ブロックチェーンが可能にした分散自立型コミュニティの体現
Ximera Media Next Trends #26|Author: Ikuo Morisugi|Dec 13, 2021
はじめに
メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第26回となる今回は、分散自律型組織「DAO」について紹介します。
本連載第24回(Web3がバズワード化している背景)で取り上げたように、中央集権的なプラットフォームへの対抗の動きとして、ブロックチェーンを基盤に分散自律的なサービスやプロダクトが多数登場しています。そして、多くのWeb3のサービスやプロジェクトの意思決定は、ひとりのCEOやPdMのような人間や組織ではなく「DAO」と呼ばれる分散自律的な組織・コミュニティによってなされています。
今回はDAOとはなにか、その具体的事例について紹介することで、DAOへの理解を深め将来的な可能性について触れていきたいと思います。
DAOとは : 不特定多数の個人による自律組織
DAOとは、Decentralized Autonomous Organization(分散自律型組織)の略で、あるプロジェクトやプロダクトが不特定多数の参加者によるコミュニティによって、管理・運営される組織やその形態のことを指しています。本連載第24回でも少し触れましたが、DAOではコミュニティ用のトークン(ガバナンストークン)をブロックチェーン上で発行し、ガバナンストークン保有者の投票によって、その組織の資金の使い道・体制・プロジェクト・プロダクトの方針などを決めていくことができます。
通常の議会や株式会社と違うのは、誰もがDAOにおける意思決定者となれることです。たとえば議会では選挙で選ばれた議員同士で合意形成された政策しか実行されません。株式会社でも、株主が議決権を行使できるのは、株主総会における役員の選任・報酬、事業譲渡などの大きな意思決定に限られます。基本的には、有権者にしても株主にしても、議員・経営者・役員など代表として意思決定する人をアサインし組織やプロジェクトを動かしてもらっています。一方でDAO型組織では発起人や初期メンバーは当然いるものの、そのメンバーだけが組織をコントロールできるわけではなく、基本的にはトークン持つ不特定の参加者全員が意思決定者になりえます。
DAOのようなボトムアップの仕組みでは、衆愚や独裁化に陥るリスクもあります。そのリスク軽減のため、多くのDAOではQuadratic Voting(二次投票)と呼ばれる、投票数を増やすほど投票にかかるコストが二乗されていく方式が取り入れられています。たとえば、投票者は1人99ポイントを持っており、投票の完了にはそれをすべて消化しなければならないとします。1票投じるのに1ポイントかかりますが、1票以上同じ候補に入れようとすると入れたい票の2乗分のポイントがかかるのです。2票入れるには(2 x 2)4ポイント必要、3票入れるには(3 x 3)9ポイント必要で、同じ人に投票できるのは最大で9票で(9 x 9)81ポイントが必要となります。同じ人に9票入れた場合でも、余った18ポイントは他の候補者に入れる必要がでてきます。支持している候補以外の政策や意見を聞き、投票をする必要がでてくるのです。Quadratic Votingに従い、票の偏りを防ぐことで、衆愚や独裁に陥るリスクを軽減することができます。Quadratic VotingはさまざまなDAOで導入されているほか、台湾政府が公式開催している総統杯ハッカソンの投票システムとして利用されるなど行政でも取り入れられています。
このようにブロックチェーンのおかげで分散自律型な組織・コミュニティが運用ブロックチェーンのおかげで分散自律型な組織・コミュニティが運用できるようになりました。それを体現している組織形態がDAOというわけです。
DAOの事例: Bankless、CityDAO、RenoDAO
一口にDAOと言っても上記の図のようにさまざまなカテゴリー・ジャンルで存在しています。ここでは特にメディアや組織観点で代表的なプロジェクトを取り上げます。
メディア関連のDAOとして、代表的なのがBanklessです。Banklessは、その名の通り銀行のような中央集権的な金融システムから分散自律的な形を模索するメディアです。無料のニュースレター・Podcast・Youtubeを配信して集客を行い、Substackでの有料ニュースレター($22、約2400円/月)でマネタイズしています。Mediumには2021年5月時点でニュースレター登録者4万人、Podcast40万ダウンロード/月、Youtube登録者数が4万6000人がおり、有料のニュースレターにより、既に収益化ができていると記載されています。
