単に中古品を流通させる以上の価値を提供する
Ximera Media Next Trends #30|Author: Ikuo Morisugi|Feb 25, 2022
はじめに
メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第30回となる今回は、「サスティナブルコマース」について、取り上げます。
本稿では、「リサイクル、リユース、リデュースを中心とした持続可能な社会に向けてプロダクトやサプライチェーンが考慮されているコマース全般」をサスティナブルコマースと定義します。今回はサスティナブルコマースの中でもブランドがリセール(二次流通)ビジネスに乗り出しているトレンドをキャッチアップしたいと思います。
消費者が古着や不要品を廃棄するのではなく、フリマなどリセール市場に出品することは、Z世代の古着・リバイバルブーム、コロナによる経済的損失の補填、SDGsなど持続可能な世界に向けた社会的な要請といったさまざまな観点から、以前よりも重要性が増しています。
一方でリセール市場では価格高騰を狙った転売が当然のように横行しています。たとえば、自分の好きなアーティストのチケットが手に入らず、フリマアプリやダフ屋から定価よりもかなり高い金額で手に入れたという事例は巷でありふれています。また出品物の説明の仕方は出品者次第で、購入者は本物と偽物を見分ける必要があり、ブランドの意図と違う説明や偽物が増えるとブランド毀損にもつながりかねません。商品の状態についても同様で、状態の正確性が出品者の主観による上に、それがデザイン上そうなのか、本当に状態が悪いのか、新品の本物を見た人でないとわかりません。粗悪の状態のものが誤ったブランド認知を獲得してしまう可能性があります。二次流通が成立することは、リユースやリデュースが促進されるため悪いことではありませんが、ブランドから見た時にサスティナブルな状態かと言われると疑問が残る状態となっています。
ここでの問題は、そのブランドやクリエイターのことが本当に好きな人が定価以上に支払って欲しいものを手に入れたにも関わらず、ブランドには1円も入ってこないことです。またそのような熱心なファン(になるはず)の顧客は、一次流通でまったく可視化されないため、ブランドにはその存在すらも認識できず、ブランド価値が高まっているのかどうかも判別できません。
これに対し、近年ブランド自身がリセールビジネスに入り込むことを支援するプラットフォームが問題解決を図ろうとしています。ブランド単体ではこれまで難しかったリセールビジネスをどのようにサスティナブルな形にしようとしているか、事例を見ていきたいと思います。
ファッションブランドの二次流通価値を作る: Archive
ファッション業界では1年でリサイクル・リユース可能なものが95%を占める1300万トンの繊維廃棄物がでると言われており、サスティナビリティ観点から厳しい目にさらされています。
これまで二次流通における問題がわかっていたにも関わらず、ブランドやクリエイターがリセールビジネスに手を出せなかったのは、ノウハウやリソースが足りなかったからです。リセールは通常のB2Cを中心とするECとは異なり、売り手と買い手をマッチングするC2Cのビジネスです。サービスを提供するための選択肢としては、フリマサービスとパートナーシップを結ぶか、自社で立ち上げるかのどちらかですが、既存の3rd Partyのフリマサービスはブランド側のコントロールが効きにくいため手を組むことはほぼありませんでした。そのため、自社でフリマサービスを立ち上げるという、ともすれば自社のビジネスと相反しかねない、かつ慣れていないビジネスを手がけなければならず、手をこまねいていたのが実情かと思われます。
ファッションの領域でその問題に対してソリューションを提供しているのが、Archiveです。Archiveは、ブランドがホワイトレーベルで二次流通が可能なECストアを立ち上げ、そのオペレーション、数値管理まで一手に引き受けるサービスです。
たとえば、高級ファッションブランドのOscar De Larentaは、Archiveとパートナーシップを組んで、Encoreと呼ばれるリセールECを2021年11月に立ち上げました。Encoreは過去にOscar De Larentaのコレクションのランウェイで発表されたビンテージ品を中心に販売をしています。巷にあるフリマサービスとは異なり、Encoreのパートナー関係にあるブティックや信頼できるトップ顧客から出品を集め、Encoreが公式に商品をレビューし、承認したものだけがECサイトに掲載されます。
また、Encoreで出品した品が売れると、売上の一部をチャリティに回すことが可能になっています。これは、ビンテージ品を確保するためにEncoreがトップ顧客に連絡をとったところ、多くがチャリティに寄付する選択肢を用意できない限り出品を拒否したエピソードからプログラムが作られていたと思われます。トップ顧客のチャリティやサスティナビリティへの意識も非常に高まっており、単に中古品を流通させる以上の価値を提供することが重要になっているようです。
これまでファッションブランドでは、返品やリサイクル目的での回収以外には、商品購入後の顧客に対してサービスを展開してきませんでしたが、Archiveとのパートナーシップによって新たにリセールサービスを提供可能となりました。ブランドにとっては、(これまで見えていなかった)顧客の増加、新たな収益源の追加、ブランド・ロイヤリティの向上、サスティナビティの実践とさまざまな点でベネフィットがあります。
