インタラクティブな動画サービスを作るには
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インタラクティブな動画サービスを作るには

ストリーミング動画プロダクト自体もクリエイター自身でマネージする未来が訪れる

By キメラ|Ximera Media Next Trends #14| Jun 23, 2021

はじめに

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第14回となる今回は「インタラクティブ動画を作るテクノロジー」を紹介します。

数年前まではテキストと画像を中心のコンテンツ製作が主流でした。しかし現在では動画のエンゲージメントの高さ、製作/配信コストの低減が理由となり、動画フォーマットでのコンテンツが爆発的に増えています。ニュースについても、今となっては多くのメディアやスタートアップが動画ニュース専門サイトを提供してするのも珍しくなくなりました。これはスマートフォンを中心に動画閲覧可能なデバイスが普及したこと、プロユースで使える動画編集・加工ができる機材やソリューションが多数揃っていること、4Gと5Gによって動画ストリーミングにも耐えるネットワークインフラが揃ってきていることが大きな要因と考えられます。

動画ストリーミンは大きくオンデマンド型とライブ型に分かれます。オンデマンド型はYouTubeやTikTokを中心にいつでも消費できるメディアとして成長し続けています。一方で、本連載で何度か取り上げてきたようにライブ型のインタラクティブメディアも近年新たなファンのエンゲージメントを作ってきています。

ではそうしたインタラクティブな動画体験をファンに提供するには、コンポーネントとして何が必要なんでしょうか。現時点でインタラクティブな体験にはさまざまな定義があり、絶対的な解はありません。そのため多くの企業がゼロからプロダクトを構築しベストな形を模索しています。今回はそうした需要に答えるべく近年登場している(1)動画インフラレイヤー、(2)インタラクティブレイヤーを提供するスタートアップ、それを活用した(3)インタラクティブ動画サービスの事例を紹介したいと思います。

ストリーミング動画インフラ:MUX

ストリーミング動画の配信を行うためには、動画のアップロード→エンコード→メディアサーバ→CDN配信といったパイプラインが必要になってきます。エンジニアリングリソースがなければ大手の動画配信プラットフォームを利用することでパイプラインを意識することなく容易に配信は可能です。エンジニアリングリソースがあれば上記のパイプラインを自前で開発しWowzaなどのメディアサーバパッケージを使って構築することも可能です。

しかしながら、前者はフォーマットが規定されていることからブランディングに制限があることやインタラクティブな機能を開発しようとしてもすべての開発判断は当然ながらプラットフォームが持っています。また、後者はある程度の動画ストリーミングの専門家がパイプラインを支えるインフラをメンテナンスしていく必要があることや、パッケージソフトウェアの機能に大きく依存することになるため、フルカスタマイズが難しいという問題があります。

そこで登場したのがAPIを中心とした配信ソフトウェアの開発者のためのストリーミング動画プラットフォームのMUX(マックス)です。MUXはカスタマイズされたストリーミング動画環境の開発を容易にすることができます。同社はMux Dataと呼ばれるモニタリングとアナリティクス、およびストリーミング動画APIのプロダクトであるMux Videoを提供しています。特にMux Videoはわずか3ステップのAPIコールで動画のオンデマンド/ライブのストリーミングをはじめることができます。ただしVideo PlayerとCMSについては開発者側で用意が必要です。

APIベースでライブストリーミング動画の制御が可能 画像:
APIベースでライブストリーミング動画の制御が可能 画像:MUX Docs

MUX VideoはRobinhoodViacomCBSVSCOなどに利用されており、この数年はビデオ需要が増えているそうで、TechCrunchではこの1年でMuxのプラットフォームを利用するオンデマンドのストリーミングは300%成長し、ライブのストリーミングは3700%成長、そして売上が4倍に増えたと述べられています。この数字を見ると、各企業の自社でのストリーミング動画メディア開発の志向が高まりを実感できます。

この1年でMuxのプラットフォームを利用するオンデマンドのストリーミングは300%成長し、ライブのストリーミングは3700%成長、そして売上が4倍に増えた

Muxのほかにもapi.videoCloud Flare Streamなどストリーミング動画インフラレイヤーを担ってくれるサービスがあります。これらのサービスをフル活用すると、ストリーミング動画のエキスパートがおらずとも提供可能な環境を作れるため、短期間でロンチかつ低い運用負荷のプロダクトを保持することが可能になります。

ストリーミング動画のインタラクティブ化:Maestro

ではストリーミング動画を配信する仕組みができたとして、次にインタラクティブレイヤーとして、どのような機能を考えていけばよいでしょうか。例えば、チャット、投げ銭、投票など動画にオーバーレイして動画配信者と視聴者がインタラクションするための機能の実装が必要になってきます。スタートアップのMaestroはそのような動画のインタラクティブ化をサポートするシステムを提供しています。

