メディア化するSaaS企業
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メディア化するSaaS企業

多くのメディアとソフトウェア企業の融合が進む可能性が高い

By キメラXimera Media Next Trends #19| Sep 10, 2021

はじめに

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップ(やビックテック)を追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第19回となる今回は、「メディア化するSaaS企業」について紹介します。

SaaS企業にとって顧客獲得コストは上がりつづけています。少し古いデータになりますが、2017年には5年前の2012年と比べてCAC(Customer Acquisition Cost: 顧客獲得コスト)が最大で65%上がっていることが800社の調査によってわかりました。市場競争が激しくなっていること、マーケティングを進める過程で既存チャネルの効率が悪くなることが理由とされています。

これに加えて現代はアテンション・エコノミー化(情報そのものや量の多さの価値が低くなり、人々から注目を集めることが経済的価値があるという考え方)しており、単に情報を発信しても注目を得ることができなくなっています。そのため人々の注目を集めるコンテンツの企画やストーリーを練り、それをトリガーに1,000のファンではなく100人の真のファンを集めるという方法論(100 True Fan Model)が必要になっています。このトレンドを考慮すると現在でもCACは上がりつづけていると推察されます。

上がりつづけるCACを抑え、アテンションを維持するために必要なアプローチがタイトルにあるSaaS企業のメディア化だと考えられます。本記事ではそうしたメディア化するSaaS企業の事例を取り上げていきたいと思います。

新たなメディア事業の開始:Salesforce

SalesforceはCRM(Customer Relationship Management)を中心にB2B向けSaaSを数多く提供する言わずと知れたビッグテック企業です。2021年8月27日現在、時価総額は2415億ドル(約25兆円)を超え、Slackをはじめ、TableauMule SoftDatoramaなど様々な企業を買収することで事業領域を拡張しつづけています。

Salesforceが顧客との関係でこれまで特に重視していたのがDreamForceという年に一回行われるイベントです。SalesforceがTrailblazer(トレイルブレイザー:先駆者)と呼ぶ顧客やファン17万人以上が参加登録(2019年実績)する4日間のオフラインイベントで、同時に行われるオンライン配信でも2700を超えるセッションが1300万以上の視聴者に閲覧される驚異的な規模のイベントです(Metallica、U2、The Foo Fightersなどが過去Dreamforceで来場者向けにコンサートを行っており、そうした余興も含めて魅力が高いものとなっています)。 Dreamforceに参加するには1,599ドル(約16万円) - 2,299ドル(約23万円)という高価格のチケット を買う必要がありますが、毎年売り切れるほど人気があります。

B2Bの企業でこれだけの熱狂を作れる企業は他にないと思うくらいファンコミュニティづくりに長けているSalesforceから2021年8月にアナウンスされたのがSalesforce+というメディアの立上げです。

ビジネス界におけるNetflixやDisneyを目指すSalesforce+ 画像:
ビジネス界におけるNetflixやDisneyを目指すSalesforce+ 画像:Salesforce

Salesforce+はまだロンチはされていないため、詳細は不明ですがSalesforceによるとすべてのビジネスロール、業界、ラインに関するライブストリーミングとオンデマンドコンテンツを提供するビジネスプラットフォームだとされています。Salesforceはコロナ禍でDreamforceを2年連続で開催できておらずTrailblazerと直接コミュニケーションする手段を失っていました。そこでTrailblazerとのコミュニケーション手段およびエンゲージメント向上を目的に今回のメディア立ち上げに至ったと推察されます。

本連載第17回の記事でもVCがメディア化している状況を紹介しましたが、メディアとVC、メディアとSaaS、いずれもその境目が曖昧になってきています。Andreessen Horowitzはマネタイズ手段がVCのメディア企業だと言われており、SalesforceもSalesforce+の成功如何によってはマネタイズ手段がSaaSやプロフェッショナルサービス(有償で専用のサポート人材を提供するビジネス形態)であっても、集客やエンゲージメント獲得はビジネスメディアで行うようになっていくことも十分に考えられます。50人の編集主幹と何百人もの人々がSalesforce+に取り組んでいることからもSalesforceのメディア作りに対する本気度が伺えます。

