Akiko Nakayama|Mar 9, 2022|サブスク・メディアビジネス解説
こんにちは、株式会社キメラと申します。私たちはパブリッシャー(出版社・新聞社・放送局)に対し、メディアビジネスをグロースするための課題解決やデジタル化をご支援しているスタートアップです。2019年1月に活動をはじめて以来、国内50を超えるメディアにサービスを提供しています。
サブスクリプション(有料定期購読)は、デジタルメディアの収益化において期待と注目を集めている手法のひとつです。しかしながら「紙面のように手に取れる商品がないだけに、ビジネス設計に悩んでいる」という声もひんぱんにお聞きします。
今回のブログでは、デジタルメディアにおける代表的なサブスクリプション課金のパターンや、向いているメディアの特性を国内外の事例とともに紹介します。
1. 一部のコンテンツを有料化する
トップページや記事一覧のなかに、有料購読者だけが閲覧できるコンテンツを配置することで課金を促すパターンです。日本のニュースメディアでよく見かける「鍵掛け記事」も該当します。無料コンテンツによって一定の集客を担保できることに加え、課金の対象にしたい記事をその都度設定できるので、バランスのよい運用がしやすい点が魅力です。
おすすめの実装
- プラン:月額・年額の定期購読
- マーケティング:
- 無料お試し期間を設けてコンテンツの魅力に触れてもらう
- 特定チャネルの読者に割引クーポンを発行
向いているメディア
- ビジネスモデル:無料広告モデルとの両立をはかりたい
- 運営体制:コンテンツを出稿・編成する体制を統一したい
- コンテンツの特性:熱心な読者がついているコンテンツ、テーマ、著者コラムがある
採用事例
- CNBC
- 日本経済新聞
- ダイヤモンド・オンライン
成功のために
留意すべきは「長い付き合いのできる読者をつねに意識する」ことです。有料購読のモチベーションが特定のコンテンツに由来しやすいので、瞬間的なページビュー数や有料課金の転換数だけで読者層を判断してしまうと、結果的に長期的な課金につながりにくい読者が集まってしまうことにもつながります。メディアへの愛着を持ってくれる読者層を見極め、集客においても狙いを持つことが重要です。
2. 無料で閲覧できるコンテンツ量に上限を設ける
いわゆる「読み放題」を課金の根拠とするパターンです。すべての記事を「原則として有料コンテンツ」として扱い、閲覧したコンテンツの本数が一定量を超えるとペイウォール(有料課金を促すコンテンツウォール)を出現させます。一定の基準に達するまではすべてのコンテンツを無料で閲覧できるので、コンテンツを起点に幅広い読者にリーチできることが強みといえます。
おすすめの実装
- プラン:月額・年額の定期購読+月間◯本無料
- マーケティング
- 回遊の高い時期・チャネルで無料お試し
- 長期購読者を対象としたクーポンで継続を促進する
向いているメディア
- ビジネスモデル:無料広告モデルと両立したい
- 運営体制:コンテンツ量が多く、出稿や有料化の判断にかかる負荷をおさえたい
- コンテンツの特性:習慣的にメディアを訪れるコンテンツが一定量提供できる
採用事例
- The New York Times
- Bloomberg
- あなたの静岡新聞
成功のために
留意すべきは「メディアへの訪問を生活習慣に溶け込ませること」です。コンテンツを何度も読むことでペイウォールが表示される特性から、無料で閲覧できる範囲で満足されてしまって有料購読につながらなかったり、メディアへの訪問頻度が落ちて解約のリスクが高まることが想定されます。日々メディアに訪れ、一定量のコンテンツを消費する習慣をいかに作るかがカギといえるでしょう。
3. 有料購読者向けのコンテンツを集めたエリアを設ける
有料購読者だけが読めるコンテンツを一箇所に集め、特設サイトのような見せ方をしているケースです。無料で読めるコンテンツと掲載場所を分けることで、有料購読プランならではのブランディングや、機動的なサービス提供をしやすくなることがメリットです。
おすすめの実装
- プラン:月額・年額の定期購読
- マーケティング
- 無料お試し期間を設けてコンテンツの魅力に触れてもらう
- 有料購読者へのメール配信で付加価値アップ
向いているメディア
- ビジネスモデル:無料で読めるコンテンツと棲み分けをはかりたい
- 運営体制:既存チームと組織を分け、スピーディな改善や施策を行いたい
- コンテンツの特性:独自のコンテンツや世界観に対して熱心なファンがついている
採用事例
- 週刊文春 電子版
- WIRED 日本版
成功のために
留意すべきは「デジタルで購読したくなる明確な価値を打ち出す」ことです。有料購読者向けのエリアに訪れる読者は、紙媒体の愛読者を含め、メディアのブランドやコンテンツに肯定的なイメージを持っている可能性が高いです。単に紙面のコンテンツをデジタル化するだけでは、紙面の愛読者は「慣れ親しんだ紙面を買い続ければ十分だ」と判断するでしょう。また、デジタルにおいても無料コンテンツとの違いが不明瞭だと、現状のコンテンツに満足している読者にとっては有料購読の必要性を感じにくいはずです。既存の紙媒体や無料コンテンツでは得られない、デジタルサブスクリプションならではの価値を明確に伝えることが重要です。
事例において『週刊文春 電子版』はスクープが紙媒体よりも早く読める利便性を押し出していますし、『WIRED 日本版』はサブスクリプションサービスを「特区」と位置づけて独自の世界観を打ち出しています。運営体制においても、従来とまったく異なるオペレーションや施策を念頭に置くとよいでしょう。
4. メディア全体を有料購読者向けにする
