メディア化するVC、VC化するクリエイター
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メディア化するVC、VC化するクリエイター

テック・スタートアップ関連メディアの再定義、クリエイターエコノミーの台頭が背景に

By キメラ|Ximera Media Next Trends #17| Aug 6, 2021

はじめに

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第17回となる今回は、「メディア化するベンチャーキャピタル(VC)とVC化するクリエイター」について紹介していきたいと思います。

近年VCまたはVCに所属する投資家、またクリエイター(特にスタートアップにおけるグロース経験やエンジェルとして活動する個人投資家など)が自らコンテンツを発信する機会が増えています。VCがブログなどでスタートアップへの投資活動について開示することはこれまでも多く行われてきましたが、近年は業界のトレンドや未来予想を開示することも珍しくなくなってきました。これはベンチャーキャピタルが起業家に対する存在感を強化し、さらなる出資機会を得るために実施されていることですが、その観点が先進的なビジネスや技術でかつ、業界内部の専門的な内容であるため、起業家のみならず企画や開発を行う多くのビジネスマンにとってもひとつの有益な情報メディアとなっています。また同時にクリエイター側では、Substackなど有料のニュースレターを中心とした個人メディアの成功を起点として、マイクロファンドを組成しメディアとVCを両輪で回す事例も出てきました。

今回はVCがなぜメディア化しているのか、クリエイターがなぜVC化しているのか事例を取り上げながら紹介したいと思います。

メディア化するVC

USのトップティアの各VCでは、投資テーマを明確に定め、各テーマごとに記事を提供し、来たるトレンドとそれに関するスタートアップの紹介、およびスタートアップ業界の人々に役に立つキャリア形成、各職種毎に必要なノウハウなどをメディアとして公開しています。例えば、Andreessen Horowitz(アンドリーセン・ホロウィッツ)First Round CapitalUnion Square VenturesIndex Venturesなど名だたるVCは大なり小なりメディアを持っており、通常のメディアでは持ち得ないディープな情報を価値として提供しています。例えば、Union Square Venturesでは、Access To Knowledgeというテーマで教育関係のEdutechを中心としたトレンドや投資家活動について、なぜそれが重要か、なぜこのスタートアップに投資を行ったが紹介されています。

メディア化するVCの動きを象徴するのがアンドリーセン・ホロウィッツです。アンドリーセン・ホロウィッツは2009年に創立されたUSのトップティアのベンチャーキャピタルです。これまで、Facebook、Twitter、Oculus、Slack、Airbnb、Clubhouseなど社会のプラットフォームとなるような名だたるスタートアップの投資を数多くリードしてきた存在です。アンドリーセン・ホロウィッツに先見の明があったのは、いずれVCは資金を提供するだけでは立ち行かなくなることを創業初期から見通していたことでした。スタートアップの創業者をサポートし続けたいという理念をもって、投資機能だけでなく、マーケティング、人材採用、技術支援、IPO支援など専門チームを立ち上げ180人を超える大所帯(100名以上が投資”後”の支援を行う組織に属しています)で運営されています。さまざまな機能を持つアンドリーセン・ホロウィッツのチームはPlatformチームと呼ばれ、10-20名程度で投資機能と人脈の提供をメインに運営される多くの伝統的なVCと大きく違う点です。

アンドリーセン・ホロウィッツはVCをマネタイズ手段とするメディア企業とも言われています。元Wiredの編集者を採用しポッドキャストやブログなどを2010年代の早期から立ち上げており、スタートアップ業界における人気番組をすでに持っています。未来を予測し、大きな投資ファンドを立ち上げ、これらのメディアで起業家の注目を集め、信じたトレンドやスタートアップに投資と支援を行い続けるサイクルを繰り返すことで、アンドリーセン・ホロウィッツはこれまで成功を収めてきました。

そのメディア戦略の強化として考えられるのが2021年6月のFutureの立ち上げです。これはアンドリーセン・ホロウィッツが起業家への出資や支援をより加速するためのPRやマーケティングの取り組みの一環でもありますが、もう一つ理由があると考えられています。本連載でも過去取り上げたように、近年、既存メディアの信頼性の低下に対して読者と適切にコミュニケーションするための手段がスタートアップ業界でも必要とされています。今回アンドリーセン・ホロウィッツが新たにWebメディアを立ち上げたことは、VCやスタートアップ業界が直接ダイレクトに読者とつながり、より正確な情報を伝え、ブランドを作り上げていくために仕掛けた象徴的なアクションだと考えられます。

