October 21, 2022
Webページのアクセス解析は、多くの商業Webメディアの運営と不可分な存在です。
しかし、それを課題に感じている組織があるのも現実です。
数値を取得するツールは導入したものの分析をしたり改善に活かしたりすることが難しい。このような話はいまだによくあります。データを使った他部署との連携を難関と感じる声はなおさら大きいでしょう。データの活用には、組織の理解も必要なのです。
ここではそのデータ活用と組織の課題に、3年ほど前から向き合いはじめたNHK NEWS WEBの実践内容を紹介します。わたしたちキメラのオンラインイベントに登壇いただいた際にお話しいただいたものです。
スピーカーはデジタルコンテンツ戦略担当チーフプロデューサー松枝一靖さん。実践からの実感とその成果、そこへと至る道のりを語っていただきました。
1. 毎朝、編集会議。データで褒めて方向性を共有する
組織によるメディア編集に方向性の共有は欠かせません。
NHK NEWS WEBでは「ネット編集会議」を共有の場として運用しています。
通称「朝会」。これを毎朝、実践しています。毎朝です。
朝会ではニュースの予定やネットの話題を共有するなかで、前日のアクセスの振り返りと共有もしています。利用しているのはChartbeatのヒストリカル ダッシュボード。これを画面に映して、アクセス上位の記事を共有。その際に意識しているのは褒めて伝えること。
データを褒めて共有することのメリットは、
- 何がよいのか、方向性と具体例を全員で共有できること
- よかった事例は今日から活用できること
の2点。
しかしこれをやってみて松枝さんが気づいたのは、よいポイントをメンバー間で揃えることの難しさでした。
この難しさへの取り組みにも、データに向き合うメリットがありました。
松枝さんの言葉です。
よいと思うポイントを揃えるのは案外むずかしくて、やっぱわたしと大東さんでもよいと思うものは必ずしも一致しないと思うので。それが10人になると10人になってしまいますと。 [中略] データっていうひとつの同じ立ち位置に立って、数値で紹介・褒めることで、方向性が具体的に共有できるっていうメリットがあったんだと思ってます。 何がよいかが共有されるとですね、「あ、こういうのは、よろこばれるんだ、いいんだ」ってなってって、個々が自然と改善をはじめるのがポイントかなと思ってます。
まとめると、
- 感覚ではなく、データという共有できるもので褒めることで、方向性(何がよいのか)が具体化できる
- 何がよいのか共有されると、個々が自然と改善をはじめる
松枝さんは「方向性を合わせていくのに、この方法はよかった」と振り返っています。
この「何がよいのか」をきちっと定義できている組織は多くないように感じます。それゆえにデータを眺めるものの、そこから何も得られない。
しかし、その状態でも記事をつくる方々の内面には手応えのある・なし、読んでほしい記事と文脈があるはずです。それを共有の場でメンバーに話してみる。その対話のなかで松枝さんの感じた「方向性を合わせる難しさ」と「データの有用性」に気づくはずです。
2. 自分たちでやってみるのが大事
NHK NEWS WEBサイト全体の分析もしていますが、毎月1回、コーナーごとの振り返りもします。その際に使用しているのがこのカルテのようなレポート。このレポートの作成は、当初、松枝さんご自身と数名の有志で作成していたとのこと。
PVや平均滞在時間、流入経路などが並ぶなか、検索に対して、キーワードの漢字・ひらがなの使い分けについても記載してあることがわかります。メディアとしての統一表記と検索エンジンへの親和性が議論になっているということです。
拡散に寄与したツイートのシェア数・いいね数、検索表示回数やクリック数、それをワードごとにデータで観察しています。
こちらは「書き方」「ストーリーの作り方」の振り返り。単に数字の大小の判断ではなく、自分たちの手法の結果を数字で評価している点がポイントです。
このレポート、作るのが本当に手間とのこと。しかし自分たちで作っている。自分たちでやってみることがとても大事だと、松枝さん。外部に教えてもらってもいいが、最後は自分たちでやる。自分たちでやることで気づきが多いといいます。
毎月やっていると、知りたいポイントやテーマが見えてくる。そして行き着いたのは「いきなりデータだけをみても、たいていうまくいかない」。
これがデータを活用できない編集組織にありがちな状態です。自分たちの課題や、読者にどんなことをしてあげたくてその記事を発信しているのか。それがないままデータを見ても、データに意味付けができないのです。
間違ってはいけないのは、データを取得することが目的ではないことです。自分たちの課題と、それに対する行動の結果を人間が測るために、数値データという客観的な定量情報が役に立ちます。
データを前に呆然としてしまう方々はまず、自分たちの課題を抽出してみてください。目的思考が大事です。
3. 広がらなくてもがっかりしない
最後に。データ活用が組織になかなか広まらない悩みはNHK NEWS WEBにもあります。
当初、振り返りに手を上げたのは4人だったそうです。しかし先月(2022年9月ということですね)は19人の参加。これまでの参加率は最大でも3割。3割来たら熱量高く感じるそうです。1割ほどの参加率のことも全然あり、基本的に来ない、からスタート。光景が目に浮かぶ方もいらっしゃるのではないでしょうか。
なかなか広がらなくてもがっかりしないマインドセットにすることが大切で、根気強く付き合っていく必要はありそうです。そんななかでも松枝さんは「核になる熱量を持った中心メンバーが入ると一気に広がる」ともおっしゃっています。
もうひとつ、「成功すると自然と輪が広がってくる」。小さな成功を、メンバーで共有しながら進める。データと向き合う組織づくりを急ぐのは無理があります。広がらなくてもがっかりせず、着実に進めましょう。
イベント当日のようすは動画でアーカイブ配信しています。ぜひご覧になってみてください。
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イベント主催:株式会社キメラ
キメラは2019年1月以来、70を超える国内パブリッシャー(新聞社・出版社・放送局)でサブスクリプションの事業設計、デジタルメディアのグロース、分析体制の構築などを支援しています。
コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat」の日本総代理店としてデジタルメディアの分析支援や体制づくりに取り組む一方、2021年には自社開発したサブスクリプション管理プラットフォーム「AE」を通してパブリッシャーのサブスクリプションビジネス開発を支援。2024年9月からはソーシャル動画の横断分析ツール「Tubular」の導入と分析の支援を開始。
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