Ximera Media Next Trends #55|Ikuo Morisugi| Dec 5, 2023
はじめに
中古品の市場(リセール市場)は年々顕著な成長を遂げています。リテール市場は、特にアパレル・車・家具・腕時計・家電などで構成されており、多くの消費者が新品に代わる選択肢として中古品を選んでいます。
例えばアパレルのリセール市場は2021年の150億ドル(約2.2兆円)から2025年で470億ドル(約7兆円)になると予想されており、大きな伸びを見せると予測されています。
リセール市場は①サスティナブル消費と②低価格性の観点で、特にZ世代とミレニアル世代の消費者によって支えられています。彼らは環境への影響を重視し、持続可能な製品への支出を増やしています。この傾向は、リセール市場の成長に大きく貢献しており、リサイクルやアップサイクル製品への関心が高まっています。また、近年の原油高騰に端を発した材料費高騰・人件費高騰などによる新品価格の大きな上昇もこの流れに一役買っていると推察されます。
この流れを受けてリセール市場に対して従来のマーケットプレイスのみならず、テック企業や大企業が多く参入してきています。例えばサンフランシスコに拠点を置くThe RealRealは、中古ファッションの取引量を順調に増やし、2022年にはGMV18億ドルで前年比23%増と好調な成長を見せています。また、本連載#52で紹介したスタートアップ企業のTroveのプラットフォームを活用したPatagoniaはリサイクルプログラム「Worn Wear」を2013年に開始しました。ユニクロについても、2020年にリサイクル・リユースを推進するプログラム「Re:UNIQLO」を立ち上げました。直近ではポップアップストアでユニクロ古着を販売する取り組みも行いました。
一方で現在のリセール市場には、供給と需要ともにさらなる改善余地が残されています。人々が中古品を手放しやすく、また新たな購入者が容易に見つかるソリューションが提供されることでより大きな市場が形成される可能性があります。本稿ではその可能性についてふれていきます。
リセール市場における課題
リセール市場における最大の課題は、供給側の出品プロセスの煩雑さです。メルカリやヤフオクに一度でも出品したことがあれば共感いただけるかと思いますが、主に下記の課題があります。
- 購入品の一覧化と出品検討: 自分が何をいつどこで購入したのかの把握と将来的にリセール市場への出品を検討する購入品の一覧
- 価格設定: 市場調査と競合分析の上、需要のあるタイミングでの適切な価格設定
- コストの考慮: 送料やプラットフォーム手数料などの追加コストを考慮し、利益が出るかどうかの見極め
- 出品の見栄え: 商品の魅力を高めるためのタイトル、画像、説明文の最適化
また取引フローについては既存のマーケットプレイスでもある程度課題解決ができていますが、一般的に下記の課題があります。
- 値段交渉の手間: 値下げなど購入希望者との価格交渉が必要な場合あり
- 送料の負担: どちらが送料を負担するかの交渉
- 発送先の確認: 正確な発送先住所の把握が必要
- 送金: 安全で迅速な送金方法の確保が必要
- 発送: 商品を適切に梱包し、発送する作業が必要
専業でやっている人以外は、多くの場合リセール市場の販売だけで生活できるほどの利益はでず、不用品の処分やお小遣い稼ぎといった目的の方が多いため、リターンに対しての出品や取引のコストが割に合わないことが課題だと考えられます。
リセール市場活発化のためのアプローチ
上記であげたように、現状供給側の出品~取引完了までのプロセスには依然として課題があり、「ワンクリックで気軽に出品~取引完了」な状態ではありません。メルカリに1品出品するだけで貴重な休日の午前中の時間を使ってしまった、それにもかかわらずなかなか売れないということも珍しくありません。
こうした状況を解決するためには、「供給側の出品ハードルと購入後の取引ハードルを引き下げること」が必要となります。
1つのアプローチとして有効なのが「商品購入タイミングから将来の再販オプションを提示し購入品一覧に組み入れる」ことです。