メディアに掲載するすべてのコンテンツにペイウォールを設置し、有料購読を促すパターンです。無料で読めるコンテンツをあえて提供しないことで、紙媒体のような統一された世界観をつくりやすかったり、有料購読に対するプレミアム感を演出しやすかったりするメリットがあります。
おすすめの実装
- プラン:月額・年額の定期購読
- マーケティング
- 無料お試し期間や割引クーポンを初期の読者に提供する
- 有料購読者へのメール配信で付加価値アップ
向いているメディア
ビジネスモデル:広告モデルを利用せず有料購読者の満足度を高めたい
オペレーション:認知向上のための施策やブランディングに経営資源を投下できる
コンテンツの特性:独自性の高いコンテンツを継続的に提供できる体制がある。ターゲット顧客に明確なニーズがあるコンテンツを提供できる
採用事例
- The Washington Post
- The Athletic
- Slownews
成功のために
留意することは「新たな読者を得るための戦略的なPR」です。すべてのコンテンツにペイウォールが設けられているため、新たな読者との接点を戦略的につくりだすことが不可欠です。たとえば、この課金モデルの代表例であるスポーツメディア「The Athletic」は、他メディアやスポーツチームと提携し、無料お試し期間や割引を効果的に提供することで読者を獲得しています。
5. メンバーシップを提供する
購読の対価を「コンテンツを閲覧すること」ではなく「メディアのコミュニティに加わる、メディアを支援する」ことに位置づけているパターンです。メディアの運営メンバーと近い距離で関われることを付加価値とする、もしくはメディアの運営方針を継続するためのサポートとして課金を呼びかけるケースが多いです。
おすすめの実装
- プラン:月額・年額の定期購読
- マーケティング
- クラファン支援者などに割引クーポン進呈
- 有料購読者へのメール配信で付加価値アップ
向いているメディア
- ビジネスモデル:広告モデルを積極的に利用せず、無料コンテンツを維持したい
- 運営体制:運営者たちの顔が見え、個性や考え方を押し出すことができる
- コンテンツの特性:メディアの存在や活動方針に対して熱心なファンがついている
採用事例
- The Guardian
- デイリーポータルZ
成功のために
留意すべきは「共感や応援の気持ちを広く生み出すため、継続的な接触をつづける」ことです。明確な対価を設定しないモデルであるだけに、課金のハードルはこれまで紹介したケースよりも比較的高いといえます。持続的に収益を得るためには、メンバーシップに加わりたくなるほど熱心な読者を確保し続けることが大切です。新たな読者を呼び込み、既存の読者の心をつかみつづけるために、メディアの魅力やメッセージを広く長く伝えていくことが重要です。
コンテンツこそが価値の源泉
ご覧になって気付いたかもしれませんが、記事のなかでは繰り返しコンテンツについて述べています。デジタルメディアのマネタイズを検討する際は「コンテンツは無料で読めて当たり前だから、紙媒体とはまったく違うことをしなくては」と考える方もいるかもしれません。
しかし、これまで積み上げてきたコンテンツの魅力やメディアブランドと結びつかないサービスは、短期的には収益に結びつくかもしれませんが、中長期的にはユーザーが定着しなかったり、ともすれば既存媒体のブランドを傷つけてしまうかもしれません。
付加的なサービスはあくまでも満足度を高めるものであって、読者がメディアにお金を払う価値の根源はあくまでもコンテンツ――すなわち、メディアが培ってきた世界観や価値観、知見、書き手の魅力、業界へのネットワークではないでしょうか。メディアにとっての価値の源泉を見失うことなく、デジタルメディアに適した表現や課金パターンを模索いただきたいと思います。
ビル・ゲイツが1996年に「Contents is king(コンテンツこそが王者である)」と題したエッセイを著してから四半世紀が経ちます。いまでも色褪せないメッセージとして肝に銘じたいものです。
"Content is King" - Essay by Bill Gates 1996
Ever wondered where the phrase "Content is King" stemmed from? In January 1996, Bill Gates wrote the following essay titled "Content is King", which was published on the Microsoft website. "Content is where I expect much of the real money will be made on the Internet, just as it was in broadcasting.
medium.com
株式会社キメラへのお問い合わせ
キメラは2019年1月以来、70を超える国内パブリッシャー(新聞社・出版社・放送局)でサブスクリプションの事業設計、デジタルメディアのグロース、分析体制の構築などを支援しています。
コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat」の日本総代理店としてデジタルメディアの分析支援や体制づくりに取り組む一方、2021年には自社開発したサブスクリプション管理プラットフォーム「AE」を通してパブリッシャーのサブスクリプションビジネス開発を支援。2024年9月からはソーシャル動画の横断分析ツール「Tubular」の導入と分析の支援を開始。
キメラのコーポレートページへ
データ分析にまつわる学びや最新のリサーチにはニュースレターでキャッチアップできます。事業設計にまつわる事例やデータ分析の解説、関連ニュースの読み解き、メディア業界の次のトレンドをお届けします。
ニュースレターの配信登録ページ