2026.02.09 Arc XP Resources(原文)
かつてオーディエンスと関係を築くことは、野心的な目標のように聞こえました。しかし今日においては必須条件です
- まず「オーディエンス・オーナーシップ」を誠実に考えましょう
- 最大の障壁は技術ではありません。人なのです
- 戦略はAIではなく、体験である
- 信頼性と信用性がAI ディストリビューションの勝者を決める理由
- オーナーシップは主張するものではなく、獲得するもの
2025年11月12日に行われたArc XPのイベント「Connect NYC」では、一つのメッセージが明確になりました。プラットフォームや従来のワークフロー、あるいは過去の成功の定義に依存しているなら、すでに遅れを取っているということです。プラットフォームは不安定で、アルゴリズムは不透明です。AIはあらゆるものを加速させ、オーディエンスの信頼を得ることはかつてないほど困難になっています。
このパネルディスカッションが示したのは、陳腐な言葉ではなく、現実です。
Arc XPのCCOであるジェニファー・レイア氏がモデレーターを務め、三つの異なる視点を持った方々が集まりました。
彼らは共に、現代における「オーディエンス・オーナーシップ」の真の意味、その実現を阻む要因、そしてメディアリーダーが一時的なリーチではなく持続可能な関係を築くために次に取るべき行動について、深く掘り下げました。
- エイミー・S・チョイ氏:メディアスタジオ『The Mash-Up Americans』共同創設者 兼 編集ディレクター
- クリスチャン・ロス氏:ニュースサイト『Deseret News』プロダクト&テクノロジー担当副社長
- クレイグ・エリメリア氏:デザインエージェンシー『Code and Theory』チーフ・クリエイティブ・オフィサー
まず「オーディエンス・オーナーシップ」を誠実に考えましょう
パネルディスカッションはシンプルな質問からはじまりました。「オーディエンス・オーナーシップとはあなたにとって何を意味しますか?」
クリスチャン・ロス氏は、長い歴史を持つ報道機関の視点から話の方向性を示しました。『Deseret News』は創立175周年を迎え、誇りとプレッシャーの両方を抱えています。ロス氏にとって、オーナーシップとは支配ではなく、忠誠心(Loyalty)のことです。
「私たちの目標は、私たちを共有する価値があると認めてくれる人々、つまり非常に忠実なオーディエンスを築くことです」。その忠誠心こそが、混沌としたメディア環境のなかで安定性をもたらす要素だと、彼は主張しました。
エイミー・S・チョイ氏は、この前提に真っ向から異議を唱えました。「私はオーディエンスのオーナーシップを信じていません。コミュニティこそが重要だと考えています」
『The Mash-Up Americans』にとって、真に所有できる唯一のオーディエンスはメール(アドレス)です——直接的で、仲介者はおらず、意図的なものです。それ以外はリーチであって、関係性ではありません。真の課題は、自ら選択して参加するコミュニティを構築することです。
クレイグ・エリメリア氏は体験デザインを通じてこの概念を再構築しました。「今のオーナーシップは、本質的には、共同所有(co-ownership)のことなのです」
オーディエンスは捕らえられることを望んでいません。主体性を求めているのです。AIによってパーソナライゼーションが現実のものとなった今、クレイグは「オーディエンス自身が形作れる体験を設計する組織こそが未来を掴む」と主張しました。
表現は異なれど、彼らの根底にある真実は同じです:信頼、価値、参加を伴わないオーナーシップは無意味です。
最大の障壁は技術ではありません。人なのです
議論が障壁に移ると、即座に、そして不快なほど明確な答えが返ってきました。
「かつては技術でした。今やそれは人なのです」——クレイグ・エリメリア
ツールはもうありますし、コストはこれまでになく低くなっています。真の障壁は組織の行動様式——サイロ化、恐れ、慣性、そして誰が何を所有するかという時代遅れの思い込み——にあります。
クレイグは世界の大手ブランドすべてにこの傾向を見出しています。今や誰もが同じAIモデルにアクセス可能です。差別化はもはやツールから生まれるのではなく、創造性と協働から生まれるのです。
エイミーは別の角度からこれに同意しました。既存メディアの外で会社を築いた彼女は、古いルールがいかに深く思考を形作っているかを目の当たりにしています。「障壁となるのは往々にして私たち自身なのです」。彼女の警告は明快です。AIへの恐怖は麻痺を招き、AIの誤用は粗雑なコンテンツ(見た目は洗練されているが、人間の意図・創造性・配慮を欠いたもの)を生みます。
クリスチャンは既存メディア内部からは稀な楽観論を提示しました。混乱そのものが明確化を迫ったのです。「もはや『何がなんでもページビューを追求する』という議論は通用しません」
存続が懸かるとなれば合意形成は容易になります。『Deseret News』では、ユーザーニーズと編集意図に基づく「読者第一」思考への転換が、従来並行して動いていたチーム間の連携強化に寄与しました。
危機は、意外にも強力な結束剤となり得るのです。
戦略はAIではなく、体験である
このステージでは、AIは決して流行語として扱われることはありませんでした。インフラとして扱われたのです。
クレイグは、『Code and Theory』がAIを「時間」という一つのレンズを通してどのように捉えているかを説明しました。
- 人間が価値があることに「より多くの時間を費やす」のをAIが助けるべきなのはいつでしょうか?