「この商品を購入したらXヶ月後くらいにXXX円くらいで売れるといいな」と考える人は多いですが、実際にどれくらいで売れるかはよく調べている人以外はそこまで真剣に考えません。実際に使って飽きが来たり、思っていたものと違ったり、スタイルが変化していくことで、しばらく経ってから中古販売を考えはじめます。
ですが、「購入時に推定XXX円で中古で販売することができる」「(将来中古販売する)購入品一覧に加えることができる」「商品画像、説明文なども元に購入サイトからストックできる」というソリューションが実現されたら、購入時点で購入者としての自分と、販売者としての自分を両立して考えられるようになります。
これはブランド側にとっても大きなメリットがあります。購入時点の推定中古価格が割引価格のように機能するからです。80000円のコートが、推定48000円で中古で売れますよとわかったら、「実質32000円で買えるようなものだ」と考えることができます(将来の自分の行動と中古販売価格をテコに(自分の意識が)割引いているとも言えます)。それにより購入コンバージョンも上がるはずです。これは販売側にとってもうまくビジネス成果を高めるための取り組みにもなりえます。
購入品の一覧化と価格設定ができたとしても、マッチングと購入者の交渉プロセスの最適化の課題が残っています。現状ではマッチングさせるには中古マーケットプレイスで検索されるのを待つか、友達から欲しいと言われるか、店頭に持ち込むかが選択肢となりますが、良いものでもニッチなブランドだったりすると、なかなか検索もされず、店頭に持ち込んでも大して価値がつかないこともままあります。
マッチングの課題を解決するためには、人々の検索や購入検討データの活用がキーになります。Rewindのように日々のデジタルデバイスのログをすべて取得し、商品の検索や購入検討のイベントデータを抜き出して、欲しいものを持っている人/将来的に中古販売を嗜好する人をマッチングすることで、潜在的な需要を表出化させられる可能性があります。リセール市場にもまだ出品してなくて、まだ売るつもりはなかったが、2ヶ月前に買った80000円のコートを40000円で売ってほしい人とマッチングできたら、売る気になる人もでてきてもおかしくありません。
購入前後のやりとりについても、LLMを活用した独自モデルを構築することで、ある程度のレベルで適切な交渉を進めることも可能になってきます(支払い、発送、送料のプロセスについては現状でもかなり仕組み化されているのでハードルは他の問題に比べて低いと考えられます)。AIが「Aさんがあなたのコートを40000円で買いたいと言っています。」「送料について交渉し、先方が支払うこととなりました。」「発送先が書かれたラベルを発行するので、発送してください」といった行動を先回りして実施してくれるイメージです。
このように購入時点での購入品一覧化 => 潜在ニーズのマッチング => LLMによる交渉プロセスの効率化を推し進めることが課題解消のアプローチとなりえます。
おわりに
今回は「リセール市場のさらなるグロースの可能性」についてとりあげました。
本稿ではリセール市場というマーケットの事例を取り上げましたが、「何らか商品やサービスを購入したタイミングからその次に消費者がとりえるアクションをサポートする」概念が今後他のビジネスにおいても重要になってくると考えます。
例えば、メディアにおいても有料記事を購入したあとに、記事を読んだ後は有料で一定回数限定でその記事を読む権利を誰かに移転(リセール)できても良いかもしれません。人々が(規約違反だと知っていながら)Netflixでアカウントシェアが行われたことを考えると、正規料金は払いたくないが低価格でサービスを享受したい層は存在しており、メディア自身がその移転機能をマーケットごとサポートすることで今までリーチできなかった新たなユーザを獲得する可能性もあります(もちろんビジネス損失にならないための一定の規制・制限は必要になります)。
キメラでは引き続きメディア/コマースの新たな動きについて注目し、特徴的な事例に触れながらみなさんへお伝えしていきたいと思います。
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