こんにちは、株式会社キメラです。私たちは出版社・新聞社や放送局といったパブリッシャーに対し、メディアビジネスをグロースするための課題解決やデジタル化を支援している会社です。
2019年9月25日、弊社主催のパブリッシャー向けイベント「PVだけに頼らないKPIって?「人が集まる」「読まれる」メディア戦略」を開催しました。イベントレポートとして当日の様子を前後編でお届けします。
今回は後編のパネルディスカッションの様子をお送りします。メディアジーン・日本ビジネスプレス・時事通信社でメディアに向き合っているお三方から、現場目線のお話をお聞きしました。
第二部:パネルディスカッション「PVだけに頼らない『人が集まる』『読まれる』メディアの作り方」
第二部のパネルディスカッションでは、より実務的なトピックとして、KPI管理やコンテンツ制作との連携について深掘りしました。登壇者は株式会社メディアジーンの金沢大輔さん、株式会社日本ビジネスプレス(JBpress)の工藤麻里さん、時事通信社の春山達也さんのお三方です。モデレーターを務めたのは、弊社メディアストラテジストの中山です。
中山:まずは自己紹介をお願いいたします。
金沢:株式会社メディアジーンの金沢です。弊社は「ギズモード・ジャパン」や「Business Insider Japan」などのメディアを運営しています。私自身はビジネスグロースユニットとメディア開発ユニットの部門長を担当しています。
工藤:JBpressの工藤です。Webアナリストとして、分析ツールを使ってメディアを成長させていく仕事をしています。編集部と向き合いながら「どの数値が上がっているのか」「何が成長のドライバーになっているのか」を伝えています。
春山:時事通信の春山です。2018年の7月から編集局のデジタル編成部長をしていますが、経歴の大半は金融・経済の記者です。時事通信のデジタルメディアの記事編成や数字の管理をしています。これまでの時事通信はYahoo!ニュースからのトラフィックを重視し、ページビューを偏重する組織でした。トラフィックが頭打ちになりつつある中で、わからないながらも「自分が誇れないサイトは見せられない」という思いで日々奔走しています。
中山:ありがとうございます。皆様異なる立場からメディアの運営やKPIに向き合っていらっしゃるのですね。
自己紹介の後は、KPIに関する3つの質問にお答えいただきました。
Q1.どんなKPIを設定していますか?(ページビュー、再訪問、回遊率、流入etc…)
工藤:JBpressは、部署間共通の指標としてページビューをKPIとしています。ただし編集部内ではより詳細に、ページビューの内訳を見るようにしています。具体的には以下の3つです。
・流入の6割を占めていたYahoo!以外からの流入数を増やす
・月に2回訪問してもらう
・1回の訪問あたりに2記事(1記事4ページ程度)読んでもらう
このように細分化した目標を設定し、それぞれを伸ばすことで全体のページビューの成長につなげています。
春山:社内では、ページビュー至上主義の古い価値観が未だに重視されてしまうことがあります。組織内の行動を変えるために、あらゆる指標を導入しました。コンテンツの評価にあたっては、ページビューに加え、滞在時間や直帰率のほか、記事ごとの収益性も数字で伝えるようにしています。
金沢:かつてはページビューに偏ったKPI設定をしていましたが、現在のメディアジーンは媒体ごとにKPIを設定しています。事業責任者や編集長、ディレクターなどが各KPIを設定していきます。そのKPIを担当者ごとに割り振って、計測・レポート作成・改善提案・施策実施をしています。
といいますのも、弊社では媒体ごとにビジネスモデルが大きく異なっているためです。具体例をお伝えすると、マーケティングメディアの「DIGIDAY[日本版]」はサブスクリプションモデルを導入していますが、KPIとしては、課金者数・デイリーのアクティブユーザー数・新規ユーザー数・継続訪問のユーザー数を追っています。一方、「MASHING UP」というメディアはイベントによる収益がメインなので「どのコンテンツでイベントのチケットが何枚売れたのか」をKPIのひとつになります。
中山:メディアジーンさんと時事通信さんは、ページビューだけではない指標を設けるようになったとのこと。どのような経緯があったのでしょうか。
春山:時事通信社はYahoo!ニュースとの連携によって、2011年頃まではどんな記事を流してもトラフィックとそれに伴う広告収入が右肩上がりでした。しかし、その後は段々と成長が頭打ちになり、行き詰まりを感じるようになりました。それでも社内ではページビューを絶対視する状況がなかなか変わらず、ページビューを稼ぐためにメディアのクオリティを損なってしまうような記事もありました。そうした状況に危機感を覚え、今は自分が旗振り役となってページビュー以外も見るように意識作りをしています。具体的には定期的に発行する社内報で、ページビュー以外の指標を含めた記事のパフォーマンスを公開しています。
Q2.KPIをどんな体制で測定し、現場で生かしていますか。
