Ximera Media Next Trends #12
@May 20, 2021
はじめに
メディアビジネスの次のトレンドを巻き起こす海外スタートアップや動きを一挙紹介する連載シリーズ「Ximera Media Next Trends」第12回となる今回はインタラクティブメディアを取り上げます。
インタラクティブメディアとは、コンテンツ配信者からユーザに対して一方通行にコンテンツを届けるだけではなく、ユーザのインタラクションによってコンテンツ自体やコンテンツ提供者の提供するものがダイナミックに変わるメディアを指しています。
今回はインタラクティブメディアの新たな事例として、Snapchat上でインタラクティブにストーリー展開が進んでいくSolve、動画ストリーミングとして新たな形を生み出したRival Peak、XRライブコンサートを提供するWaveXRを紹介します。
インタラクティブ × サスペンス・ホラー:Solve
Snapchat発祥でインタラクティブなサスペンスホラーをストーリー形式(時系列順に画像や動画を短時間で切り替えていく表示方式)で提供するのが、LAのスタートアップであるSolveです。
Solveはストーリー形式の縦型画面を巧みに使い、あたかもユーザのiPhoneに電話がかかってきたり、Snapchatでやりとりをしているかのような演出を取り入れています。ユーザ自身が実際に画面をタップしインタラクションすることもあり、普段のスマホ利用体験に沿う形でユーザを物語に参加させ、リアリティを演出しています。ただし実際は画面の右端をタップすれば次に進むストーリー形式の動画なので、いわば疑似インタラクティブというところでしょうか。
Solveが製作するストーリーのベースは実際に起こった事件です。ホラーとしてのリアリティが高く、恐怖に真実味があります。Solveのインタラクティブ性はストーリー形式のフォーマットを巧く使い、その真実味のある物語にユーザをより深く誘うよう機能している点で優れています。
ユーザはこのインラクティブ性で臨場感を楽しみながら、殺人事件の犯人を推理していきます。犯人へのヒントをさがすのも目や耳を凝らして画像や動画を見ることではじめて発見できるほどの歯応えがあり、推理モノとしても楽しめます。ストーリーの最後は、種明かしとして実際に起こった事件が紹介され、さらに恐怖が増幅される作りです。
SolveはPodcastも配信しているほか、Instagram、Snapchatとあわせて約3000万人のファンがいます。コンテンツは現状すべて無料で提供しているためビジネスモデルは不明ですが、今後は獲得しているトラフィックを利用したマネタイズを指向していくと思われます。
インタラクティブ × リアリティ・ショー:Rival Peak
Rival PeakはFacebook、Pipeworks、DJ2 Entertainment、Genvid Technologyが共同で製作したインタラクティブ型のリアリティ・ショー動画です。
12週間、自律的に動く12人のAIキャラクターのようすを生配信。彼らの行動は、配信を眺めているユーザが投票で決め、不人気キャラクターは毎週1人ずつショーから脱落。Rival Peakはゲームとテレビ番組のハイブリッドコンテンツ。製作者側もシナリオを把握しきれないまま物語が進んでいきます。
ユーザはただ動画を見るだけではなく、どのキャラクターの行動を見るか、次にどのような行動をさせるか、キャラクターのどのスキルを上げていくかを選択していきます。それらの選択やアクションと連動したポイントシステムがあり、特定ミッションのクリアや参加時間、投票回数、会話回数などもリーダーボードで可視化されていきます。これらのポイント獲得、ミッション達成、リーダーボードへの掲載などはゲームで定番となっているエンゲージメント手法であり、ユーザがよりインタラクションに興じるよう仕向ける仕掛けが導入されていたのです。
Rival Peakは2020年12月1日にFacebookがFacebook Watchで配信を開始、2021年3月3日に終了しました。参加型の体験が大きく話題を呼び、総視聴時間は1億時間以上を記録、2億以上のユーザーのエンゲージメント(Facebook Ravial Peak上でのリアクション、コメント、シェア、クリックの数)を記録しました。世界70カ国以上に配信し、アクセス上位5カ国はアメリカ・インド・フィリピン・ブラジル・メキシコ、Android端末でのアクセスが84%を占めました。ひと目でわかるインフォグラフィックも掲載されています。
