Ximera Media Next Trends #9
@April 1, 2021
はじめに
Ximera Media Next Trendsマガジンの第9回となる今回は、各クリエイター/インフルエンサーが持つブランド(パーソナルブランド)を支えるノーコード/ローコードツールについて取り上げたいと思います。
ノーコード/ローコードツールの登場によってこれまで以上に個人ベースでビジネスを行うことが容易になり、会社に従属する個というだけではなく、一人の個として活躍できる環境が広がっています。これは誰もがクリエイターになり、誰もが自由にビジネスを作っていける時代になってきていることを表しています。
この流れに関連するトレンド予測として、2019年にシリコンバレーのトップベンチャーキャピタルであるAndreessen Horowitzが、Uberに代表されるギグ・エコノミーに次に起こるトレンドはPassion Economyであると表明しました。
Passion Economyにおいては、あらゆる分野で各クリエイターがプラットフォームを通じてオーディンスを獲得し、継続的なビジネス機会を得ることができる姿が想像されていました。それから約2年が経過した2021年現在では、TikTokやYoutubeなどを中心に個人クリエイターが大量に現れ、トップクリエイターはブランド化・メディア化している様相が現れており、まさにPassion Economyで謳われた世界が到来しています。
ニュースメディアにおいても、例えばニュースレターのプラットフォームであるSubstackでは個人で活躍するライター/編集者が有料のニュースレターによって収入を得るモデルが徐々に確立してきました。こうした状況の中で各個人が自己を表現しそれを世の中に知ってもらうために、品質の高いメディアを構築・運用していくのは必然の流れとなっています。
今回はその裏側を支えているツールのひとつであるWebサイトビルダーによるパーソナルブランディングのトレンドを見てきたいと思います。
デザイナー向き: Webflow
Webflowはデザイン知識がなくともテンプレートから選ぶことで美麗なグラフィックのサイトを作ることができるWebサイトビルダーです。CMS機能も備え、コマース機能の追加も行うことができます。
Webサイトビルダー+CMS+コマース機能という機能だけ見ると、それらが揃ったツールは既に世の中に多く存在しているように思えます。例えばWordPress、Wix、Square Spaceなどが代表的なツールであり、上述したような機能を備えています。しかしながら、これまでのツールは、テンプレートベースで容易にWebサイトを構築/運用できるがカスタマイズがしにくい、もしくはカスタマイズは細かくできるがコード開発による構築/運用の負荷が大きいという二律背反の問題があり、ユーザはどちらかを選ばざるを得ませんでした。
それに対してWebflowは、テンプレートを豊富に揃え容易な構築/運用ができる上、カスタマイズもノーコード/ローコードで行うことができる環境を用意し、これまでのツールが抱えていたペインの解消に成功しています。
Passion Economyの時代では、デジタルメディアでいかに個人が個性を表現できるかが重要になってきています。その背景を受けて、Webflowは190カ国で200万人以上のユーザがおり、2021年1月には1億4000万ドル(約140億円)の資金調達も行い勢いを増しています。これだけWebflowが受け入れられたのもクリエイターの表現力をきちんと射影できる受け皿を持っているためと考えられます。
カスタマイズ性はCMSやコマース機能だけに留まらず独自ドメインの追加や多数の3rd party製ツールとの連携、さらにSEO対策も行うことができます。それらも多くがノーコードで実装することが可能で、例えばSEO対策については、ogタグによるプレビュー機能、sitemap.xmlの自動生成、alt属性の編集などがすべてWeb Editor上で実施することが可能です。
簡単なランディングページから企業のホームページまでWebflowで作れるものは幅広く、デザイナーが作成したパーソナルメディアの具体例はWebflowのサイトで確認することができます。Webflowは無料で2つのプロジェクト、webflow.ioドメインでのPublishが可能となっており、デザイン機能はすべて無料で利用することができます。カスタムドメインを追加できるSites Plansはページ訪問数、DB利用有無/サイズ、API利用有無/利用回数などによってプランが分かれており、月額12ドル(約1,200円)~でカスタマイズ可能な本格的なWebサイトの構築/運用ができるようになります。
このようにカスタマイズ性が高く、運用負荷が低く、価格も安いという特徴を持つWebflowの登場によってパーソナル/スモールメディアはより高い表現力をクリエイターにもたらしており、ますますPassion Economyが加速されるのではないでしょうか。
モバイル世代クリエイター向き: Universe
Webflowはこだわったカスタマイズを入れたWebサイトをノーコード/ローコードベースで作れる「良いとこどり」を実現したサービスでしたが、次に紹介するUniverseは、スマホアプリのみで数分でコマース機能まで揃ったモバイルWebが作れるという振り切ったWebサイトビルダーです。
Universeが特徴的なのは、スマホネイティブ世代であるZ世代を中心に徹底的にカジュアルにモバイルでパーソナルWebサイトを構築できるようにした点です。PCすら使わないという若年世代が増えており、クリエイター、インフルエンサー、D2Cブランドなど、作る側も見る側もモバイルだけに特化したWebページ作成/配信ツールで成り立つマーケットがあります。
