スタートアップによる書籍・出版のビジネスモデル変革
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スタートアップによる書籍・出版のビジネスモデル変革

Ximera Media Next Trends #8

Mar 15, 2021

はじめに

Ximera MEDIA NEXT TRENDSマガジンの第8回となる今回は「スタートアップによる書籍・出版のビジネスモデル変革」について現状のトレンドを見ながら、未来を考えていきたいと思います。

現代はユーザーの可処分時間の激しい奪い合いが起こっており、書籍・出版ビジネスもその渦中にいます。Fortnite、Minecraftのようなオンラインゲーム、YouTubeやNetflixに代表される長尺の動画、TikTokのような新興のバイトサイズコンテンツ、また最近ではClubhouseのような音声を中心としたメディアと、書籍・出版ビジネスも同じ土俵にいるのです。

一方で機械翻訳精度の向上、テキストの自動音声化など、テキストコンテンツは技術の進化により将来的に市場拡大の可能性を秘めている市場でもあります(テキストの音声化についてはXimera MEDIA TRENDSの第一回をぜひ読んでみてください)。

そこで現在、書籍・出版領域のビジネスでどのような変化が起こっているのか、本稿では具体的なサービスを見ながらUSのスタートアップが新たなビジネスモデルを画策している状況を確認していきたいと思います。

UGC系文学/ノベル:Wattpad

アマチュアやセミプロによる創作物は、古くは1700年代から二次創作が確認されており枚挙に暇がありません。デジタル化が進んだ近代日本では、1980年代のパソコン通信を使ったオンライン小説にはじまり、iモード時代にヒットを生んだケータイ小説が生まれ、人気作は出版社やテレビ局と連動したメディアミックスが図られることは当たり前になりました。そういったなか、UGC(ユーザー・ジェネレイテッド・コンテンツ)をサポートするプラットフォームが数多く生まれてきました。

そのUGCプラットフォームで世界最大級のユーザ規模を持つのがWattPadです。

出典:
出典:Wattpad

Wattpadには10億以上のストーリーがあり、9000万人以上の読者がいます。滞在時間は月に230億分(単純平均で一人あたり約255分/月)ほど。日本での知名度はそれほど高くありませんが、2021年1月にNAVERが615億円で買収し日本でも報道されたことは記憶に新しいと思います。

そのWattpadは、時代の変化にうまく対応することで書籍・出版ビジネスを拡大してきた好例と言えます。

先述したメディアミックスの拡大でいえば、WattpadはヒットしたUGC作品を映画化、ドラマ化、書籍化といったメディアミックスで活用する支援体制を整えています。これまでもNBC、Sony Pictures、Hulu、SYFY、Macmillanなどハリウッドスタジオ、配信プラットフォーム、出版社と提携することで、約1500のストーリーをメディア展開してきた実績があります。

課金は、アプリ内で利用するコインの購入を介して行われる仕組みで、ユーザーはそのコインを使って有料ストーリーを閲覧します。しかし、課金はあくまでライター支援の位置づけとなっており、大量のコンテンツを無料で見られることがユーザーベネフィットの中心です。

2017年からは、個別課金に加え月額課金のサブスクリプション Wattpad Premiumを開始。4.99ドル/月で、広告なし、オフライン視聴、ボーナスコイン、テーマ色のカスタマイズを提供しています。さらにプレミアムサブスクリプションであるWattpad Premium +では上記に加えて7.99ドル/月で、月に2つまで有料のストーリーを追加課金なしで読むことができます。

出典:
出典:Wattpad

さらに、ユーザインタラクションのあるテキストノベル(チャットフィクション)を作成・配信できるTap by Wattpadの提供、2019年にはWattpad Booksと呼ぶ出版部門を設立(2021年2月時点で30+の書籍を出版中)し、紙の書籍と電子書籍の両方を自社サイトで販売する体制も整えました。

Wattpadは紙の書籍からデジタルでの無料ストーリー・有料ストーリー、月額サブスク、新たなインタラクティブ機能まで、ユーザーが求める読書体験を幅広く提供していること、またオリジナルであるUGCをPGC(プロフェッショナル・ジェネレイテッド・コンテンツ)にコンバートする仕組みを作り、コミュニティを持続させつつコンテンツをマネタイズできるプラットフォームをうまく作ることでビジネスを拡大してきました。