パネルディスカッションに登壇くださった3社は、キメラが提供する記事のエンゲージメント分析ツール「Chartbeat」を導入くださっています。現場の目線から、分析ツールによるKPIの測定法をお聞きしました。
中山:KPIの測定にあたって、Chartbeatをどのように活用していますか。他の分析ツールと使い分けているポイントがあれば併せて教えて下さい。
工藤:JBpressでは、KPIに関わるデータはGoogle Analyticsで取得し、Googleデータポータル(Google社が提供するレポーティングツール)上でいつでも・誰でも数字を閲覧できる状態にしています。Chartbeatはリアルタイム性が高いので、今読まれている記事を確認する際や、読者のクリック箇所や離脱するポイントを確認するために使っています。
春山:Chartbeatは記事を掲載する優先順位を決めるのに役立てています。編成担当(デスク)全員のPC画面に常に表示されるようにしています。併用しているのはGoogle Analyticsなどです。
金沢:メディアジーンでは、Chartbeatを滞在時間の改善目的に特化して活用しています。具体的には記事内で読者が離脱しているポイントを把握し、離脱の理由に仮説を立てながら記事の構成や内容を変えています。文末の「おすすめ記事」のレコメンドも、Chartbeatのデータに応じて位置を入れ替えたりしています。併用しているツールは、Google Analytics、CXENSE、SNS解析ツールやSEOツールなど多岐にわたります。
3社とも、Chartbeatを活用して読者の反応をリアルタイムにメディア運営に生かしている点が共通していました。
Q3.脱・PV偏重のKPI設計のために何ができますか?
中山:ページビューは分かりやすく、かつ強力な指標です。しかし、考えなしにページビューを偏重するKPIは考えものです。健全なメディア運営のために、ページビューとどのように付き合っていけばよいと思われますか。
工藤: ユーザーを常に「主語」として考えることです。ページビューはあくまで結果でしかなく、その内訳を見て「ユーザーがどう感じ、どう行動をしたのか」まで落とし込む必要があります。
金沢:経営層や事業設計者がビジネスのあり方や収益構造を理解し、共通の認識を持つことですね。それが可能になれば、目的に合わせて「このメディアではPVを重視すべきじゃない」とみんなが言える環境になっていくような気がします。
春山:お二人の意見に同意します。単一の指標に依存するのは不健全だと思いますから。
Q4.今後の目標設定に関する課題は何ですか?
最後に、3社のKPIに関する今後の課題や展望についてお聞きしました。
工藤:今後は記事の質に関するKPIを設計していきたいです。ページビュー順の記事ランキングがつまらないと感じるときはありませんか? 同じような顔触れになったり読者が喜ぶ内容の記事だけが並んだりすることがあります。ページビューの多い記事だけが、必ずしも質が高いとも限らないと思います。例えばJBpressは国際メディアなので、ページビューで評価されにくいニッチなニュースもしっかりカバーすべきだと思っています。今は設計の途上ですが、編集者と話す時にはページビューが多い記事のみに焦点を当てず、「会員登録した人が読んだ記事」など記事の質を示せる指標でも語るようにしています。
春山:弊社は通信社として、長年新聞社と密接に関わってきました。デジタルメディアを通じて読者と触れ合うようになったのは最近のことです。ですから、直近は「いかに読者の意向をリサーチし、記事にフィードバックするか」が課題だと思っています。また、志のある若い記者たちのためにも、記事の質を確保するための基盤作りをしたいですね。
金沢:メディアジーンも、読者をより深く知りたいと思っています。現在は各媒体の読者を「いつも見てくれている人」「今まで好きでいてくれたのに離れてしまった人」「メディアを認知してない人」などと関心別に分類しています。あるメディアではこの分類ごとにユーザーインタビューを行い、「なぜこのメディアを選んだのか」「なぜそのメディアを見なくなったのか」などを聞き取り調査し、メディア運営やサービスに生かしていく取り組みを始めました。この取り組みを社内の全メディアに広げたいと思っています。
中山:ありがとうございました。
まとめ
イベントを通じ、一見成功しているパブリッシャーでも、日々のKPI設計は試行錯誤を重ねていることが伝わってきました。登壇くださった4社に共通しているのは、「読者の目線に立つ」ことです。データはあくまでもデータにすぎません。データを生かせる組織作りや、ユーザーにとってのメディアの意義を考えることで、初めてデータに意味を持たせることができるといえるでしょう。
キメラのイベントでは、今後もパブリッシャー特有のお悩みや成功例をご紹介していきます。どうぞご期待ください。
イベント前編の様子は以下のリンクからご覧いただけます。
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