Universeの多くのユーザはまずモバイルアプリの導入からスタートし、Universeの特徴的なUIである「グリッド」を使ったエディタを使います。画面をグリッド(枠線)で分割し、それに対してどのようなコンテンツブロックを挿入するかを選び、テキスト、画像、ビデオなどを挿入していくことで、モバイル上の操作のみで数分でWebページ作成が可能になっています。
Universeで作成されたWebサイトの例を見ると、主にクリエイターのAbout MeのようなパーソナルブランディングをするLPでの利用が多いですが、Shopify、Etsy、Buffer、Depop、Bitly、Mailchimpなどコマースおよびマーケティングに必要なプロダクト連携を備えており、簡易ながらもビジネスをしていけるバックエンドを構築できていることがわかります。
Universeは基本利用が無料で1,000ドル(約10万円)以上の売上が発生した際には10%の手数料がかかるようになっています。またカスタムドメインを利用する場合0.99ドル(約100円)/月~、分析機能などは9.99ドル(約1,000円)/月〜Pro版が必要になります。これらもモバイルアプリ内の課金で購入可能でスマートフォンのみで決済も完結しています。こうした徹底されたモバイルだけで完結する仕組みをユーザに提供することで、カジュアルなクリエイター層の増加にさらに拍車がかかることが想像できます。
ビジネスユーザ向き: Notion
次にビジネスユーザがパーソナルメディアを運用・管理するのに向いているのが「All-in-one workspace」を謳い、ドキュメントからタスク管理、スプレッドシートなど幅広い機能を持ち合わせたツールであるNotionです。
日本でも人気を博しているので、ご存知の方も増えているとは思いますが、Notionは生産性向上のための統合ツールであり、チーム内のノウハウ蓄積、進捗管理、アイディエーションなど様々なユースケースがあります。
しかし、ここで注目したいのはNotionで作成したページを容易にWeb公開する機能です。
NotionはBlockと呼ばれるパーツを組み合わせて使うことでページの編集性が高く、ドキュメント作成ツールとして優れています。またCMSとしてもページをそのまま編集するだけなので、コンテンツ作成やメンテナンスがしやすくなっています。さらに複雑な設定などせずともすぐにそのページを外部公開することができます(URLはnotionが自動設定してくれます)。その反面、カスタムドメイン、コマース、SEOなど、より作り込みを行うには公式サポートが限定されているため、3rd partyツールと連携させることでカスタマイズを施していくことになります。
Notionはビジネスユーザのパーソナルブランディングへの利用事例として、個人のプロダクト、blog、活動履歴、SNS、受賞歴などといったポートフォリオを体系的に整理し、外部公開することによく使われています。Notionのテンプレートや3rd partyツールの開発などを行うZoe Chawさんは自らのポートフォリオをNotionで作成するだけでなく、それを他のユーザがテンプレートとして利用できるようになっています。テンプレート利用の際にZoeさんのポートフォリオも読まれることになるため、バイラル的にセルフブランディングすることができています。
他にもノーコードで簡易に構築/メンテできる点を活用してスタートアップ企業中心にFAQページ、ランディングページ、使い方説明ページなどで利用が進んでいます。
例えば、バーチャルオフィス/リアルタイムチャットを提供するスタートアップであるTandemは、コロナ禍においてリモートワークでのチーム間コミュニケーションの需要が一気に高まり、彼らのプロダクトも急激に利用が伸びました。結果として需要の急拡大に対して人材を採用する必要があり、採用ページでNotionを活用し素早く立ち上げました。またプロダクトのアップデートページもNotionで作成しており、構築/運用や運用に手間をかけずコンテンツの提供にフォーカスしている様子が見てとれます。日本でもネットスーパーの垂直立ち上げを支援する10Xが、Tandemと同じく社内のノウハウ共有から社外向けの使い方説明、採用ページまで利用されています。
Notionは2019年11月〜2020年4月でチームが40%拡大し、ユーザ数は2019年初頭の100万から4倍に。2020年4月に5000万ドル(約50億円)の資金調達で企業価値は20億ドル(約2000億円)ともされており、いまやユニコーン企業となりました。また2020年には日本人社員も加入し、日本での拡大を勧めています。実はXimeraも以前は自前のWebサイトを構築・運営を行っていましたが、Webサイトリニューアルを機に全面的にNotionへ移行しました。
おわりに
本稿ではノーコード/ローコードツールによって作られるパーソナルメディアによって、個人のクリエイター/インフルエンサーがブランディングやビジネスをこれまで以上に容易に行える環境が整いつつある状況をご紹介しました。今後特に強い影響力を持つ個人がメディア化していく流れがこれからも続いていくと考えられます。これはニュースメディアでも同様で、影響力のあるライター/編集者がメディア化していく流れはこれまでは一部の著名人に限られていましたが、これからは中間層とでも呼ぶべきマイクロクリエイター/インフルエンサーが増えていくと考えられます。メディア企業はこうした台頭する個人クリエイターとどのように付き合っていくかを検討していくことが必要な時期にあると考えられます。