メディアの次世代トレンド:インタラクティブメディアの到来
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メディアの次世代トレンド:インタラクティブメディアの到来

Ximera Media Next Trends #4

Jan 13, 2021

はじめに

メディア・パブリッシャーが知っておきたい、次のトレンドについて掘り下げていくマガジン「Ximera MEDIA NEXT TRENDS」の第四回となる今回は、インタラクティブ(双方向)メディアとコンテンツについて現状のトレンドを見ながら、未来を考えていきたいと思います。

テレビ 、映画、ラジオ、インターネット動画、Podcastなどをはじめ、これまで多くのメディアが視聴者に向けてコンテンツを発信し、視聴者側で受動的にコンテンツが消費されてきました。このような受動的なコンテンツ消費の場合、ターゲットとなる特定のユーザセグメントに合わせたコンテンツが提供されますが、コンテンツ自体は誰に対しても同じ静的なものが提供されます。ここでターゲットにそぐわないコンテンツを提供すると、当然ながらユーザエンゲージメントは低くなる上、配信した後でそれを挽回することは基本できません。

そこでエンゲージメントを高めるために有効な策の一つと考えられているのがメディアのインタラクティブ化です。ここではコンテンツ視聴者のインタラクションによってコンテンツ自体やコンテンツ提供者の提供するものがダイナミックに変わることをメディアのインタラクティブ化と呼んでいます(インタラクティブ化したメディアを便宜的にインタラクティブメディアと呼びます)。

ユーザインプットによってコンテンツが変わるという意味では、そもそもゲームは最初からインタラクティブメディアでした。コントローラの操作というユーザインプットによってゲームの内容が変化し、さまざまな変化が現れます。ここで取り扱うインタラクティブ化は、冒頭であげた一方向性の動画、音声、テキストを提供してきた従来のメディアがゲームのような双方向性を持つことで、より広いユーザ層がコンテンツに触れる機会が増え、エンゲージメントが強化されることを指しています。

従来メディアのインタラクティブ化の背景

それではなぜ近年、従来のメディアにインタラクティブ化が起きてきているのでしょうか。その理由として、(1) 視聴者の状態をトラッキングできるデバイスが普及したこと、(2) 技術の進化により多種多様なコンテンツを自動生成できるようなったこと、(3) ビジネスのKPIがよりエンゲージメント重視に変わってきていることがあげられます。

(1)について、スマートフォンをはじめとして、Webやアプリの操作履歴、カメラに映る表情情報、マイクを通る音声情報、GPS/ジャイロセンサー/Bluetoothなどによる各種センサー情報が当たり前のようにリアルタイムに取得され、それを元にダイナミックに振る舞いを変えるためのインプットを得ることができるデバイスが爆発的に普及しました。

(2)について、近年のAIの進化により、リアルタイムにユーザの表情をトラッキングしアバター化する、自然に読めるレベルの文章を自動生成するといったことが可能になり、従来では実現が難しかった個々人に合わせたダイナミックなコンテンツ変形を実現できるようになりました。

そして(3)は世の中のさまざまなものやサービスがサブスク型へ移行していることに象徴されるように、視聴数やユーザ数が最重要なKPIではなくなり、リテンションやエンゲージメントが最も重要とされるようになってきています。エンゲージメントを重視するということは、ユーザのアテンションを常に得ることができるプロダクトやコンテンツを提供する必要があり、その一つの解決策が一方通行のメディアではなく、双方向のインタラクションがあるインタラクティブメディアを作るということです。

今回はそうしたインタラクティブメディアに類型3パターン(ストーリー分岐型、パーソナライズ型、リアルタイム参加型)について具体例を見ながらトレンドを考えていきたいと思います。

インタラクティブメディアの形① ストーリー分岐型

1つ目のパターンが、ストーリー分岐型です。昔から存在している分かりやすいストーリ分岐型の例として、ゲームブック(アドベンチャーブックとも呼ばれる)があります。1970年代後半から80年代にかけて出版されたゲームブックは行動の選択肢によっていくつものストーリーを楽しめる本で、ゲーム好きの少年たちを虜にしました。近年ではそのゲームブックを技術の発達により進化させたようなコンテンツが増えてきました。現代のストーリー分岐型コンテンツはデジタル化、ゲーミフィケーション化され、さらには行動の選択肢と分岐が非常に多彩になっています。