Genvid TechnologyのCEOは今回の成功を受け、著名IPを使ったMassive Interactive Live Event(MILE)ジャンルの拡大を進めていくと語っています。マネタイズは動画内でのアイテムやアクション課金など広告以外にもできることの幅が広く、今後は経済的にどれほど成功できるかにも注目が集まりそうです。
インタラクティブ × XRライブコンサート:WaveXR
最後に紹介するのが、XRを使った音楽ライブコンサートにおけるインタラクティブ性です。LAのスタートアップであるWaveXRは音楽ライブコンサート会場とアーティスト本人をXR空間上にCGとして作り出すことで、新たな音楽パフォーマンスの形を提供しています。
ユーザはYouTubeやTwitchなどでバーチャルアーティストのパフォーマンスを視聴することができ、そこでは、ユーザのコメントがステージに反映される/投票によって次にアーティストが演奏する曲が決まる/投票によってステージが変わるといったように、ユーザのアクションがアーティストの選曲や演奏の雰囲気を変えるインラクティブ性を持っています。
また特別に招待されたZoomでカメラをオンにしてダンスしているユーザのようすが、ステージに次々と映されることで、バーチャル空間においてもライブの一体感をうまく演出しています。
従来の音楽ライブのストリーミング配信では、アーティスト側にユーザが盛り上がっていることを伝える手段はコメント程度でした。アーティスト側も演奏で手一杯のため細かくコメントをチェックすることもできずユーザの反応が見れないままパフォーマンスせざるを得ないため、リアルなライブ会場で感じるような一体感を従来のストリーミング配信で感じるのは難しいのです。
しかし、WaveXRが提供する技術や演出によって、ユーザの盛り上がりは可視化され、アーティストは演奏のモチベーションが上がります。ユーザ側からもインタラクションが発生することでリモートでの音楽ライブのあり方が大きく変わろうとしています。
ビジネスモデルとしては従来のチケットやグッズ販売のほか、「投げ銭」もできるため貢献金額が高いユーザの名前がステージにハイライトされたり、ステージ上のアイテム(大量の泡を出現させる、レーザーの光で照らすなど)をユーザからアーティストにプレゼントし、それをアーティストが使うことができるなど、これまでのライブ・コンサートにはなかった新たな収益を作ることを可能にしています。
WaveXRはグラミー賞を3回受賞したThe WeekendのTikTokでのバーチャルパフォーマンス、ムーンバートンと呼ばれる音楽ジャンルを作り出したDillon Francis、デジタルポップを展開するDJのAlison Wonderlandなどビッグネームのバーチャルコンサートをプロデュースしています。The WeekendのTikTokパファーマンスでは200万以上の視聴と35万ドル(約3500万円)の寄付を生み出すなど、インタラクティブ型のコンサートが実績を出しはじめています。
おわりに
今回はインタラクティブメディアの具体例がフィクションフィルム、ゲーム、音楽コンサートと、エンターテイメント分野から出現している事例を紹介しました。現状は動画をベースにしたものが目に付く状況ですが、テキスト・音声・XRといった分野でもコンテンツやメディアのインタラクティブ化がさらに進んでいくことが期待されます。
これからの時代は、インタラクティブを軸にメディアやコンテンツ設計ができる人材が新たなメディアやコンテンツを生み出していくことで、人々の興味関心を満たしていく可能性があります。そしてそのような人々がこれまでに連載で扱った「クリエイター」と呼ばれる存在になると思われます。新たなビジネスの潮流が起こることを期待し、これからもインタラクティブメディアのトレンド変化を追い続けたいと思います。
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