- 人間が無意味な摩擦に時間を取られないで「より少ない時間で済む」よう助けるべきなのはいつでしょうか?
とくに際立った事例として、リアルクリアポリティクス社と共同開発したAI製品「コンテキストレンズ」が挙げられました。読者を外部サイトへの無限のリンクの迷路に送り込む代わりに、このツールは記事内で直接、深い情報や文脈を探索できるようにします。
「最良のプロンプトは行動そのものです。私たちは人々の行動を観察します。彼らの振る舞いを分析し、その観察結果に基づいて、その行動を強化したり、体験にさらなる価値をもたらすツールでどう包み込めるかを考えはじめるのです」
読者の行動を観察し、その行動を妨げるのではなく増幅させるツールを構築するのです。
エイミーは、AIが人間のストーリーテリングを置き換えるのではなく拡張していると説明しました。翻訳は多言語・多文化の読者層にとって強力な手段となり、人間の関与が継続されることで、オリジナルコンテンツは質を損なうことなく、より遠くへ、より速く届きます。
しかし彼女は明確な一線を引きました。「AIは創造性を促進すべきであり、代替すべきではない」
彼女がもっとも懸念するのは、高品質なコンテンツが自動生成物——率直に粗悪品と呼んだもの——へと変質することです。人間によって作られておらず、検証されておらず、高められていないコンテンツは、信頼を急速に損ないます。
クリスチャンは率直な評価を示しました。『Deseret News』はまず社内のAI導入に注力し、世代を超えたジャーナリストのワークフローを再構築しました。顧客向けパーソナライゼーションは次に控えていますが、セーフティを設けています。「Instagramを凌駕しようとは考えていません」
目標は、編集方針や共有された現実を放棄することなく、関連性を保つことです。
信頼性と信用性がAI ディストリビューションの勝者を決める理由
セッションの終わり際、コメントは哲学的で切迫したものになりました。
エイミーは規模を追うために基準を下げることに警鐘を鳴らしました。「最低限に迎合するだけでは、不十分です」
断片化したメディア環境において、人間の判断力、生の体験、共有された空間は、重要性が減るどころか、むしろ増しています。
クリスチャンは未来を一言で表現しました。「信頼こそが未来の通貨です」。エージェントやフィード、あるいはまだ発明されていない形式を通じてニュースが消費されるにせよ、視聴者は世界を理解する助けになると信じる情報源に戻ってくるでしょう。
クレイグはこの考えをさらに一歩進め、信用性を提唱しました。視聴者に対する信用性だけでなく、機械に対する信用性です。AIエージェントはコンテンツを評価するだけではありません。一貫性、権威性、行動、評判といったシグナルを評価するのです。信用性はもはや自ら主張するものではなく、継続的に評価されるものです。
「今や人間と同様に、機械の注目も獲得する競争が求められています」
これは困難に聞こえます。しかし同時に、状況を明確にしています。
オーナーシップは主張するものではなく、獲得するもの
本セッションは近道を提供しませんでした。リセットを提案したのです。
現代におけるオーディエンスのオーナーシップとは:
- 外部の成長を追い求める前に、内部のサイロを打破すること
- AIを人間の創造性を補完するために活用し、置き換えないこと
- オーディエンスが参加できる体験を設計すること
- 信頼と信用性に絶え間なく投資すること
借りもののリーチは容易で、持続的な関係構築は困難です。しかし、このパネルが明らかにしたように、今この困難な取り組みに挑む組織こそが、来年も、そしてその後175年経ってもなお存在し、関連性を保ち続けるのです。
Arc XPの関連記事
- 変革はテクノロジーだけでなく、人に関わるものである
- AIと新たなトラフィック経済:パブリッシャーが知っておくべきこと
- デジタルへの新規参入から地域ニュースの有力メディアへ成長するまで: The Baltimore Banner
- 3つの基本原則:優れたトップページの読者体験の核
- メディアの未来は体験にある。Arc XP主催「Connect London」から得られる学び
メディアビジネスを持続可能な成長へと導くCMS「Arc XP」
メディアによって開発され メディアのために設計されたCMSが 現代のデジタルメディアに必要な優れたワークフローを提供します