Arc XP Connect NYCで掴んだこと/待つことは選択肢にない
2025.12.22 ArcXP(原文)
目次
- 脅威ではなく創造的なパートナーとしてのAI
- ローカルニュースの強力な武器としてのデータ所有権
- 保護、パーソナライズ、収益化
- 現実世界におけるAI
- エンゲージメントエンジンとしてのアプリ
- オーディエンスの所有権と信頼
- ワシントン・ポストのプレイブック
- Connect NYCが明らかにしたこと
数週間前、Arc XPは「Connect NYC」を開催、メディア業界のリーダーたちが一堂に会し、ジャーナリズム、AI、読者エンゲージメント、収益化の未来について率直な意見が共有される場となりました。
さまざまなセッションのなか、始終一貫していたのは、パブリッシャーは大胆であるべきで、実験に前向きで、何より読者のためにあるべき。さもなくば取り残されるリスクがあるということです。
脅威ではなく創造的なパートナーとしてのAI
Arc XPの最高技術責任者(CTO)であるジョー・クローニー氏は、AIがもたらす緊張感を率直に認めながら議論をはじめました。「本音をいうと……今後、AIが私たちの味方なのか敵なのか、まだはっきりわかっていないのです」。そのうえで、彼は息子との個人的なエピソードを紹介しました。「パパ、この先は仕事がなくなるんだ。なんでプログラミングを学ぶ必要があるの?」答えはシンプルでした。「AIツールを使いこなす最高の生徒になりなさい」
このセッションでは、AIがジャーナリストの代替ではなく、創造性の強化とワークフローの効率化を目的としていることがはっきりしました。Arc XPのAIエディターおよびインテリジェンスプラットフォームは、ストーリーテリングの質を高めつつ、人間がコントロールしつづけます。クローニー氏は、AIがハイパーパーソナライズされた体験や高度なモデレーションを通じて、より深い読者エンゲージメントを促進できる点を強調、「読者にプラットフォーム上で直接記事を読むように促す必要があります。それが読者を獲得する方法です」と述べました。
ローカルニュースの強力な武器としてのデータ所有権
米国東海岸にある都市のニュースメディア「The Baltimore Banner」のCTOであるビスワジット・ガンギュリ氏は、ローカルの出版社が大手テック企業から主導権を取り戻す必要性を強く主張しました。オーガニック検索やソーシャルメディアからのトラフィック減少に加え、決してコンバージョンに至ることのないAIボットによる訪問が増加するなか、同氏はファーストパーティデータの重要性を強調します。「データを使って読者との関係づくりができるかどうかが、未来を左右します。直感だけでなくインサイトも使うのです」。
バナー紙のアプローチは、購読データ、分析データ、コンテンツパフォーマンスデータを一元化されたデータレイクに統合することです。AIによる分析から、ごく一部のコンテンツがとくに高いコンバージョン率を生むことが判明し、パーソナライズされたプッシュ通知はエンゲージメントを最大12%向上させました。ガンギュリ氏のビジョンでは、データは単なるバックエンドツールではなく、読者と編集チーム双方に役立つローカルインテリジェンスプラットフォーム構築の基盤として位置づけられています。
保護、パーソナライズ、収益化
Arc XPのファティ・イルディズ氏とマット・キム氏は、AI時代において出版社が主導権を取り戻す緊急性を強調しました。ボットトラフィックが急増するなか、これまでの防御策では効果がありません。解決策はエッジコンピューティングからAIプロバイダーとのライセンス契約まで多岐にわたります。しかし本当の機会はパーソナライゼーションにあります。要約、翻訳、新たなフォーマット、厳選された体験を通じて、カジュアルな読者をロイヤル購読者に変えるのです。
マット・キム氏はこれを「パーソナライゼーションバリューサイクル」と位置付け、エンゲージメントがインサイトを生み、それが収益化を促進する仕組みを説明しました。具体例として、Ground NewsのキュレーションフィードやSpotify Wrapped形式のコンテンツ共有が挙げられました。「単なる防御策ではなく、AIを活用したパーソナライズド体験の構築、読者との直接的かつ持続的な関係構築、新たな収益機会の創出を推進していただきたい」と彼は述べました。
現実世界におけるAI
Arc XPのジョーイ・マーバーガー氏とGraham Mediaのマイケル・ニューマン氏は、誇大広告を排し、放送ニュースにおける実用的なAI応用に焦点を当てています。AIは原稿を記事にするワークフローを加速させ、視聴者フィードバックからストーリーのアイデアを抽出するとともに、迅速な市場調査で営業を支援します。成功はテクノロジーだけでなく、実験とアダプション(定着)にかかっています。「現在もっとも重要な指標はアダプション・カーヴ(定着曲線)」です……実際に成果を生み出す形で人々が活用しているかどうかが問われます」。
両氏はまた、パーソナライズされた将来を見据えた体験を提供するための鍵として、基盤システム、ベクターデータベース、動画インフラ、統合AIモデルを強調しました。要するに、AIはシームレスに統合され、視聴者に焦点を当てた場合にのみ機能するのです。
エンゲージメントエンジンとしてのアプリ
モバイル戦略に関するパネルディスカッションで、一つの点がはっきり示されました。アプリはもはや二次的なチャネルではないということです。アリシエル・ノビシオ氏(NEWYORK POST)、ジェームズ・クーニー氏(CONDENAST)、キャシー・コラフェミーナ氏(BOSTON GLOBE)は、アプリがリテンション、ロイヤルティ構築、収益化の重要なツールであると強調しました。アプリ内ゲームからプレミアムコンテンツの階層化まで、アプリはパブリッシャーにとってもっとも熱心な読者層との一対一の関係構築を可能にします。重要なのは、アプリへの投資、フォーマットの実験、そしてエンゲージメントの綿密な測定です。
オーディエンスの所有権と信頼
最後に、オーディエンス戦略に関する議論は、遠慮なしの大胆なものでした。パネリストたちは所有権を共創として再定義しました。つまり、読者を独占するのではなく、コミュニティを構築し、愛着を育むことだと。Mash-Up Americansのエイミー・チョイ氏は次のように述べました。「私はオーディエンスの所有権を信じていません。むしろ……読者も作品に参加していると信じています」と述べました。Code and Theoryのクレイグ・エリメリア氏は「オーディエンスを所有するという考え方は、共創を意味します」と補足しました。信頼と信用は究極の価値であり、とくにAIがより多くのインタラクションを仲介するなかで、その重要性は増しています。
ワシントン・ポストのプレイブック
本日の締めくくりとして、ワシントン・ポストのヴィニート・コスラ氏とアンジャリ・アイヤー氏が、規律ある読者第一のアプローチが革新と収益の両方を推進する方法を共有しました。パーソナライズされた体験、柔軟な購読プラン、マイクロトランザクションが読者の関わり方を変えています。画一的な放送モデルからの脱却といった大胆な決断は、過去を再現するのではなく読者に寄り添うという同紙の姿勢を体現しています。「1億人に向けた単一の記事では通用しません。従来の一斉配信システムは終わりました」とコスラ氏は断言しました。
Connect NYCが明らかにしたこと
各セッションを通じて一貫して伝えられたメッセージは、AI、データ、モバイル戦略は強力ではあるものの、人間の創造性、編集の誠実さ、そして読者へのフォーカスと組み合わさってはじめて真価を発揮する、というものでした。実験を重ね、読者との関係を自ら築き、テクノロジーを賢く活用するパブリッシャーが成功を収めるでしょう。メディア環境は急速に変化しており、Connect NYCが明らかにしたのは、待つことは選択肢ではない、という一点です。
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