/ オンライン上で築くソーシャルな関係が 彼らの情報取得の大きな役割を果たしている
Ximera Media Next Trends #64|Ikuo Morisugi| 2024.09.03
はじめに
Z世代(1997年から2012年頃に生まれた世代)は、インターネットとソーシャルメディアの中で成長した初の「デジタルネイティブ」世代です。既にその世代特有の特徴は広く認知されていますが、彼らはデジタル環境において日常的に膨大な情報に触れ、リアルタイムでのコミュニケーションに慣れ親しんでいます。そのため、情報の信頼性や重要性をどのように評価し、受け取るかが、従来の世代とは大きく異なる傾向にあります。Z世代は、従来の一方通行的なメディアからの情報発信に依存せず、自らが信頼を置くインフルエンサーやソーシャルメディアのレコメンドを通じて、情報の取捨選択を行う傾向があります。加えて彼らは自らの体験やソーシャルメディア上でのコミュニティ内での意見交換を通じて、情報を探索的かつ能動的に取得していく特徴があります。
ニュース分野では、Pew Research Centerの調査によると、Z世代やミレニアル世代を含む50歳未満の世代は、FacebookやInstagram、TikTokといったプラットフォームを利用してニュースを得る割合が50歳以上の世代よりも高いことが分かっています。特に10代のZ世代では、もはや検索エンジンや伝統的なニュースメディアよりもソーシャルメディアが日常で最も利用するニュースの情報ソースとなっています。このようなプラットフォームでは、情報が他のユーザーとの対話や、彼らが信頼するインフルエンサーによって強化され、広まり、ニュースや情報はよりインタラクティブかつパーソナライズされた形で消費されています。
このようにZ世代がオンライン上で築くソーシャルな関係が、彼らの情報取得の大きな役割を果たしているため、Z世代にとっては情報の正確性や中立性は必ずしも優先されません。むしろ、彼らが信頼するのは、自分と価値観や関心を共有するコミュニティやインフルエンサーであり、その中での情報交換がより重要視されます。
このトレンドは、ソーシャルメディアサービスだけではなく、金融・ショッピング・ヘルスケア/ウェルネスといった個別分野にも影響を与えており、各サービスがZ世代向けにソーシャル性を強化しつつ進化しています。具体的には、Z世代向けに特化した「ソーシャルコマース」なプロダクトが登場し、ユーザーー同士が従来のサービスよりも濃密に製品・サービスや金融商品の評価やレビュー、使用感などを相互に情報共有しながら経済活動を行うような環境が用意されています。
こうした背景を踏まえ、本稿ではZ世代向けに設計されたソーシャルコマースのニュースメディアからスタートアップ事例を取りあげます。これらのスタートアップは、Z世代の特性に対応し、彼らのニーズを満たすための新しいサービスやプロダクトを提供しています。本稿を通じて、読者の皆様が新たなサービスや事業を企画する際の参考となれば幸いです。
ソーシャル性を組み込んだ金融投資: AfterHour
AfterHourは、Z世代をターゲットにしたソーシャルトレーディングプラットフォームです。このサービスは、若年層が株式市場に参加しやすくすることを目的としており、特に近年のFintechブームで増加しているリテールトレーダー(個人投資家)にフォーカスしています。AfterHourの主な特徴は、ユーザーがリアルタイムで他のトレーダーの投資活動を観察し、ユーザー同士で投資ポートフォリオを共有することができる点です。さらに、ユーザー同士が意見交換をしたり、投資に関するアドバイスを求めたりすることができるソーシャル機能が充実しており、投資をより身近で楽しいものにしています。
伝統的な金融サービスは、複雑で手間がかかり、新規参入者にとって敷居が高いことが問題でした。特に若い世代は、投資に対して興味を持ちながらも、情報不足や知識のハードルから参入を躊躇するケースが多く見られました。またインターネットやリアルで不特定な誰かに意見をもらったりすることは可能ですが、インターネットでは投資に関する詐欺やフェイク情報が溢れ、とても安心して情報交換できる状態にない課題があります。
AfterHourはこの課題に対し、投資に必要な知識や市況を簡単に学べる環境を提供するとともに、各ユーザーが自分の投資アカウントで連携(Robinhoodなど個人投資家が使う投資アプリとAPI接続)した上でハンドルネーム(つまり実質的な匿名状態)で他のユーザーと投資に関する戦略・現在のポジション・これまでの経験を共有することで、相互にフォローし合えながら安心して投資をできるようにしています。現在の自分のポジションはAPI接続されたアカウントのスクリーンショットしか投稿できないため、詐欺や不正が起こりにくい環境を実現しています。
AfterHourのビジョンは、若年層にとって投資がもっと身近で日常的な活動となる社会を創造することです。彼らは、金融市場がより透明でアクセスしやすいものとなり、個人投資家が大手金融機関に依存せずに自立して投資を行えるようにすることを目指しています。
AfterHourのプロダクトはユーザーに受け入れられはじめており、参加しているユーザーがシェアした投資額は2億ドルを超え、2万3000人のユーザーが参加しています。数値的にはまだまだ小さいものの、今後の伸びが期待されています。
AfterHourのビジネスモデルはまだ確立されていません。個人投資家特化のソーシャルメディアとしてユーザーを十分に増やした後に、金融アカウントや商品やアドバイザーへの誘導、AfterHour自体が投資サービス化する、など展開は様々考えられます。