バイトサイズ系文学/ノベル:Radish

次に紹介するのは、スマートフォン時代に必要とされる「バイトサイズ」でデジタル文学コンテンツを提供するスタートアップの事例です。

出典:
出典:Radish

Radishは1つのストーリーを数週間にわたって小出しに提供するスタイルの連載小説をアグリゲーション配信するサービスです。バイトサイズと呼ばれるスマホで短時間に行われる読書体験に特化しています。ハイペースでコンテンツが更新されることが同社の強みで、50エピソードのシリーズを1年で10シリーズ配信します。1日のうちに複数リリースしたり、多いものだと1日に5本配信するものもあります。

特に女性を中心としたターゲットセグメントを明確にする戦略が功を奏し、これまでの一番人気の物語は400万ドル (4.2億円)以上を稼ぎ出し、5000万人以上の読者を獲得、バイトサイズと言えども侮れない数字を作っています。

当初はUGCベースのコンテンツに重きを置いていましたが、2019年にはプロ/セミプロ作家を取りまとめてIP(知的財産)はRadishが握るRadish Originalsを立ち上げるまでに成長しました。RadishのCEOは「連載小説のNetflixになってオリジナル作品を作りたい」とTechCrunchに話しています。

課金モデルは個別課金型を採用、かつ20-30円ほどで1章ずつコインを使って購入するマイクロペイメントモデルです。最新のエピソードについては必ずコインを使っての課金が必要ですが、月額課金についても読み放題とはせず、月に200コインを9.99ドル(日本では1,100円。通常の69% off)で購入するモデルをとっています。さらに、古いエピソードについては1時間待つごとに新たにエピソードがアンロックされるなど、さながらソーシャルゲームのような仕様を取り入れることで、いわゆる無課金ユーザーをうまくエンゲージメントする仕組みを整えています。

このようにコンテンツに対して少額の課金を繰り返すモデル自体はアメリカよりもアジア(特に中国や韓国)ですでにコンテンツ消費スタイルとして定着していました。しかし欧米ではあまりそうした習慣はなく、Radishはアジアにヒントを得て立ち上げられ、成長してきたのです。

アナログ出版 x コミュニティ:Literati

本がありすぎて情報過多になり、選ぶのが難しくなっているなかでも、自身が信奉する人がおすすめする本はやはり読みたくなるものです。今まではおすすめを知る場、本を買う場、買った本の感想を共有する場はすべて別れていましたが、それを人を起点にした一箇所に集めたのがサブスク型の書籍キュレーションサービスを提供するスタートアップLiteratiです。

出典:
出典:Literati

大人向けにおすすめ本の推薦を行うサービスブランドであるLiteratiでは、ユーザーはステファン・カリー(NBA選手)やリチャード・ブランソン(Virgin Groupの創業者兼会長)などの著名人が本をおすすめしてくれる「クラブ」に入会します。毎月25ドル(約2500円。年間契約で月20ドルに割引)支払うと、著名人がピックアップした紙の本と著名人の本に関するメッセージが同包されて送付される仕組みです。子供向けのLiterati Kidsでは、専門家がキュレートした5冊が毎月送られてきます。しかし、この5冊は購入されたわけではなく、ユーザーは5冊の本の中から一週間以内に買いたい本を選びます。ほかはすべて返送され(返送料は無料、次月のスキップやキャンセルも可能)、選んだ本の分だけが課金されます(月額料金とは別途)。

大人向けのLiteratiのクラブによっては、Literatiのスマホアプリ内で本をピックアップした著名人本人や同クラブのメンバー、さらには本の著者ともチャットでコミュニケーションできたこともあります。これが有料メンバーシップ内でのみ展開されるエクスクルーシブな体験であるため、書籍とキュレーターである著者を基点としたオンラインサロンとなっていることが興味深い点です。

現在は著名人や専門家によるキュレーションがメインとなっていますが、インフルエンサーなどセミプロも含めたコミュニティ拡大をした場合、本のキュレーションのソーシャルネットワークになることで新たなコミュニティとビジネス機会を生み出す可能性がありそうです。

おわりに

本稿では書籍・出版分野において新たな体験やビジネスモデルを模索するスタートアップをご紹介しました。アナログ・デジタル問わず書籍・出版の分野ではまだ多くの可能性が溢れていると感じます。出版物のコンテンツ自体の提供価値は古くから変わっていないはずです。

今回ご紹介したスタートアップは、膨大に膨れ上がるコンテンツの中でどうディスカバリーを助けられるか、いかにユーザが求めている形/スピードでコンテンツを提供できるか、いかに多くのクリエイターを巻き込めるか、ユーザーが持つ課題をどう解決するかを徹底的に考え実行し続けることで、プロダクトマーケットフィットにたどり着いていると考えられます。こうした事例がほんの少しでも次世代のビジネス検討のお役に立てば幸いです。