Ximera Media Next Trends #10
@April 16, 2021
はじめに
Ximera MEDIA NEXT TRENDSマガジンの第10回となる今回は、前回の「ノーコード/ローコードツールで支えられるパーソナルブランディング」に続いて、「クリエイターコミュニティを支えるバックエンド」について現状のトレンドを見ながら、未来を考えていきたいと思います。
コミュニティについては、本連載の第5回にて大きくアンバサダー型、プロフェッショナル型、ファンクラブ型の3つのコミュニティドリブンで成長していくメディアのパターンをご紹介しました。本稿ではいずれのパターンでも必要とされる、クリエイターとファンの間、もしくはファン同士を結びつけユーザエンゲージメントを高めていくためのバックエンド=CommunityTechをとりあげたいと思います。
Twitter、Facebook、Youtube、Instagram、Tiktokなどのソーシャルネットワークももちろんコミュニティと呼ばれるものですが、ソーシャルネットワークはユーザ獲得がメインの目的とされる場です。しかし本稿でフォーカスしているのは、より1-to-1に近いコミュニケーションがとれるコミュニティです。特定の人物やトピックに対して熱狂的なオーディエンスが定常的に集まりエンゲージする場が重要なコミュニティではあるものの、それをクリエイター自らが作成・運用しようとすると多大な負荷を伴います。そこで登場するのが本稿で紹介するコミュニティ作成/運営支援のサービスCommunityTechです。それらのサービスを使いこなすことで、たとえ数人規模のチームでも数千人以上のユーザとのコミュニティを運用することが可能になります。
カジュアル型コミュニティ: Discord
「コミュニティ」といえばよく名前が上がるのが特にゲームコミュニティではおなじみとなっているDiscordです。DIscordは元々オンラインゲーム中のユーザ同士の音声/テキストチャットを行うためのハブとして2015年に登場しました。またその発展の中で、誰もがコミュニティをホストし、好きなテーマについて語り盛り上がれる場であったり、宿題など何かの作業を友達と一緒にやる場として機能してきました。
コミュニティを運営したい人はServerと呼ばれるワークスペースを誰でも無料で作ることができます(Public / Privateを選択可能)。Serverごとにジャンルが設定され、さらにその配下に立てたトピックベースのチャネルのなかで、コミュニティに参加する人々が会話をします。Discordはゲーム中のチャット用途にも使われるため、テキストのみならずチャネル名をクリックするだけで常時音声通話がつながるチャットルームもデフォルトで用意されています。
Discordはコロナ禍において、大きくユーザを伸ばしました。2020年に登録ユーザ3億人、1億4000万のMAU、130億円の売上をあげていると推測されており、昨年比で188%と大きく成長をしてきています。これは、ゲームに関わらず、カラオケを語るコミュニティ、株式市場を語るコミュニティ、学校の宿題を一緒にやるコミュニティなど、あらゆるトピックのコミュニティが立ち上がったことに起因しています。YouTuber、PodCaster、CGアーティスト、デザイナー、ミュージシャンなど多くのインフルエンサーがDiscordをファンとのコミュニティの場として利用しています。
これはDiscordがPrivateでOpt-in型(ユーザが自分で参加したいServerを選ぶ)であることから、公開型のSNSよりも緊密なコミュニケーションがユーザと取れることにインフルエンサーが気づいたことに他なりません。またSNSと違いFeedのアルゴリズムに影響されることがない(時系列順にしか表示されない)ため、ファンへ伝えたいメッセージやコンテンツがうまく行き渡るという特性もあります。さらにはDiscordでは必ずしもインフルエンサーがすべてマネージする必要はなく、モデレータ権限(不快なコンテンツや人物をbanするなどコミュニティをコントロールする機能)を支援メンバーに与えコミュニティ運営を任せることもできます。これにより半自律的にコミュニティが運営され、まさに「ファンと作り上げるコミュニティ」が実現されます。
DiscordはNitroと呼ばれるプレミアムサブスクリプションによるエンドユーザユーザへの課金を行っているものの、現状ではクリエイターがコミュニティから直接的にマネタイズする手段は用意されていません。Discordでマネタイズできる可能性としては、(1) コミュニティメンバーからの寄付を募る、(2) 有料メンバー限定のPrivate Serverを提供する、(3) 企業からスポンサーシップを受ける、(4) Botを作成し有料メンバーだけに提供するなどがあげられます。しかしこれは公式に認められているわけではないため、現状はDiscord内でマネタイズというよりは、グッズやコンテンツ販売などのアナウンスを中心としたマーケティング手段として使うことが一般的となっています。
All-in-One型コミュニティ: Circle
次に紹介するNew YorkのスタートアップであるCircleは、学習コース、カンファレンス、プロダクト、ブランド、Newsletter、Podcastといったカジュアルすぎず固すぎない幅広いコンテンツのコミュニティを想定して作られたコミュニティ運営支援のサービスです。Discordはかなりカジュアルで誰もがどこのコミュニティにも所属できるソーシャルネットワークの要素がありましたが、Circleはよりプライベートなコミュニティの運営支援を志向しています。