Futureでは、暗号通貨、ゲーム、ソーシャル、バーチャルワールド、バイオといったカテゴリでのトレンドや未来予想、スタートアップの指標やマインドセット、投資や資本の流れといったカテゴリを中心に、事業を考える上で役に立つコンテンツが多数提供されています。アンドリーセン・ホロウィッツに所属する投資家達はもちろん、Stripe CEOのPatrickさん、元AirbnbのProduct ManagerだったLennyさん、Microsoft ResearchのNicoleさんなど、各業界やジャンルで実績を出してきた専門家が記事を提供しています。それぞれの記事が深い洞察と広い視野を持っており、非常に品質の高いものとなっています。

Futureは2021年6月15日にローンチされてから6月25日まで30以上の記事が公開されましたが、2021年7月24日時点では、サイトとしてはここで一旦更新をストップしています。編集部が公開した最後の記事では、要約すると「6月号の”ドロップ”をロンチしました。毎月の”ドロップ”が7月からはじまります。見逃したくなければニュースレターを登録してください。」と記載されています。これは本連載で以前紹介したMSCHF(ミスチーフ)が実施しているような時限式のコンテンツ提供方式の”ドロップ”を意識しているものと思われます。最初に優良な記事群を一気に提供し、次にいつコンテンツが提供されるかわからない状態を作り出すことによって、いわゆるFOMO(取り残されることへの恐れ)を読者に抱かせてニュースレター登録の促進を図っているように見えます。

VC化するクリエイター

VCがメディア化していくと同時に、スタートアップやVCなどで成功したクリエイターも近年Substackなどのツールを使ってニュースレターを次々と立ち上げています。例えば、Airbnbでプロダクトマネージャーとしてグロースに大きく貢献したLenny Rachitskyさんは、プロダクト、グロース、人材戦略などのトピックを自身の経験を元に取り上げるSubstackニュースレターを立ち上げています。無料会員は月一回ニュースレターが届き、有料会員(15ドル/月または150ドル/年)になると毎週有料記事が読めるようになります。2020年末時点ですでに3000人の有料購読者がついており、Airbnbで貰っていた給与を超える収入をニュースレターのみで得ているとのことです。

LennyさんのようにクリエイターがスタートアップやVCで成功した後、自身のメディアを運営しつつ、エンジェル投資家としても活動することはこれまでもよく見られていました。しかし近年はそれにとどまらず、クリエイターがマイクロベンチャーファンドを立ち上げたり、エンジェル投資家が多数集まって共同で大手VC並の大きな額の投資をするようになってきました。元Shasta VenturesNikhil TrivediさんのFootwork、複数のベンチャーキャピタルの立ち上げや運営を行ってきたTurner NovakさんのBanana Capital、元Breather(ミートアップスペースを探すためのスタートアップ)のPacky McCormickさんのNot Boring Capitalなど、2021年だけでもこうした複数の事例が出てきています。

「大きく組織化することなく個人でヒキの強いメディアとファンドが作れる」。これが今起こっているトレンドです。こういった動きは、これまでになく個人の力が強くなっている影響が見て取れる出来事だと思われます。

この動きからは、クリエイターとしての成功ノウハウをSubstackなどのメディアで提供しつつ、ファンドを組成することで、さらに起業家の注目を集め、VCとしてもメディアとしてもさらに成長していく戦略が伺えます。こうした個人クリエイターのVC化が加速すると、投資戦略、投資実績、投資先企業の情報を公開することも可能になり、メディアコンテンツの拡充にもつながります。先に紹介したVCのメディア化と同じく、スタートアップの内部に深く切り込み、外から見える以上の情報へもアクセス可能なため、コンテンツの独自性も確保できます。それがさらに外部の起業家や投資家の興味を招き、ファンドのLP(Limited Partner)獲得や投資先企業への紹介につながるポジティブなループが期待されます。

おわりに

今回は「VCのメディア化とクリエイターのVC化」についてとりあげました。VCが読者に直接情報を届けるD2C化の動きをみせ、一方ですでにD2Cで読者を獲得したクリエイターメディアがVC化する動きを見せています。こうした流れからは、あらためて(特にテック関連の)メディアのあり方が再定義されていると感じます。特にクリエイター側の動きは目まぐるしく状況が変化しており、ソーシャルメディアやニュースレターなどクリエイターエコノミー関連のテクノロジーの進化によって、クリエイターのプレゼンスが大きく上がっています。今後もクリエイターのメディア化・VC化は進み、さらに影響力が大きくなるものと考えられます。また、VCについてもアンドリーセン・ホロウィッツのように投資のみならずメディアをはじめとした起業家支援のバックボーンのビジネスにさらに変容していくこともありえます。

キメラでは今後もこうしたメディア・クリエイター・VCの関係性についてもトラックしていきたいと思います。

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