Ximera Media Next Trends #44|Ikuo Morisugi|December 22th, 2022
はじめに
メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第44回となる今回は、2022年も最後になりましたので「2022年後半のメディアトレンド」をとりあげたいと思います。
目次
- 経済全体の先行き不透明、景気後退局面の対応を
- Web3マーケットは縮小気味の一方普及に向けた動きも
- メディア収益は多角化しコマースやリテールとの融合が進む
1. 経済全体の先行き不透明、景気後退局面の対応を
Apple、Amazon、Google、Meta、Netflixの株価を見てみると、直近のNetflixはやや上昇傾向に転じているものの、2022年の年始以来5社いずれの株価も大きく下がっています。 年始より各社のEPS(1株あたりの収益)が落ちてきており、特に10月下旬に発表された各社の決算では投資家予想よりも業績がふるわず、大きな下げが発生しました。その後、11月にFRBが大幅な利上げをしないことが判明し、やや戻しましたが、依然景気が良いとは言えない状況です。また各所で報道されている通り、Amazon、Meta、Netflixは大規模なリストラを行っており、厳しくなった収益をコストカットでしのぐ状況となっています。
また経済全体を見渡してみても、米銀行大手シティグループのCEOはアメリカが2023年の後期にリセッション入りする方向を予見しており、現在の状況よりもさらに悪化する可能性があります。
こうした状況の中では、以下の記事でご紹介した通り、あらゆるビジネスが一刻も早く資金を獲得し、徹底的なコストカットを行い、戦略的に効果の出るビジネスのみに投資を集中させることが必要になります。
当該記事は、2022年6月頃に書いたものになりますが、心構え・実践すべき事項は半年経っても変わらず、むしろさらに強化をしなければいけない状況となりました。
2. Web3マーケットも縮小の一方、普及に向けた動きも
Web3は昨年よりバズワード化し、2022年も新たなサービス・コンテンツが多く出てきました。一方で、仮想通貨市場は2022年初頭に市場価値が頭打ちし、2022年末の現在でも特に回復傾向は見られません。2022年5月にTerra/LUNA(USドル連動型のステーブルコイン)が大暴落、さらには、6月にはTerra/LUNAショックを受けてセルシウス(Ethereumを担保とする債権売買するレンディングサービス)の取引停止、11月に仮想通貨取引所業界2位だったFTXが倒産し、業界に激震が走りました。仮想通貨の代表格であるBitcoinもこれらの影響を受け、価格が大きく下がりました。これらの事件の顛末についてはこちらの記事を参照ください。
NFTの取引量(総取引金額)についてもピーク時から97%落ちるなど、全体としては厳しい状況に変わりませんが、ファンとともにコミュニティを作りインセンティブを分け合い、コンテンツを作り出していけるNFTの特性はクリエイターにとって依然魅力的なオプションとなっています。日本では法規制としてもNFTは暗号通貨とは区別され、比較的厳しい規制がしかれていないこともあり、利用しやすい環境です。2022年は多数の企業からNFTのサービスやコンテンツのニュースがあったことは記憶に新しいかと思います。特に近年ではただNFTアートを付与することだけではなく、ユーティリティ(実用性・有用性)をユーザ体験として提供する例が増えてきています。例えば、自治体とクリエイターがタッグを組み、ふるさと納税の返礼品でNFTをユーザへ付与し、ゲーミフィケーションにより現地を訪れる動機を作るといった体験設計で地方創生に役立てる動きもあります。
NFT自体にはまだまだ可能性があるものの、普及レベルまで広がるには、まだ課題があります。筆者自身がそうですが、NFTを手に入れるまでのハードルは現在ですらかなり高いと感じます。NFTを手に入れるには、Walletの概念を理解し、NFTを購入するための仮想通貨を手に入れ、詐欺にあわないように慎重にコンテンツやコミュニティの選択を自己責任で行わないといけないのです。この状況に対して、Walletを意識せず使えるようする、詐欺や不正利用を未然に防ぐ、起こった後の補償をする、などNFTのマニアやオタクではない一般層が簡単かつ安心に使えるような環境が必要です。
こうした課題に対するソリューションは市場にスタートアップという形で出てきており、2023年はWeb3のさらなる普及が進むのか注視していきたいと思います。
3. メディア収益は多角化しコマースとの融合が進む
メディアについては、2022年の大きな出来事はやはりTwitterのイーロン・マスクによる買収かと思います。2022年のメディアの動きとして、筆者が注目しているのが、ソーシャルメディア企業が有料サブスクによって広告ビジネスモデルからの脱却を目指している点です(逆に有料動画ストリーミング企業が広告モデルをハイブリッドしているのも興味深い点です)。