Circleの特徴としては、All-in-Oneであることです。ディスカッション用のボード、プライベート機能、コミュニティ内におけるインタレストグループ、トピック毎のユーザエンゲージメント分析、シングルサインオンによる3rd Paryツールとの連携など、コミュニティ運営に必要な機能がシンプルながらもしっかり詰め込まれています。またMemberstackやMemberSpaceといったサブスク課金用のプロダクトとの連携にはかなり力を入れており、シングルサインオンで利用できる他、無料/有料メンバー用の機能のだし分けや無料メンバー向けのPaywallの設置ができるようになっています。
2019年創業ながら既にいくつもの顧客をつけ、インフルエンサーといった個人だけでなくビジネスユーザにも利用されています。例えば、誰でもオンラインの教育コースの作成が可能なteach:ableは、クリエイター向けのコミュニティ機能をFacebook Groupで提供していましたが、これをCircleへ移行しました。teach:ableのクリエイターコミュニティでは、教育コースの運営に関するナレッジシェアはもちろん、自分の事業を支援してくれる人との出会い、互いにモチベートしていくためのイベントなどにアクセスすることができ、クリエイター間のコミュニティをうまく作り出しています。
Circleは$39/月(約3,900円)~で、1,000人のメンバー、10個のスペース、カスタムドメイン、Zapier/Memberstack/MemberSpaceといったノーコードツールとの連携が可能になります。さらに上位のプランでは、マネージできるメンバーやスペースが増える他、APIによるアクセス、White Label化、カスタムCSS/Javascriptの利用ができるようになります。
パーソナル型コミュニティ: Community
最後にご紹介するのがよりコミュニティメンバーとの距離を縮めるSMSを使ったOne-on-Oneコミュニティの運営を支援するCommunityです。CommunityがクリエイターにSMS専用の携帯電話番号を付与しコミュニティ運営に必要な機能(メッセージ管理、セグメンテーション、アナリティクスなど)を提供します。そうすることで、クリエイターはSMSを起点にコミュニティを作成・運営することができます。
具体的な事例として、2019年に俳優/ミュージシャン/投資家であるAshton KutcherがTwitterでCommunityで作成したSMS専用の携帯電話番号を公開し、ユーザにSMSを送るよう投げかけたTweetが話題になりました。
公開された番号へSMSを送るとAshton Kutcherからの自動メッセージとCommunityでのアカウント登録リンクが送られます。リンクで登録をすませると、Ashton Kutcherを自身のスマホの連絡帳に登録するためのコンテンツが送られ、ワンクリックで連絡帳へ登録ができます。ユーザが自分で連絡帳に番号登録する手間を省き、Ashton KutcherとSMSをやりとりできている雰囲気を出すことでユーザのエンゲージメントを失わせない工夫がされています。
また返信が必ず返ってくるわけではありませんが、Ashton Kutcherが送ってきた質問に対して答えを返したりなど、ダイレクトなコミュニケーションを取ることも可能になっています。当然当初はAshton Kutcherのアカウントの乗っ取りやスパムではないかと怪しまれたのですが、徐々に利用するインフルエンサーやユーザが増え信頼性が上がってきました。エンドユーザは、SMSを介して自身が信奉するアーティストやブランドと触れあうことで、SNSやemailなどよりも親密性をもった関係性を感じるようになっています。
コミュニティ運営者 (Leader)としてCommunityを使うにも、SMSを使って申請をします。Communityの申請ページで申請後、72時間以内にCommunityから返信があり、オーディエンスのサイズに応じて3つの利用料金プランから選択することで運営をはじめることができます。申し込みが終わると電話番号が付与され、これをソーシャルネットワークなどで広め、オーディエンス(Member)を集います。Memberに対しては、性別、年齢、興味などのセグメントによる出し分けが可能になっています。
Communityは、D2Cブランド、ミュージシャン、ファッションデザイナーなど様々なクリエイターに利用されており、例えばD2Cでワイン缶を販売するBevは商品であるワイン缶にCommunityで作成した電話番号を印字し、Bevを気に入ったユーザがすぐにCommunityへ入れる仕組みを用意しています。
Community自身にはマネタイズをする仕組みはついていません。Community自体へのアクセスをPaywall化する、コミュニティ内でPatreonを介した寄付を募るなど、マネタイズの方法は運営者自身が検討する必要がありますが、Drop(時間や個数限定のアイテム)をMemberだけに周知し、特別感を出すなどCommunityそのものからマネタイズせずともマーケティング手段として使うことも可能です。
おわりに
前回ご紹介したPassion Economyが象徴するように、現代は各個人・各企業が提供するサービスやモノだけではなく、コトに対して熱狂的なファンをどれだけ長く惹きつけていくことできるかが重要となっています。エンゲージメントやリテンションと呼ばれる言葉は、提供するサービスやモノの良さももちろんですが、今回ご紹介したようなコミュニティ運営も含めユーザ体験全体を最適化していくことが長く愛されるビジネスを実現するための一つのやり方かと思います。本記事が少しでもみなさまの参考になれば幸いです。