例えばNetflixは、2018年提供の「ブラック・ミラー:バンダースナッチ」という作品でユーザがストーリーの分岐を選べる動画を提供しました。

この作品では5通りの結末と1兆通り以上のストーリー分岐がある(シークレットエンディング含めると5通り以上の結末があります)とされ、ある視聴者は10分でゲームオーバー、ある視聴者は1.5時間かかるといったように、選んだ分岐で大きく体験が異なるものとなりました。ゲームオーバーにつながった選択肢を選んだ地点まで戻される要素もあり、さながら映画とゲームの間の子ような形でカジュアルにインタラクティブなコンテンツを楽しめるものとなっています。

通常のゲームですと30〜60時間ほど時間がかかりますが、あくまで映像を観る20分〜2時間超という時間間隔を守り、シンプルに二択を選ぶ分かりやすいインターフェースによって、ゲームに疎いユーザでも容易にインタラクティブ性にアクセスできる形を作り上げています。同時に、同じ作品内で異なるストーリー分岐を何度も楽しめる形になったことで、通常の映画よりも高いエンゲージメントをもたらしています。

上記のNetflixの例ではストーリー分岐の選択肢からユーザが選ぶという形でしたが、さらに自由度を増したコンテンツも出現しています。第一回のXimera MEDIA NEXT TRENDSでも紹介したテキストアドベンチャーゲームの「AI Dungeon」は、少ない選択肢を選ぶのではなく、なんと自由記述でユーザが行動を「書く」ことで、ストーリーが分岐していきます。こちらのYouTubeにて日本語訳をしながらプレイするようすを見ることができます。

動画ではゾンビがはびこる世界のストーリーで、話しかけてみたり、その場を離れてみたりという行動をプレイヤーが文章で記載すると、それに応じたストーリーが自動生成されていることがわかります。これはOpenAIによる多量のパラメータを扱うことができるAIモデルのGPT-3によって過去の大量のゲームブックの内容が学習されており、ユーザの記載に応じてシナリオを生成することが可能になっている実例です。

インタラクティブメディアの形② パーソナライズ型

2つ目のパターンは、パーソナライズ型です。これは視聴者がコンテンツ自体に介入し自己投影する、もしくは配信者が特定の視聴者に対して強いインタラクションを与えるというパターンを指します。

視聴者がコンテンツ自体に介入する例として、SnapによるBitmoji StoryやBitmoji TVが挙げられます。BitmojiはSnapが買収したサービスで、顔、服装、アクセサリーなどをカスタマイズできる自身の2Dアバターを作成し、Snap内でアイコンとして使ったり、ARレンズで動く2Dアバターを登場させて遊ぶことができるものです。近年ではバーチャルアバター化が強化されており、Bitmoji StoryやBitmoji TVでは自身のアバターをメインキャラクターとしてSnapchat内の動画やストーリーズの中で登場させることができます。

上記の動画のキャラクターは視聴者毎に自身のアバターや友人のアバターが登場するため、ストーリーは同じですが、登場人物が視聴者毎にまったく異なる動画となっています。このように自身がストーリーに入り込むような体験を2Dアバターを通じて提供しています。SnapはBitmojiを自身のコンテンツのみではなく、外部のコンテンツに対しても開放する取組を進めており、例えばゲームエンジン向けの開発SDKであるBitmoji for Gamesを使うとゲーム開発者はゲームの中にBitmojiキャラクターを登場させることができます。

パーソナライズのもう一つの観点として、コンテンツ配信者側が特定の視聴者に対して強いインタラクションを与えることでエンゲージメントを高めるパターンがあります。そのコンセプトを体現する代表的なスタートアップであるCameoは、セレブリティが有料で自分向けのパーソナルビデオメッセージを配信してくれるサービスを提供しています。Cameoでは自分だけのパーソナルビデオメッセージであることがエンゲージメント強化のポイントとなっているため、自分以外へのパーソナルビデオメッセージのサンプルを無料で見ることができ、自分もパーソナライズされたメッセージを受け取りたいというユーザニーズを満たすように誘導がされています。

Cameoは2020年1月には週に9000件だったパーソナルメッセージのブッキングが2020年5月時点では約7万件に増え、コロナ禍におけるセレブリティの参入増やユーザのデジタル消費増に支えられたことも手伝い、短期間で急成長を果たしました。

