クリエイターや支援する人がダイレクトに報われる世界
Ximera Media Next Trends #24|By キメラ|Nov 24, 2021
Illustration by unDraw
はじめに
メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第24回となる今回は「Web3時代のWriting Platform」を取り上げます。
さまざまなところで取り上げられているWeb 3.0(Web3とも記述されます)。Webをデータとして意味を持たせて統合的に扱う構想である旧来からのSemantic Webの要素を含むものもあれば、分散型Webシステムを含むものもあり、明確に共通の定義があるわけではありません。本稿では便宜的に「ブロックチェーンに代表される分散化技術を使った脱中央集権的な新しいインターネットの形」と定義します。
昨今Web3がバズワード化している背景には、GAFA(最近ではFacebookの社名変更に連動してGAMA)に代表される、各種プラットフォームへの一極集中があると考えられます。Web2時代のプラットフォームは、少数の人間が提供するアルゴリズムとルールが全ユーザに適用され、プラットフォームの意を介さない動きは排斥されます。しかしFacebookの内部告発にも代表されるように、少数の巨大な力を持つプラットフォームが間違った運用をしてしまえば壊滅的な影響を人々に及ぼすことは明らかです。
そうした問題を解決するためにWeb3の考え方が支持を得つつあります。そしてメディア領域ではクリエイターとファンが自律分散的にプラットフォーム自体を作り上げるような動きをサポートするサービスが出てきているのです。
そこで今回はメディアにおけるWeb3実現に取り組むスタートアップを紹介したいと思います。
ライターとファンで作るWeb3プラットフォーム: Mirror
これまでクリエイターがコンテンツを生み出しても、大きなトラフィックをファンから獲得し、広告・サブスク・物販などで収益化できるまでのハードルは高く、また同時にプラットフォームが次々に変えてくるルールやアルゴリズムがクリエイターの活動継続のリスクになっていました。
たとえばApp StoreやGoogle Playの30%という高いストア側手数料や迂回課金禁止問題のように、プラットフォームの力が強すぎるがゆえ、多くのクリエイターやファンはプラットフォーマーの決めたルールに従わざるをえません。ルールを犯せばFortniteのようにプラットフォームから排除され、ビジネスにネガティブなインパクトを残すことになります。巨大プレイヤーのEpic Gamesですらそのような状況であり、ましてやいちクリエイターやファン側がルールを変えることは非常に敷居が高いといえるでしょう。
ジャーナリズム、小説などWriting領域でこの課題に対して取り組んでいるのがMirror.xyzです。Mirrorはライターのプロジェクト作成・資金調達・記事作成/パブリッシュ・コンテンツのマネタイズまでの一連をWeb3の考え方で支援するプラットフォームです。イーサリアムやNFTをうまく使い、プロジェクトの意思決定や合意形成にもWeb3の発想が取り入れられています。
たとえば、作家のEmily Segalさんは、Mirrorを使って、「Burn Alpha 」という新刊小説の資金調達を行いました。Mirrorで$NOVELと呼ばれるトークンを発行し、それをプロジェクトの支援者からイーサリアムを使って購入してもらうことで本を執筆するための活動費を集めたのです。Emilyさんは結果的に104人の支援者から24 ETH(2021年11月5日時点の価格で約1,200万円)を調達することに成功しました。
Mirror上で行う資金調達では、株式のように多くトークンを購入した支援者ほどプロジェクトで制作されるコンテンツの所有権の割合が増えます。プロジェクトで作られたコンテンツはNFT(Non Fungible Token: 非代替性トークン) 化され、流通されるたびにプロジェクト作成者にも支援者にも所有割合に応じて一定の販売手数料が入ります。上記のBurn Alphaの例では$NOVELトークンを購入した支援者は完成した本の初版NFT販売の利益の一部を受け取ることができます。
記事はWordPressと類似したMirrorのCMSで作成・編集して公開することができます。制作された記事をNFT化して複数の読者が支援しNFTを分割して所有することもできます。実際にPacky McCormickさん(Not Boringというニュースレターで有名なSolo Capitalist)が記事をNFT化して分割販売することで、約40,000ドル(約440万円)を集めることに成功しています。この質の高い記事はペイウォールを設置せずとも読者からの支援を得ることができる仮説を証明したとMirrorは紹介しています。
またコラボ記事を書く際には、コラボレータ同士の収益分配の割合をライター間で決めることもできます。通常であれば、契約書類のやりとりや銀行振り込みによる送金などの手続きが必要な収益分配ですが、Mirror上では割合さえ決めればイーサリアムが自動的に移動するため、ライターの負荷が大きく軽減しています。
