Ximera Media Next Trends #36|Ikuo Morisugi|June 27th, 2022
はじめに
メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第36回となる今回は「Z世代(GenZ)が注目する新たなソーシャルメディア」について取り上げます。
全世界でソーシャルメディアの利用者数は46.5億人を超え、1日の平均利用時間は約2.5時間。多くの人がかなりの時間を使っていることが伺えます。
ソーシャルメディアはいわゆるいいねやコメントによって自己承認欲求を満たすことが麻薬的に作用します。人によってはそれがうまく満たされないときや、アンチコメントやハラスメントを過大に受けたときに、不安や鬱などメンタルヘルスの問題を抱えることになります。
より多くのソーシャルメディアを使うほどその傾向は顕著になり、7つ~11のソーシャルメディアを使っている人は、1つか2つしか使っていない人に比べて、抑うつや不安を経験するリスクが3倍以上高いという調査結果もあります。
ソーシャルメディアを利用している人のなかでも、とくにZ世代は良くも悪くもソーシャルメディアに強い影響を受ける世代です。調査を受けたZ世代は、60%以上がInstagramやYoutubeを毎日チェックしており、43%が自身のポジティブなイメージを形成するためのコンテンツ「だけ」を投稿しなければならないと感じ、37%がたくさんのいいねやコメントを得るためのプレッシャーを感じています。
ほかの世代よりも「ありのままの自分でいたい」傾向が強いZ世代に、既存のソーシャルメディアに対して息苦しさを感じるタイミングがあるのは上記の調査からも明らかです。この問題を解決するためにいくつかのスタートアップが新たにZ世代向けのソーシャルメディアを提供しています。
今回取り上げる事例はいずれも「あえて不便にする」アプローチで、問題解決をはかろうとしています。便利一辺倒だけではないメディアのあり方を考える一助になればと思います。
決まった時間にしか写真を投稿できない: BeReal
上記のZ世代が抱えるソーシャルメディアの問題に対してアプローチしているのが、写真共有ソーシャルメディアのBeRealです。BeRealの特徴として、画像を加工するためのフィルターは設定できず、1日に1回しか投稿できません。仲のよい友達と同時にくる通知から2分以内が投稿のタイミング。2分で写真を撮って共有しないといけません。おまけにフロントカメラとバックカメラの両方が同時に動くため背景とセルフィーを同時に撮影することになります。
この画像を投稿するタイミングや回数や分数制限はユーザ側で変更することができません。つまり友達間で突然の「画像シェアタイム」がやってくるわけです。これは既存のソーシャルメディアを使っているとユーザにコントロール権がなく非常に不便であると感じてしまいますが、興味深いのはこの不便さこそが問題を解決するソリューションとなっていることです。
写真を共有するタイミングがコントロールできないことや2分間の時間制限により、事前に着飾ったり、部屋を掃除したりすることは時間制約的に難しくなります。またフロントカメラとバックカメラが両方同時に動くことで、自分が見ているものとセルフィーを同時に写され、普段のありのままの自分を見せるということになります。こうした制約によって、グループの友達が同じ条件で素の自分をさらけ出せることにつながっていきます。
BeRealは2022年Q1のUK、US、フランスにおける"最もダウンロードされているソーシャルメディアのアプリ"ランキングで、Instagram、Snapchat、Pinterestに次いで4位と、ソーシャルメディア分野で大きく注目される存在となっています。アクティブユーザ数は2022年の初めから4月あたまにかけて315%伸びていて、2022年5月の報道では868万ダウンロード、約300万のアクティブユーザがいるとされています。
Andreessen Horowitzなど著名VCが投資家として名を連ねており、2022年5月には企業価値が約6.3億ドル(約877億円)となったと報道されました。1年前の2021年6月に行った資金調達ラウンドでは、1.5億ドル(約202億円)の評価額だったため、約4.3倍になった計算になります。これまではとくにフランスとUSで大きく伸びており、今後さらに市場を拡大していくことが期待されます。
友達しか自分の写真を投稿できない: Poparazzi
BeRealが投稿できる時間やフィルタ機能を制限することでZ世代の問題を解消していることに対して、別のアプローチをとっているのが写真共有ソーシャルアプリPoparazziです。
Poparazziは、Anti Selfie Selfie Club(アンチセルフィーのセルフィークラブ = セルフィーに反対しながらセルフィーを投稿できる場)を標榜しており、「自分の友達しか自分の写真を投稿できない」という制限をかけて、ユーザが素の自分を出していけるように誘導しています。こちらも「自分で自分の写真をコントロールできないなんてありえない」と思ってしまいますが、この制限のおかげでお互い素の自分を出し合って写真を共有することが促進されています。
一般的に撮影をする側は撮影対象の友だちを過度に飾ったり自己顕示させるモチベーションはありません。その友達の面白いところだったり、一緒にいて楽しいことを共有するために友達との写真を投稿します。そのため、ありのままの写真が投稿されることになります。
自分のプロフィール作成も友達によって行われます。一緒に撮影した後に友達がタグ付けすることではじめて自分のプロフィールが作られるのです。ただし自分の気に入らない写真は削除したり、非公開に切り替えることもでき、承認した人しか自分の写真の管理はできないようになっています。
Poparazziは電話帳を利用することから、ユーザが、過去にストーカーやハラスメントを行った/行う可能性のある加害者を電話帳に登録していた場合、その加害者に対して自身のプロフィールや画像投稿へのアクセス権が付与されてしまうセキュリティリスクがありました。しかし過去1年間でこのリスクを回避するためのブロック・報告機能のほか、ヌードや悪意のある表現などを検出するための機械学習を利用したコンテンツモデレーションにも投資、健全なメディアを作ろうとしています。
Poparazziは登録アカウントが500万を超えており、ユーザの75%は14-18歳、95%は14歳-21歳とZ世代の中でもティーンズを中心に人気を得ています。
Poparazziは2022年6月にBenchmarkから1500万ドル(約20億円)を調達するシリーズAうランドを実施し、さらなる成長が期待されます。
おわりに
今回は「Z世代(GenZ)が注目する新たなソーシャルメディア」についてとりあげました。
これまで様々なソーシャルメディアが登場し、人々の依存度は上がり社会問題化しています。とくにスマホネイティブなZ世代では、自己承認欲求が強いインセンティブを持つ既存ソーシャルメディアに息苦しさを感じる層も一定数存在し、その傾向はさらに顕著になっています。その状況下でBeRealやPoparazziのように「あえて不便にする」ことで、素のまま・ありのままの自分を出せるようなソリューションが登場しています。
今回の事例を見ていると、既存のソーシャルメディアは一見便利で自由度が高いように見える一方、常に社会的に自分を良く見せなければ承認欲求が満たされず、素の自分を出せない不自由さがあります。この不自由さが故に、不幸・不便になる人たちがいます。これは、既存ソーシャルメディアのビジネスKPIに最適化したアルゴリズムがユーザの行動に強く影響を与え、社会的な害悪を生み出している可能性があるということです。これを回避する一つのアプローチが、今回紹介した事例のように投稿の制約・ルールを設けて害悪の事象が起こりにくくする方法です。制約・ルールがあることでこの状態をうまくコントロールする考え方は、社会における法律や倫理のようなものであり、そうした制度設計がサービスにおいても非常に重要であることがわかります。
こうした「あえて制約・ルールを課す」ことは、サービスやプロダクトに新たな発想をもたらす可能性があります。今後もこうした考え方自体や、Z世代のような新世代がそれに適応していく様子はメディアビジネスを検討していくなかでも注目すべきかと思います。