Akiko Nakayama|Feb 10, 2021|サブスク・メディアビジネス解説
こんにちは、株式会社キメラと申します。私たちはパブリッシャー(出版社・新聞社・放送局)に対し、メディアビジネスをグロースするための課題解決やデジタル化をご支援しているスタートアップです。2019年1月に活動を始めて以来、国内70を超えるメディアにサービスをご提供しています。
以前の記事で、デジタル組織の立ち上げと周辺環境づくりに必要な3つのステップを紹介しました。
- デジタル事業の方向性を明確にする
- 意思決定フローと運用体制を整備する
- 社内ブランディングをする
今回は、すでにあるデジタル組織の「モヤモヤ」を解消するために点検したいポイントをお伝えします。
「デジタル事業推進のため、予算も人員も確保した。それなのに、なぜかうまくいかない……」
そんなお悩みを持つパブリッシャーにお話を伺うと、必ずといっていいほどチームの意思疎通に原因があります。
- 失敗のリスクが心配になって、ものごとが前に進まない
- アイデアはたくさん出るが何から手を付けたらいいかわからない
- 営業部門のメンバーと編集部門のメンバーの話が噛み合わず平行線になってしまう
こんな状態に、思い当たることはありませんか?
あなたのチームに「神経伝達回路」は通っていますか?
パブリッシャーのデジタル事業に限らず、新規事業には定められた業務手順がありません。チームが機能するためには、人体のように目の前の状況に適応し、意思決定〜行動〜振り返りをスピーディに行える「神経伝達回路」が必要です。
具体的には、以下の一連の流れをスムーズに行えることが望ましいでしょう。
- 状況の評価:加点法のマインドでアクセルを踏めるか
- 脳からの指令:意思決定の流れが明確か
- 手足の動き:現場が自発的に行動できるか
- 結果の検証:次に生かせる振り返りができるか
あなたのチームは、この「神経伝達回路」に滞りが起きていませんか? ここからは、それぞれの項目について詳しく説明します。
1. 状況の評価:加点法のマインドをチームの共通言語にする
コップに半分入った水を見て「半分もある」と思いますか。それとも「半分しかない」と思いますか。デジタルチームの基本姿勢としては「半分もある」という加点法のマインドを持つことを強くおすすめします。
ネットフリックスやグーグルといった誰もが知るウェブサービスは、開始当初から完璧なプロダクトを提供していたわけではありません。ユーザーの声を聞きながら改善を続けて、現在の姿に至っているのです。
2008年当時のネットフリックス(出典)
メディアの信頼を保つためには、誤りやミスを最小限にとどめて情報を届けることが大切です。一方で、日々の改善が求められるデジタル事業では、何もかも最初から完璧なものを届けようとすると効率を欠いてしまいます。
パブリッシャーのデジタル事業においても、チームの責任者(後述します)が守るべきラインを決めたうえで「まず、やってみよう」という姿勢を共有することが重要です。
2-1. 脳からの指令:事業・運用・コンテンツの司令塔を決める
意思決定の流れをつくる上では、「誰が、どう決める」かを明らかにすることが重要です。まず「誰が」決めるかについて、事業・運用・コンテンツの3つの領域で責任者を定めましょう。
3つの役割は兼任せず、独立させることがポイントです。大局的に全体戦略を考える役割(事業責任者)、現場を動かして施策を実行する役割(運用責任者)、読者目線のコンテンツを作り届ける役割(編集責任者)は、ミッションが全く異なるからです。3名の責任者が日頃からこまめに状況を共有し、プロダクトについての意思決定を行える体制をつくりましょう。
2-2. 脳からの指令:「完璧でなくても、どう決断するか」の基準を持つ
意思決定フローの「どう決めるか」については、以下のように期日を前提条件としない判断基準を設けることが重要です。
- このサービスは最低限◯◯の機能があれば開始してよい
- このキャンペーンで想定する効果は◯◯で、1週間以内に達成しなければ方針転換をする
- 現場からも意見を収集するが、最終的な判断は事業責任者に従う
デジタル事業には紙媒体のような明確な完成形がなく、「校了日」といった強制力をもって意思決定を迫る区切りもありません。定められた締め切りはあるかもしれませんが、事業環境によってサービス開始を遅らせたり撤退を早めることもあるため、絶対的な条件にならない場合がほとんどです。
責任者がいるのに物事がはっきりと決まらない場合は、期日にかかわらず「完璧でなくとも始める基準」「大失敗でなくてもやめる基準」「満場一致でなくても決める基準」があるかどうかをチェックしてみましょう。
3. 手足の動き:現場が自発的に動ける環境をつくる
施策のスピードを上げるには、現場のメンバーが自ら動ける環境づくりが欠かせません。以下をチームで共有するとよいでしょう。
事業の方向性づくりについては、以下の記事を参考にしてください。
まず「登山計画」から。サブスクリプション事業計画ことはじめ【前編】どんなに優秀で積極的なプレーヤーも、事業の方向性やチームの動き方が曖昧なままで実力を発揮することは難しいものです。チームメンバー全員が「デジタル事業で何を目指しているのか(定性・定量)」「やりたいことがあるとき、誰に相談すれば実現できるか」を言える状態を目指しましょう。
チームの役割分担は暗黙の了解になっていることも多く、いざ問われると答えられなかったり、非効率な状態になったりしていることも多いものです。チームでホワイトボードを囲み、ディスカッションをしながら上記の項目を整理・共有するのもおすすめです。
4. 結果の検証:施策の役割と評価指標をチームで共有する
施策の結果をどう評価するかは、プランニングと同じかそれ以上に大切です。「いい取り組みだね」「いい記事だね」という評価の基準を、担当業務が違うチームメンバーと共有できていますか?
例えば「いい記事」と一口に言っても、捉え方が違うことがしばしばあります。
評価基準がずれていると、チーム内で議論のすれ違いが生まれてしまいます。以下のようにコンテンツや施策ごとに役割と評価指標を定め、チームで成果をモニタリングしましょう。
ポイントは2つです。施策の役割が前項で紹介した「事業の方向性」に紐づいていることと、評価に中間指標を用いることです。
事業の定量目標になる「売上高」「購読者数」「ページビュー(PV)」などは、施策がもたらした結果を示すものです。
施策の振り返りや改善のためには、結果の手前にある「中間指標」を用いるとよいでしょう。特にデジタルメディアのサブスクリプションにおいては、読者のメディアに対する関与度を測る指標(=読者ロイヤルティ、読者エンゲージメント)を中間指標に据えることをおすすめします。
詳しくは、以下の記事を参考にしてください。
PVだけで大丈夫?サブスクにも広告にも欠かせない指標「読者ロイヤルティ」とはその記事、本当に読まれてる?コンテンツ評価の新常識「読者エンゲージメント」とは今回のブログは以上です!少しでも皆様のお悩みを解決するヒントになれば幸いです。今後も、パブリッシャービジネスに役立つ知見や事例をご紹介していきます。
株式会社キメラへのお問い合わせ
キメラは2019年1月以来、70を超える国内パブリッシャー(新聞社・出版社・放送局)でサブスクリプションの事業設計、デジタルメディアのグロース、分析体制の構築などを支援しています。
コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat」の日本総代理店としてデジタルメディアの分析支援や体制づくりに取り組む一方、2021年には自社開発したサブスクリプション管理プラットフォーム「AE」を通してパブリッシャーのサブスクリプションビジネス開発を支援。2024年9月からはソーシャル動画の横断分析ツール「Tubular」の導入と分析の支援を開始。
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