Akiko Nakayama|Sep 11, 2019|サブスク・メディアビジネス解説
株式会社キメラです。私たちは新聞社や雑誌社、放送局といったパブリッシャーに対して、SaaSの提供やコンサルティングでメディアビジネスを支援しています。
前回のブログ「海外メディアのサブスクリプション、5つの”定石”ペイウォールを解説 」 はお読みいただけましたか? 今回は海外メディアの状況を踏まえ、国内メディアのサブスクリプション設計がどうなっているか、海外と比較しながらひも解いていきます。
日本のサブスクリプションは、メンバーシップ型とハイブリッド型が大多数
上記のnoteで説明したように、海外メディアのサブスクリプションは、ペイウォール(課金の障壁)の種類で5つに分類できます。
- フリーミアム型:記事は原則すべて無料で読める。追加の機能やコンテンツを有料提供
- メンバーシップ型:特定の記事を閲覧するには会員登録が必要
- メーター課金型:一定回数記事を読むとペイウォール表示。さらに読むには会員登録
- ハイブリッド型:フリーミアム型とメンバーシップ型の組み合わせ
- タイマー型:記事を公開してからの時間経過によってペイウォールを表示
海外ではこのようにさまざまなペイウォールがありますが、国内メディアのほとんどは「メンバーシップ型」か「ハイブリッド型」です。メンバーシップと組み合わせていないフリーミアム型や、無料で閲覧できる記事数に制限を設けるだけのメーター課金型を採用するメディアはほどんど見かけません。
例えば、毎日新聞社「デジタル毎日」やダイヤモンド社「ダイヤモンド・オンライン」 は有料会員だけがプレミアム記事を読めるメンバーシップ型です。
また、日本経済新聞社「日経電子版」や朝日新聞社「朝日新聞DIGITAL」は、会員登録を求めた上で、プレミアム記事を無料会員も一定数読めるので、「メンバーシップ+フリーミアム」のハイブリッド型に分類できます。
手厚い無料枠、南京錠アイコン…国内メディアは「無料が基本、有料が特別」
国内メディアのハイブリッド型運用で特徴的なのが「非会員でも、記事公開から一定期間は無料で読める」「無料会員でも、一定数の有料記事を読める」など、購読料を支払わない読者にも手厚くしているケースがあることです。
記事タイトル横に「南京錠」アイコンを表示するのも、国内メディア独特の考え方です。会員でないと読めない記事をアイコンではっきり区別しており、コンテンツ制作でも「有料記事」と位置付けていることがほとんど。南京錠の中でも、無料会員は読める記事と有料会員でないと読めない記事でアイコンのデザインを変えているメディアもあります。
また、国内メディアのもう一つの特徴として、コンテンツにアクセスするまでのステップ数の多さが挙げられます。ペイウォール表示には会員登録やサブスクリプション契約と関係ない「ログイン」ボタンがかなり目立つ設計になっています。無料会員として登録しようとすると、名前とメールアドレスに加えて、生年月日、住所、職業の入力を必須にしているケースが見受けられます。読者にとってはステップ数が多くなり、登録までのハードルが高くなります。結果、会員登録するのはかなり前向きな意識を持つ読者に絞られてしまいます。
国内メディアの会員制度は広告活用を意識した設計
こうした国内メディアの特性は、サブスクリプション設計の一環ではなく、広告ビジネス向けに作られた当初の会員制度に由来しています。
非会員が一定期間は無料で読めるのは、ページビューを稼ぎ、バナー広告の掲載機会やタイアップ広告(記事広告)への誘導機会を増やすためです。
また、一定数の有料記事を無料会員でも読めるようにしている代わりに、国内メディアは無料会員の登録時に年齢や職業、年収などの細かい属性を登録させることがあります。これは取得した属性を「部長以上の人に広告のメールを送信する」というターゲティングメールや「ホワイトペーパーをダウンロードした読者の属性を広告主に渡す」というリードジェネレーション(見込み顧客の連絡先取得)で収益化に生かしているからです。だからこそ無料でもログイン情報を取ることを重視してステップ数を増やしたり、「無料でも登録してくれてありがとう」という文脈で、有料記事を無料会員にも読めたりする設計にしているのでしょう。
ただし、ステップ数を増やすことは、本来はサブスクリプション契約を見込めるであろう読者を逃すことになりかねません。
海外メディアの会員制度は「有料が基本、無料が特別」
海外メディアにおける無料会員は、匿名の読者をなんらかのコミュニケーションを取れる関係に変化させるためのマーケティングの一環という位置付けです。「有料で記事を読むのが基本で、マーケティングの一環で無料で読めるだけ」という位置付けをはっきりさせているのです。そのため、ペイウォールで無料会員か有料会員を選ばせるなど条件の選択を迫ることはなく、読者の行動を基に、無料会員に登録させるほうが相応しければ無料会員登録を勧め、有料会員にすべき状況であればサブスクリプションを具体的に提示します。無料会員として登録する場合も属性を細かく聞いてくることなく、非常に少ないステップ数で無料会員や有料会員になれます。
The New York Timesなど海外のサブスクリプション先進メディアで、南京錠アイコンを採用するところはほぼ見かけません。どの記事がどの条件でサブスクリプションが必要かをあえて明確にしておらず、最初は自由に読めていた記事も一定のメーターを超えると急に無料で読めなくなります。実際にThe New York Timesは2019年8月末に、無料会員が読むことができる残り記事数のカウントダウン表示を廃止したことを発表しました。
国内メディアでよく見る「南京錠」アイコンはその逆です。「無料で記事を読むのが基本で、有料記事をどうしても読みたい人はサブスクリプションを契約して鍵を解除」というメッセージになってしまいます。記事が読めない理由をアイコンで誠実に伝える、のはわかりますが、海外メディアのようにアイコンとは異なるアプローチを検討する余地はあるはずです。
ペイウォール設計や会員制度設計、そして「南京錠」アイコン。国内メディアで見かけるサブスクリプションは、このように海外メディアと比較すると意外なほど違いがあります。読者が初めてメディアに接触したところから、最終的にサブスクリプションを契約するまでのプロセスを改善し続けているのがいまの海外メディアの状況です。国内でも現状の設計が本当に読者のためになっているか、仮説を立て、設計の変更などさまざまな施策を実施し続けることが重要です。
“当たり前”を疑い、他社を横目に見つつ自社PDCAを回す
ここまで、国内のメディアにおけるサブスクリプションの特徴と、留意すべきポイントを解説しました。最後に、サブスクリプションを導入している、もしくは導入を検討しているパブリッシャーのみなさまにお伝えしたいことがあります。
すでにサブスクリプションに取り組んでいらっしゃるパブリッシャ―の方々は、「いつもログインしたままで自社メディアを開かない」ことに気を付けてみてください。これから導入を検討しているパブリッシャ―の方々は、国内の事例をそのまま真似るのではなく、国内外のサブスクリプションメディアに幅広く目を通し、どのようなペイウオールを意識するとよいでしょう。ペイウォールの設計思想は各メディアそれぞれです。「自分が考える当たり前」は意外と違っているものです。
しかし、日々の業務を遂行しながら、常にさまざまなメディアのサブスクリプション設計をウォッチし続けるのはなかなか大変です。私たちとしては、弊社のようなサブスクリプションに関する知見を持つパートナーと共に事業設計やPDCAを回していただくのがベストだと考えています。
今回のブログは以上です!
少しでも皆様のお悩みを解決するヒントになれば幸いです。今後も、パブリッシャービジネスに役立つ知見や事例をご紹介していきます。
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