Cブランドはもちろん、デジタル企業やクリエイターがオリジナルのブランドを製作することも少なくなく、そのプロモーションを後押しするコンテンツ製作はさらに増えていくと思われます。またブランドとクリエイターの関係性はより近くなり、スポンサーシップやコンテンツの二次利用についてはマーケットプレイスのような形で標準化が進んでいきそうです。
今回ご紹介した事例は主にブランドやクリエイターのプロモーション/マーケティング用のコンテンツ製作の範囲であり、製作されるあらゆるコンテンツ種別をすべて網羅できているわけではありません。プロモーション/マーケティングに限らないほかのコンテンツについても考え方、手法、テクノロジーが進化し、爆速化や高品質化が起こっています。キメラでは、そうしたコンテンツ製作全般のトレンドについて今後トラックしていきたいと思います。
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