同じくZ世代やミレニアム世代に人気のあるソーシャルメディアのSnapでも2022年8月より有料の月額サブスクリプション(月額3.99ドル(約600円))であるSnapchat+(スナップチャットプラス)が開始され、開始1ヶ月で100万ユーザを獲得し、非常に好調であることが報道されています。その後もStoriesの公開期間のコントロール、Storyへの返信の強調表示、通知音のカスタム、特別な友達フラグ付け機能、などさらに有料ユーザ向けの体験を拡大しています。1つ1つの機能を見るとなんてことない機能にも思えますが、Snapはコミュニケーションサービスであり、コアユーザが求めるものをよく理解し体験設計することで大きな成功につながっており、無料でやっていたサービスが、どのように有料化をはかったのか非常に参考になる事例かと思います。
また、Twitterは元々Twitter Blue(広告表示が少なくなる、ツイートの取り消しなどが可能になる有料月額サービス)を提供していましたが、イーロン・マスクに買収された直後、さらにTwitter Blueによる収益を高める戦略へ一気に舵がきられました。2022年11月に月額7.99ドル(約1100円)でリブランドされ、認証済みマーク(個人アカウントが青色、企業アカウントが金色、政府関連のアカウントが灰色)の取得を可能にしました(ロンチ後、偽公式アカウントが乱立するなど混乱があり、12月12日まで停止、そののち再開)。Twitter Blueの施策については、ターゲットを一般的なエンドユーザではなく、クリエイターやエンタープライズに切り替えて、単価を上げて収益を高める意図があると思われます。
もう一点、メディア関連のトレンドとして注目しておきたい点が、コンテンツの二次利用が大きく促進されていることです。例えば、クリエイターが作ったコンテンツを直接販売する仕組みが様々なプラットフォームやマーケットプレイスで可能になっていますが、さらにそれぞれが作ったコンテンツを使い、新しくコンテンツが生み出される形が生まれています。楽曲分野では特に進んでおり、他の分野でも拡大される可能性があると考えられます。
そして最後に、メディアとコマースが融合しつつあることについても触れておきたいと思います。特にクリエイターという個が台頭してきた現在では、クリエイター x メディア x コマースは別々の存在ではなく、一貫したブランド体験として作られることでより価値を発揮できる可能性が出てきています。例えばクリエイターを獲得チャネルとしてみるのではなく、同じチームで組みコンテンツを制作配信するメディアを作り、さらにはバックエンドのロジスティクスや実店舗運営まで手掛けるスタートアップが出現しています。
こうした動きは2023年にもより加速し、複数領域を一気通貫かつ良質な体験を提供するメディア・コマースが生まれる可能性があります。
おわりに
今回は2022年の年末ということで、特に2022年度後半でなにが起こっていたのか振り返り、2022年の下半期のトレンドとしてまとめてみました。
- 経済、特にIT関連の株式市場、暗号通貨市場については、半年前の状況からさらに悪化しており、今後さらに状況は悪化する可能性がある。
- 一方でNFTは新たなコンテンツとして利用は続いており、さらに一般層が気軽に利用できるようにする動きが生まれてきている。
- メディアについては、1. 広告を主な収益源としていたソーシャルメディアがサブスク収益を狙った動きがでてきたことや、2. コンテンツの二次利用が促進されコンテンツがより生まれやすくなっていること、さらには 3. ECやリテールなどコマースとも融合をしつつあること、この3つの動きが同時多発的に起こっており、横断的な動きができるメディアが新たな価値提供ができる可能性がある。
上記がXimera Media Next Trendsとして2022年の重要なトレンドだと考えます。景気は決して良いとはいえない状況ですが、そんな状況だからこそ来年も創造的で興味深い出来事が次々と生まれていくと確信しています。
本年の記事配信は今回で最後となります。本連載がみなさまの多少のお役に立っていましたらなによりです。来年もどうぞ株式会社キメラおよびXimera Media Next Trendsをどうぞよろしくお願いいたします。
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キメラは2019年1月以来、70を超える国内パブリッシャー(新聞社・出版社・放送局)でサブスクリプションの事業設計、デジタルメディアのグロース、分析体制の構築などを支援しています。
コンテンツのエンゲージメント分析ツール「Chartbeat」の日本総代理店としてデジタルメディアの分析支援や体制づくりに取り組む一方、2021年には自社開発したサブスクリプション管理プラットフォーム「AE」を通してパブリッシャーのサブスクリプションビジネス開発を支援。2024年9月からはソーシャル動画の横断分析ツール「Tubular」の導入と分析の支援を開始。
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