Encoreは、2022年1月に、Bain Capital(日本でもすかいらーく、大江戸温泉物語への投資を行った世界的なPEファンド)やLightspeed Venture Partners(Snap、Affirmなどへの投資で著名なベンチャーキャピタル)などから約1,000万ドル(約11億円)の資金調達をして、さらにビジネスを加速させようとしています。現在では、約100のブランドと交渉しているとされており、より多くのファッションブランドのリセールサービスが出てくることが期待されています。
イベントチケットのマッチングを支援する: Lyte
二次流通市場での転売による価格高騰や詐欺等で、ブランド側が疎ましく思っている事例の最たる例が人気イベントのチケットです。特にUSでは、Coachella、Comic Conなど巨大な音楽フェス、同人イベントの人気が非常に高く、先行発売のチケットがあっという間にソールドアウトしてしまう現状があります。
日本ではそれほど多くの事例がないと思いますが、海外ではこれら人気イベントのチケットや入場用のリストバンドは偽物が作られ、二次流通市場で高額で販売されています。偽物と気づかず当日入場できないことも珍しくありません。
こうした現状に対してソリューションを提供するのがLyteです。Lyteはイベントのオーガナイザーに対して、ユーザ同士のチケットのリセールサービスを可能にします。これによって、適正な価格で正規のイベントチケットを手に入れたいユーザと、都合が悪くなりイベントに行けなくなったユーザのマッチングが可能になります。また友人とグループ参加したいがうまく同一グループのチケットを手に入れられず、参加自体を渋ってしまうといった二次流通でありがちな問題についても、Lyteは友達同士をグルーピングする機能を提供することでこの問題を解消し、ユーザの参加率や満足度を向上させています。
筆者自身も過去に音楽フェスのBottle Rock Napa Valleyの売り切れたチケットに対して、Lyteでウェイトリストを入れたことがあります。2-3週間かかったものの、売り切れチケットを定価で購入することができました。また別の音楽イベントで都合が悪くなり行けなくなったので、Lyteのリセールプログラムにチケットを流してみました。こちらも、2週間程度で無事に販売され定価分の金額が戻ってきました。Lyteでは公式で販売されたものしか流通できないため、上述の詐欺行為はなくなり、安心して使えるものとなっています。
また、Lyteはイベントオーガナイザーに対して、どれくらいのチケットが二次流通され、アップグレードやダウングレードがあったのか、グループ化を望んだユーザがどれくらいいて、その実現ができたかなど、ダッシュボードで様々なチケットに関するメトリックスを確認することができます。イベントオーガナイザーはそれを見て、次のイベントで収益やユーザ満足度の最適化のための、価格設計やチケット種別の見直しを検討することが可能になります。
またコロナウィルスに起因するイベントの中止・延期にあたり、オーガナイザーが翌年に開催を持ち越すためのソリューション(購入済みの顧客とチケットを管理して、翌年にも使えるようにする機能など)や、ファンから支援金を寄付してもらうための機能を提供しています。こうした努力により、現在のリアルイベント開催が危ぶまれる事態を少しでも和らげ、サスティナブルな形を実現していこうとしています。
おわりに
今回は「サスティナブルコマース」についてとりあげました。
今回の事例では、ファッションやチケットなどリアル物販やリアルイベントに関するリセールをテーマとして取り扱いましたが、今後リセールの流れは物販のみならずデジタルグッズにも拡大されると思われます。NFTを中心にブロックチェーンを使うことで、デジタルのオリジナルブランドのリセール市場が広がることが予測されます。
チケットやビンテージ品などについても、NFT化してオリジナル販売者に手数料の一部が入る二次流通や、本物を動かさず権利だけ動かすことで環境負荷を下げる取り組みは仕組み的にはすでに可能になっており、事例も登場しています。
一方でNFTは投機目的での取引が70%以上を占め、9%のアカウントが市場の80%の取引額を動かしていると言われています。またデジタルが故に画像や写真等は同一の盗作も生み出すことができるため、NFTの所有権そのものが正当なものであるかの判断が難しくなっています。またWalletの用意や仮想通貨での購入など利用ハードルがやや高く、一般層が当たり前に使っているとは言い難い状況であり、デジタルグッズのリセール市場はこれからそのあたりの課題が解消されることが期待されます。
デジタルグッズのリセール化が進むと、メディアにおいてもリセールサービスを自前で持つ(過去記事のNFT、取材時に作成された資料など、メディアが持つ資産のリセール)ことで、収益源確保やブランド価値を高められる可能性があります。既にそのような分野に取り組んでいるメディアもありますが、サスティナブルコマースの観点からもさらなる拡大が期待したいと思います。
Ximera Media Next Trends のトップページへ