Mirrorではプロジェクトの次の動きを意思決定する場でもWeb3の考え方が取り入れられており、Token Raceと呼ばれる機能によってプロジェクト主催者、支援者で合意形成をすることができます。合意形成はコミュニティ向けにコインを発行して、そこでコイン保持者が「投票」を行うことで実現されます。これにより自律分散的な集団がプロジェクトの行く末を決定できるのです。
このようにブロックチェーン、NFTの仕組みを使うことで誰もがプロジェクトの「オーナー」となれることから、ライターとファンの関係が強化され、プロジェクトを推進・応援し・宣伝する動機が従来よりも多く生まれます。Mirrorは現状Mirror内で生まれるNFTの販売から収益を得ていませんが、今後NFTの一次流通、二次流通時の販売手数料、あるいは、ライター・クリエイター向けに出版・収益化を支援するソリューションを提供することが考えられます。
Mirrorには$WRITE RACEというMirrorのコミュニティがあり、現在どのライターが新規にMirrorでプロジェクトをはじめられるかを投票で決定しています。将来的には、Token Race同様このコミュニティでMirrorというプラットフォームの方向性が議論され、上記のマネタイズのオプションもライターやファンの意思が反映される可能性があります。Mirrorはあらゆる点でライターとファンが自立分散的にプラットフォームを作り上げる仕組みを提供しており、Web3的なアプローチを正しく実践している存在だと考えられます。
Mirrorは2021年6月に、さらなる成長に向けてUnion Square VenturesやAndreessen Horowitzという著名VCに加え、クリエイターエコノミーに特化したVCであるAtelier Ventures(Creator Economyという言葉の提唱者であるLi Jeanさんが運営)を投資家に1000万ドル(約11億円)の資金調達をしたと報道されています。評価額は100億円とされ、投資家から大きな期待を寄せられています。
Web3のコミュニティプラットフォーム: HiDE
日本においても記事投稿と資金調達のための分散型コミュニティは存在しています。なかでもHiDE(ハイド)はとくに注目の存在です。
HiDEは「法定通貨だけに依存しない分散型経済圏を創る」をビジョンに掲げ、Web3の発想でサービスやプロダクトが設計されています。HiDEではトークン発行型の記事の作成・配信およびプロジェクトコミュニティの運営ができます。
HiDEでは、JPYC(日本円と価値がほぼ連動するステーブルコイン)と交換することができるJPYDと呼ばれるトークンが流通通貨として利用されます。JPYDを保持している間は自動的に資産運用され、運用がうまくいっている限り利子もつくと説明されています。このJPYDを使って、記事投稿へのインセンティブ、記事への投げ銭、クラウドファンディングによる資金調達を可能にしています。
通常のクラウドファンディングであれば、集めた資金に対して10%程度の手数料に加え、出金関連の手数料が課されます。HiDEではこの仲介手数料をブロックチェーンとスマートコントラクトに任せることで最低手数料0.5%で資金調達することができるとHiDEは説明します。
記事投稿や投げ銭を多くしたユーザがよりポイントやJPYDの報酬で優遇される仕組みがあり、その還元率自体をプラットフォームではなく記事の投稿者が設定できます。これもプラットフォームの一律の手数料に縛られず個人の自由を実現しています。
またHiDEではコミュニティトークンとして、本連載第13回でご紹介したDevプロトコルへのステーキングによってHiDEのクリエイターはDevトークン報酬をもらうことができます。以前の記事で紹介した通り応援したいプロジェクトとしてHiDEにDevトークンを預けておく(=ステーキング)ことで、将来的に得られる利息がライターや開発者(クリエイター)の支援となるように設計されています。
オフラインで投稿、他ブログサービスとの記事の相互移動(例えば上記で紹介したMirrorからImportすることも可能)もできます。これはいずれもデータをプラットフォームが独占するのではなく、ユーザが所有権を持ち管理できるものとして位置づけているためです。このデータの取り扱いの考え方も含め、非常にWeb3的に運営がなされています。
おわりに
今回は「Web3時代のWriting Platform」についてとりあげました。
MirrorもHiDEも共通しているのは、ユーザーが自律的に資金を募り、コンテンツのオーナーシップを持ち、コンテンツ投稿や資金の支援をした人の行動がダイレクトに報われる世界です。どちらも仕組みがやや複雑に感じたかと思いますが、Web3時代に即したプラットフォームとして、ユーザを支配せず、誰もがオーナーとして参加するコミュニティでサービスやプロダクトの方向性を決めていくサービスが魅力的だと感じた方もおられたのではないでしょうか。
こうした現在問題となっている事象へ新たなアプローチで挑む企業(将来的には企業という形でさえないかもしれません)は、仮想通貨の盛り上がりとも連動し、これからも増加していくと思われます。
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