アルゴリズムドリブンなメディア

アルゴリズムドリブンなメディア

並の開発者では実現が難しい技術が民主化されつつある

Ximera Media Next Trends #25|Author: Ikuo Morisugi|Nov 30, 2021

はじめに

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第25回となる今回は、「アルゴリズムドリブンなメディア」について紹介します。

ソーシャルメディアや動画サイトをはじめとして、我々が普段利用しているメディアの多くで、アルゴリズムによる機械的な意思決定が行われています。たとえば、TikTokやYoutubeやNetflixのフィードは機械的にパーソナライズされ、できる限りユーザにサイトに滞ってもらえるように最適化されています。

そうしたデータサイエンスやAIの進化は止まらず、「次世代のヒットメーカーを見つけ出す」、「アルゴリズムがコンテンツ自体を生成する」など、これまでのアルゴリズムやAIでは難しいと考えられていたタスクも実用レベルになってきました。

こうした技術を実用化しているスタートアップは多数存在していますが、本記事では特に自社でメディアを持ち、アルゴリズムの活用で新たに付加価値を提供しているスタートアップを紹介したいと思います。

データ分析でヒット作を見つけ出す: Inkitt

これから出版する書籍がヒット作になれるのか事前に検証することは困難です。市場に出してみるまでは内部レビューによるフィードバックしかなく、少数の人間のバイアスによりベストセラーを見逃してしまうということが起こります。たとえば、ハリーポッターは12の出版社から出版を断られ、スターウォーズの初期は「変な映画だから」という理由で製作関係者に評価されなかったといった話は有名です。

この課題に対してデータサイエンスのアプローチでベストセラーを拾い上げようとしているのがInkittです。Inkittは2つのプラットフォームを持っており、1つは無料で誰でもストーリーを配信・閲覧できるInkitt、もう1つはInkittの中から一定の基準で選ばれたストーリーだけが掲載される有料書籍のマーケットプレイスGALATEAです。

詳しくは明かされてはいませんが、Inkittは投稿された作品がベストセラーのポテンシャルを秘めているかアルゴリズムを使って評価しています。作品がInkittにアップロードされると、各読者の1200以上の読書関連の行動がトラッキング・分析され、一定以上の評価を得るとGALATEAでの有料配信の検討がはじまります

Inkittでアルゴリズムで良評価を得たクリエイターには、GALATEAで有料作品化を打診する流れができている 画像:
Inkittでアルゴリズムで良評価を得たクリエイターには、GALATEAで有料作品化を打診する流れができている 画像: Inkitt

Inkittのアルゴリズムで規定以上の評価を得た作品のクリエイターは、Inkittからコンタクトがあり、GALATEAで配信するための契約を結ぶことになります。契約後はInkittに所属するプロ作家(編集者)の支援のもと、作品をよりGALATEAに合った内容に仕上げるプロセスを経て(1-2ヶ月程度)、GALATEAで配信することができます。

Inkittは現在700万のエンドユーザと30万のライターのコミュニティを抱え、2019年から約3倍の成長を遂げています。GALATEAでは、2020年時点でトップクリエイターは月に14,000ドル(約160万円)を稼いでいるとされています。イスラエル出身のサピア・エングラードさんのヒットとなったロマンス小説のMillenium Wolvesは、月に$10万ドル(1100万円)の売上、インド出身のシームラン・サフーさんの小説はこれまでに270万ドル(約3億円)のヒットと億円レベルの大ヒット作も生まれています。

Inkittは、2021年10月にNew Enterprise Associates(シリコンバレーの老舗VC)がリードし、Axel Springer(学術系をはじめとした出版大手)が参加するシリーズBラウンドで5900万ドル(約66億円)を調達しました。同社はTechCrunchに対して、現在オーディオブックの開発にも着手しはじめているほか、映画、テレビ番組、マーチャンダイジング、ゲーム、テーマパーク開発など、今後さまざまな事業拡大の可能性があることを口にしています。

AIが曲とプレイリストを生成する: Aimi

作業に集中したい時、リラックスしたい時、気分を上げたい時など、次に行うアクションにあわせて、音楽を聞いている方は一定数いらっしゃるかと思います。2020年に米国で行われた調査でも在宅勤務中に音楽を毎日聴くユーザが40%、週1回以上聴くユーザが35%存在していることがわかっており、人々が仕事をしながら音楽をかける習慣があることが伺えます。

こうしたながら聴き需要に対しAimiは、AIによって人々の気分を支える音楽アプリをソリューションとして提供しています。Aimiでは、アーティストが提供する曲の素材とアルゴリズムによるレコメンドをベースに自動かつエンドレスに曲をミックスしていきます。Serenity、Chill、Flowといったなりたい気分にちなんだ6つのジャンルが提供され、ムードにあわせて選ぶことができます。たとえば、Flowというジャンルを選ぶと、BPM(1分間あたりのビート数、つまり曲のスピード)が80程度のLo-fi Beatsと呼ばれる音楽が流れてきます。一度曲が流れ出すとDJ Mixのように曲と曲の境目がなく、スムーズに曲が遷移していきます。

こうした音楽ジャンルはAimiが出てくる前から人気があります。Youtubeでも(おそらく仕事や作業中に聞いている人に人気と思われる)AimiでいうところのFlowに近いジャンルであるLo-fI Hip Hop関連の動画が多数アップロードされており、365日24時間放送で総再生回数が4億回を超えるものもあります。Youtubeの動画は人手によりキュレーションされたプレイリストで、曲間遷移も自然ではなくぶつ切れであることが多いです。一方AimiはAIベースの自動選曲、自然な曲間遷移によるミックス、Like / Not Likeフィードバックによるパーソナライズ化、その時の気分にあわせたいくつものプレイリストから選択が可能といった点が差別化ポイントになっています。

Aimiは2021年11月に、Great Mountain PartnersやFounders Fundが参加する2000万ドル(約22億円)のシリーズBラウンドの資金調達を行いました。今後はAimi+と呼ばれる有料のサブスク型へ転換することで、楽曲の使用料への支払いと売上をアーティストへ還元していく(売上の分割にはブロックチェーンとスマートコンタクトが利用される)とみられます。

おわりに

今回は「アルゴリズムドリブンなメディア」についてとりあげました。

本連載第1回でもテキスト/音声コンテンツ制作の自動化(文章生成・レビュー・音声読上げ)の動向をレポートしましたが、近年では利用できるジャンルやタスクがさらに広がってきました。文章の生成、歌詞・楽曲の生成まで、ある程度フォーマットが決まっているデジタル創作物については、人間が作ったのかどうかわからないレベルまで進化しつつあります。

最近では、GPT-3(高レベルの自然言語処理モデル)のAPI人数制限撤廃類似サービスのOSS(オープンソースソフトウェア)化など、並の開発者では実現が難しい技術が、民主化されつつあり、今後より一層アルゴリズムベースのサービスやメディアの創造が進むと思われます。

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