AfterHourは、シードラウンドでの資金調達を完了し、総額450万ドル(約6.8億円)の資金を獲得しました。リード投資家は著名なベンチャーキャピタルであるFounders Fundであり、その他にもGeneral CatalystやPearVCなど複数の著名投資家が参加しており期待の高さが伺えます。ユーザーベースとチームの拡大に力を入れていく予定となっています。
Z世代向けドロップ型ソーシャルリワード: Claim
Claimは、Z世代をターゲットにしたソーシャルリワードプラットフォームです。ユーザーは、このプラットフォームを通じて友人と一緒にリワードを獲得し、トレードすることができます。Claimのユニークな点は、広告主となるブランドが提供するリワード(例えばカフェで初回利用限定でアサイーボウルがもらえる)が1週間に1回ドロップされる仕組みで、ユーザーはリワードを利用(Redeem)するか、友達と交換するか選択することができます。この仕組みにより、ユーザーはリワードを手に入れることに対して一層の価値を感じるようになります。
従来のリワードプログラムは、特典の取得プロセスが単調かついかにも広告を見せられているような体験であり、ユーザーのエンゲージメントが低いという課題がありました。特にZ世代は、即時性やゲーム的な要素を好むため、従来のポイント制リワードプログラムでは十分に魅力を感じられないことが多くありました。Claimはこの問題を解決するため、ドロップマーケティングやリワードの交換プログラムにより、リワード獲得や利用の過程をよりインタラクティブで楽しいものにし、ユーザー同士の交流を促進する仕組みを導入しています。
また従来のリワードはクーポンやQRコードなどを店舗やオンラインで明示的に使用しないといけませんでしたが、Claimではアプリでクレジットカード/デビットカードを紐づけそのカードで支払うだけで自動的にVenmoでのキャッシュバックを受けられるようになっています。これはPlaidのようなBaaS(Banking as a Service)をうまく活用した施策で、ユーザーの手間や適用ミスも減り、より使いやすいユーザーエクスペリエンスが提供できています。
Claimのビジョンは、リワードの価値を単なる物理的な特典にとどまらせず、ユーザー間のソーシャルなつながりや競争を通じて新たな体験価値を生み出すことです。彼らは、リワード獲得のプロセスを通じてユーザーが楽しみながら特典を手に入れられる環境を提供し、リワードプログラムの概念を再定義しようとしています。これがうまくいくとブランド側にとって高まり続けるCAC(ユーザー獲得コスト)を下げられるため、ユーザーと広告主をWinWinな状態にすることを目指しています。
現状はZ世代にフォーカスするため、特定の大学の学生に限定してアプリ提供を行なっており、2024年8月現在で全米の70を超える大学で利用できるようになっています。
Claimのビジネスモデルは獲得型の広告料モデルです。企業はプラットフォーム上でリワードを提供し、それを通じて新規顧客を獲得することの対価として費用を支払います。利用ユーザーの拡大とともにブランドもPepsiやD2Cブランド、レストランなど多様なブランドの獲得に成功しています。ブランド側にとっては特に初回ユーザー獲得に効果を発揮しており、かけた広告費に対して4.8倍のリターン、特典ドロップ後に50%のコンバージョン率の改善を実現し、高い効果を生んでいます。
Claimは、2023年6月にシードラウンドで400万ドル(約6億円)の資金を調達しました。リード投資家は、ベンチャーキャピタルのSequia Capitalです。この資金は、チームメンバーの採用と新たな市場展開前のエンジニアリング観点でのテストやフィードバックに充てられる予定です。
おわりに
AfterHourとClaimに共通するテーマは、Z世代の価値観や行動様式に寄り添ったサービス設計にあります。これらのスタートアップは、従来のサービスとは一線を画し、ソーシャル性とインタラクティブ性を重視することで、Z世代の関心を引きつけることに成功しています。特に、Z世代は、個人としての自分を強く意識しつつも、同時にコミュニティ内でのつながりや共感を非常に大切にする傾向があります。こうした特性を活かし、AfterHourはトレーディングにおける他者との共有や対話を促進し、Claimはリワード獲得のプロセスをゲーム化することで、ユーザー同士の交流や競争を促進しています。
Z世代にとって重要なのは、自らの体験や行動が意味を持ち、その結果が共有されることで社会的な価値を生み出すという感覚です。ソーシャルメディアの中での「いいね」や「シェア」、そしてそれに伴うフィードバックは、Z世代にとって強力な動機づけとなります。AfterHourやClaimが提供するサービスは、こうしたZ世代の欲求に応える形で設計されており、単なるツールとしての利用に留まらず、ユーザーがそのサービスを通じて自己表現を行い、他者とのつながりを深めることができる環境を提供しています。
このように、Z世代向けのサービスを企画する際には、彼らの特性を深く理解し、ソーシャルメディアにおける彼らの行動様式を考慮することが重要です。彼らは情報の受け取り方や消費の仕方において、他の世代とは異なるアプローチを求めています。特に、インタラクティブで、ソーシャルな体験を重視する傾向があるため、これらをサービス設計に組み込むことは必須事項になってきています。
最後に、Z世代は今後、経済活動や社会的な影響力をますます増していくことが予想されます。そのため、企業やサービスプロバイダーは、Z世代のニーズを理解し、彼らに適した商品やサービスを提供することが競争力を維持する鍵となるはずです。
以上のような視点を持ちながら、新たなサービスやプロダクトの企画を進めていくことが、これからの成功に繋がると考えます。
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