上記動画ではCameoに登場するセレブリティのパーソナルメッセージの例や金額感がわかると思います。例えば、ディスニー映画などで声優を務めるギルバード・ゴッドフィールドが、9ヶ月で1600回のパーソナルメッセージを配信し、25万ドル(約2500万円)の売上をあげたと推定されています。Cameoは2020年に100億円の売上を上げると予想されており、インタラクティブメディアの特性を活かしたビジネスの成功例と言えそうです。

インタラクティブメディアの形③ リアルタイム参加型

3つ目のパターンはリアルタイム参加型です。これは多数の視聴者側がリアルタイムにコンテンツに対して働きかけることで、コンテンツ自体に変化が起こるパターンです。現在よく目にするものとしては、YouTube LiveやSHOWROOMなどのライブ配信で、視聴者が投げ銭をすることで、配信者や画面ステータスが変わるものです。例えば、配信者が投げ銭をしてくれた視聴者に対してリアルタイムにお礼のメッセージを伝えてくれる、投げ銭額の多かったユーザの名前が画面にリストされるといった例があげられます。近年こうしたコンテンツ配信者と視聴者とのインタラクションにとどまらず、コンテンツそのものに視聴者が介入できる仕組みが出現してきています。

例えば、元SQUARE ENIXのメンバーが立ち上げたGenvidというスタートアップが提供しているインタラクティブストリーミングと呼ばれるインタラクティブな動画配信の仕組みがあります。ゲーム開発者はGenvidのSDKをゲームに導入することで、ゲームプレイ動画の配信において、視聴者側にゲーム自体に介入させる機能を動画プレイヤー上に付加することが可能になり、インタラクティブな動画配信が実現できます。

Nintedo Switch対応のゲーム「ドンさわぎ」ではGenvidの技術を採用し、ゲーム動画の視聴者はカメラ視点を切り替えたり、動画を見ながらポイントを集める(動画プレイヤー上で特定のアクションを起こすことでポイント獲得)ことができます。集めたポイントでプレイヤー(ゲーム動画の配信者や他のゲーム参加者)を応援するゲーム内アイテムをプレゼントする、といったように、視聴者の行動がゲームプレイに影響を与えられる状態を作り出しています。

Genvidを用いることでTwitchやYouTubeという既存動画PFと連携したインタラクティブ機能の実現ができるため、カジュアルに視聴者がゲームに参加するリアルタイム配信が可能です。下記がGenvidの機能を紹介した動画で、動画プラットフォームであるTwitchの上で視聴者がゲーム配信動画を見ながら、特定のプレイヤーを応援したり、邪魔したりするようすが分かるかと思います(ゲームをプレイしている人ではなく、ゲームのプレイ動画を”視聴”している人の視点でご覧ください)。

こうしたインラクティブストリーミング化はゲームのみならず、ニュース、スポーツ、コンサートなどリアルタイム性の高いコンテンツに対して付加価値を与えるもので、パーソナライズされたカメラ視点や統計情報表示など、コンテンツの見せ方を変えるものや、視聴者投票や応援の可視化などによってリアルタイムにコンテンツ自体が変化していくものなどが考えられ、より高いユーザエンゲージメントをもたらすユースケースが今後広がっていくものと考えられます。

おわりに

今回は従来のメディアが新たな技術や手法でインタラクティブ化し、視聴者の間口を広げ、エンゲージメントを強化していることを中心にご紹介しました。これは当初ゲームにしかなかった特性が他のメディアにも伝搬してきているということであり、デジタルコンテンツが全体的に同じ方向へ動き出している流れの一つと考えられます。

ニュースというコンテンツについても既に動画ニュース上に関連するツイートが表示されるなどの簡易的なインタラクティブ性はありますが、同じスポーツニュースでも視聴映像は自分が応援するチームによって異なる映像合成がされている、同じニュース番組でも報道内容が自身の政治的スタンスを選んでチューニングされる、視聴者の意見をリアルタイムに集めて発言してほしいコメンテイターを選ぶなど、さらなる視聴者のコンテンツへの介入やパーソナライズ化により、エンゲージメントが高まり、新たなビジネスモデルが生まれる可能性があります。

この分野はまだ絶対的なベストプラクティスもなく、スタートアップやテックの巨人達も含め実験的な段階であるため、今こそインタラクティブ時代のメディアの形を考えるタイミングと言えそうです。