ニュースレターThe Hustleを買収:HubSpot

次にとりあげるのがMA(マーケットオートメーション)やCRM関連のSaaSを提供する企業のHubSpotです。HubSpotは2005年創業、2021年8月27日時点で時価総額は約330億ドル(約3.3兆円)とSalesforceと同じくビッグテック企業です。そのHubSpotが2021年2月にThe Hustleというニュースレターメディアを買収しました

The Hustleには150万以上のニュースレター読者がいます。主なターゲットはミレニアル世代のビジネスコンシューマーで、毎日5分以下で読めるビジネスやテクノロジーに関するニュースを配信しています。ニュースレターは主に5-6つ程度のセクションで構成されており、定番はThe Big Idea(その日取り上げるトップニュースの深掘り)、Snippets(パーソナライズされたニュースフィード)、Around the Web(Webトレンド紹介)の3セクションで、これに2-3つ程度の追加セクションが加えられます。

The Hustle
The Hustle

またThe Hustleはリファーラル(読者が友人や家族などあらたな読者にサービスを紹介しユーザ登録してもらうこと)による特典で追加コンテンツの解禁やグッズを手に入れることができるのが特徴です。ユーザはニュースレターの末尾に設けられたShare the hustleというコーナーから3人以上を招待してThe Hustleに登録してもらうと、The Hutsle主催のカンファレンスで行われたスタートアップ創業者へのインタビュー本をもらうことができます。5人リファーラルするとステッカー、25人リファーラルするとTシャツというように人数の段階的な特典となっており、100人でTrendsというThe Hustleが提供する有料サブスクへのアクセント権、1000人でなんとHustleの本社へ訪問できるツアーがプレゼントされます。グッズや本社への訪問が特典になるのはTheustleが強いファンコミュニティを作れている証拠です(本連載の第5回でも類似事例としてリファーラルベースのニュースレターのMorning Brewを紹介しています)。

The Hustleのリファーラルプログラムでもらえる特典 画像:The Hustle
The Hustleのリファーラルプログラムでもらえる特典 画像:The Hustle

HubSpotはTwitterのフォロワーが80万を超え、ブログ、YouTube、Podcast、Podcastネットワークを持つなど、マーケティングに興味を持ったユーザをエンゲージするコンテンツを数多く持っています。唯一足りなかったピースがよりカジュアルにリードを獲得できるメディアでした。The Hustleようなファンエンゲージメントの強いビジネスコンシューマー向けのメディアをB2BのSaaSであるHubSpotが買収して手に入れたことは、現代のユーザ獲得やエンゲージメントの難易度が高くなっていることを考えると必然的な選択だったのかもしれません。

現在The Hustleには一部HubSpotが提供するコンテンツが配信されており、今後はブランドやプロダクト統合がさらに進んでいくと推測されます。これによって、The Hustleでマーケティングに興味を持ったユーザがその具体的な方法をHubSpotで学ぶ流れができていくと思われます。メディアからSaaS利用の促進を行う一連の流れができそうです。

おわりに

今回は「メディア化するSaaS企業」についてとりあげました。Salesforceのように自社でメディアを立ち上げるところもあれば、Hubspotのように買収でショートカットする手もあります。HubSpotのCMOは今後数ヶ月の内にソフトウェア企業がメディア企業を買収する類似の事例が出てきても驚かないと言っており、さらに多くのメディアとSaaSをはじめとしたソフトウェア企業の融合が進む可能性が高そうです。今回は特にB2BのSaaS企業の動きを紹介しましたが、B2Cでも類似した流れが起こりうると考えられます。

キメラでは引きつづきB2C・B2Bともにメディアと他業種の垣根がなくなりつつある新たな動きについても注目し、特徴的な事例に触れながらみなさんへお伝えしていきたいと思います。

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