Banklessは2020年にバージニア州で有限会社Bankless LLCとして法人登録後、2021年5月にDAOを設立しました。DAO設立のタイミングでBanklessは、BANKと呼ばれるトークン総供給量の25%を3年間で放出、Bankless LLCが所有することの承認をコミュニティに求めました。この承認のプロセスもDAOらしくBANKトークン保有者が投票することで決められました。通常の株式会社であれば、創立時点で創業者やVCが過半数以上の株式を保有していることが当たり前です。一方でBanklessはそれを前提としておらず、創立当初はBankless LLCおよび創立者やチームメンバーが持つBANKトークンはゼロで、コミュニティの承認を経て25%分を所有することを実現しています。この意思決定のプロセスは非常に民主主義的で公平なものに思えます。メディア運営が一部の権利者に依存せずなされる興味深い事例だと考えられます。
DAOはメディアといった事業運営だけにとどまらず、地域や土地を分散自律化するための仕組みとしても利用されています。2021年USのワイオミング州ではじめてDAOが州法上で組織として認められました。新たに制定されたDecentralized Autonomous Organizations Lawにより、有限会社としてDAOの登記が可能になりました。その仕組みを使いはじめて土地を所有するDAOとなったのがCityDAOです。
CityDAOはBlockchain City(ブロックチェーン都市)の概念を打ち立て、市民権をNFT化して販売しました。創立市民、初期市民、一般市民の3種類のNFTがNFTマーケットプレイスのOpen Sea上で販売され、25万ドル(約2700万円)の資金を集めました。そしてCItyDAOは集めた資金を元にワイオミング州の40エーカーの土地を購入。この土地はCityDAOによってNFT化され、ブロックチェーン上で所有権が管理されています。これは、これまで多くの土地が地主や国によって所有・管理されていたところに、DAOのような分散自律的な仕組みを持ち込むことで、新たな土地の所有概念を作ろうとする実験的取り組みです。このような取り組みが世界の各地域で加速的に起こっていくとまさにブロックチェーン都市やそのネットワークができあがる可能性があります。
ほかにも、ネバダ州のリノ市が独自のトークンであるReno Coinを発行するDAOを創立し、都市にゆかりのあるNFT(バーニングマンという音楽フェスで展示されたアートなど)の発行、土地の賃借の決定や賃料分配にDAOの仕組みを使う構想を発表しました。行政のようなレガシーな組織においても、経済衰退などの危機感からもこうした新たな組織形態へのシフトが生まれていると考えられます。
おわりに
今回は「分散自律型組織DAOによる新たな組織の形」についてとりあげました。映画やアニメの攻殻機動隊シリーズを観たことがある方には、「Stand Alone Complex」のような話だと感じられたかもしれません。劇中において電脳技術という新たな情報ネットワークにより、孤立した個人(スタンドアローン)でありながらも全体として集団的な行動(コンプレックス)を取ったことをStand Alone Complexと称されました。DAOはまさにこの概念を体現している組織形態であり、映画やアニメの話でしかなかったことがブロックチェーン技術によって実現された例と言えそうです。
とはいえ、DAOも完璧なフレームワークではなく、意思決定に時間がかかる、責任所在が有耶無耶になる、など分散自律型故の欠点もあります。さらにDAOがまだ新しい概念であること、法制度が追いついていないこと、仕組みの導入に時間がかかることから、即座にすべての組織がDAOに対応し移行していくことは考え難いです。
一方で、実際にDAOでブロックチェーン都市のようなものができ、さまざまなプロジェクトが運営されている現状を鑑みると、これから事例や実績を積み重ねられていくことで、社会へ大きな影響を与えることは十分考えられます。創立時点からDAOとして動くスタートアップも多数生まれており、自身が属する組織の選択肢も増えるかもしれません。今後も大きく組織やコミュニティのあり方を変えるDAOについて注目していきたいと思います。
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