Maestroは元々はeスポーツなどゲームコミュニティをメインターゲットとしてインタラクティブ機能を提供していました。しかしコロナ禍においてマネタイズが困難になったスポーツチームやアーティストがストリーミングベースでマネタイズする需要が高まったことで、バスケットボールチームのGolden State Warriors やアーティストのBilly Eilishにも利用されています。また本連載の第12回で紹介したバーチャル音楽コンサートプラットフォームのWaveXRMaestroを使ってインタラクティブ機能の実装を行なっています。

Maestroのほかにも本連載の第4回第12回で過去に紹介したGenvid、あるいはmuxiといったようにライブストリーミング動画のインタラクティブ化に取り組むスタートアップが登場しています。

これらのサービスを活用することで、ハンドリングの難しい動画インタラクションの機能や、インタラクションと連動した課金の仕組みを実装することが可能になります。

インタラクティブ動画プラットフォームの実装例: Sessions Live

これまで紹介したようなサービスによってカスタマイズ可能なインタラクティブな動画プラットフォームを自社で構築・運用することもある程度可能になってきていることがお分かりいただいたかと思います。実際に上記で挙げたMuxとMaestroを使って作られたサービスが登場しており、その一例がSessions Liveです。

Sessions Liveは2020年4月にPandora(関連性の強い自動選曲を売りにしたインターネットラジオ)の元CEOであるティム・ウェスターグレン(Tim Westergren)が立ち上げた、インタラクティブな音楽ライブコンサートの配信プラットフォームです。ストリーミング動画サイトのTwitchによく似たものとなっていますが、音楽アーティストのインタラクティブなライブストリーミング動画に特化しています。

同社はプラットフォームの提供だけにとどまらず、一人一人のアーティストと直接契約しマーケティング支援を行っていることや、音楽ライブストリーミングの専門であるがゆえに、グローバルアーティストから名がよく知られていないインディーアーティストまでコアな音楽ファンが集まりやすく、エンゲージの高いファンからのマネタイズを模索できるプラットフォームとなっています。

アーティストはチケット/グッズ/バックステージパス(Meet&Greet)の販売、ライブコンサート中のファンからの投げ銭による支援、そしてコアなファンからの月額課金によって継続的な収入を得ることが可能です。ライブコンサート中にはファンが「Love」と呼ばれるSessions Liveの独自ポイントを購入し、「Love」を使って曲のリクエストや有料ステッカーを購入しチャットに貼ることができます。「Love」を使ってアクションを行ったファンは、リーダーボードへ掲載される、チャットでも目立つ色になる、アーティストから優先して名前を呼ばれる、といったベネフィットを得られ、アーティストとのインタラクションを通したライブ体験でエンゲージメントが高まります。

ライブ演奏中に「Love」を使ってチャット投稿やリクエストするとチャット欄でフィーチャー(動画下部は有料のステッカー一覧)画像:
ライブ演奏中に「Love」を使ってチャット投稿やリクエストするとチャット欄でフィーチャー(動画下部は有料のステッカー一覧)画像:Sessions Live

気に入ったアーティスト毎にサブスクでファンクラブに加入 画像:
気に入ったアーティスト毎にサブスクでファンクラブに加入 画像:Sessions Live

さらに支援をしたいと思うファンは月額課金でファンクラブへ入会し、限定イベントや特典、アーティストとのチャットを楽しむことができるようになっています。

このようにライブ動画セッションでエンゲージメントを高めロイヤルユーザ化していくことが音楽ライブコンサートでは可能になっています。この一連の機能の多くはフルスクラッチではなく、MuxとMaestroを使うこと実装されており、カスタマイズ可能なインタラクティブ動画の世界をつくるハードルがかなり下げられています。

ここでは、事例として音楽ライブコンサートに限ったことではなく、報道系ニュース、演劇など、ライブ性が高いコンテンツにさまざまな分野で適用ができる可能性があります。また同時に本シリーズ第12回で紹介したAIによるリアリティショーであるRival Peakのように、これまではオンデマンドコンテンツだったものがコンセプトと技術を一新してインタラクティブライブストリーミングとして形を変え新たなコンテンツができるかもしれません。

おわりに

今回はインタラクティブストリーミング動画を作るためのテクノロジーを取り上げました。これまではYouTubeやTwitchなど大手の動画配信プラットフォームでしか実現できなかったような機能が、自社でも開発できるようになっています。

動画やインタラクティブ機能の実装には依然としてエンジニアリングのリソースは必要ですが、以前よりもはるかに容易に作ることが可能になってきました。またノーコードムーブメントの後押しにより、動画インフラやインタラクティブレイヤー以外でも労せずできることが多くなっています。

こうした背景も踏まえつつ、ストリーミング動画というプロダクト自体もクリエイター自身でマネージする未来が訪れことで、さらにクリエイターエコノミーが加速されると考えられます。キメラではますます伸びる動画関連技術や市場について今後もトラックしていきたいと思います。

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