Ximera Media Next Trends #69|Ikuo Morisugi| 2025.01.30
- はじめに:拡大するクリエイターエコノミーの課題
- プログラマティック型YouTube案件動画マッチング: Agentio
- ブランドの商品をクリエイターショップで販売: ShopMy
- おわりに:メディアやコマースはどうクリエイターとの協業を進めるか
はじめに:拡大するクリエイターエコノミーの課題
クリエイターエコノミーの市場規模は年々大きくなっており、今後も市場成長が続くことが予測されています。今まで以上に多くの人々がクリエイターとして独自のコンテンツを発信することで生計を立てるようになっています。クリエイターの収益モデルは、広告収益やブランドとのタイアップ、ファンからの直接支援(投げ銭やサブスクリプション)など多岐にわたります。しかし、こうした収益モデルには未だに課題が存在し、外部環境の変化、限られた案件数、契約や履行プロセスの煩雑さなどがクリエイターにとって活動継続の壁となっています。
たとえば、配信プラットフォームは、頻繁にアルゴリズム変更や広告単価を変動させるため、収益が予測しにくくなるケースも多く、広告収益だけに依存するモデルでは持続的な成長が難しくなっています。また、継続的にブランドとのタイアップ案件を獲得することも簡単ではありません。大手のエージェンシーに所属していなければ、クリエイター自身が営業を行う必要があり、クリエイティブな活動に専念することが難しくなるというジレンマも存在します。さらに、ブランド側との契約交渉や管理業務は煩雑であり、適切なサポートがなければクリエイターが本来の活動に集中できなくなるリスクもあります。
クリエイターが安定して収益を確保するためには、広告収益に依存しない新たなマネタイズの手段が必要とされています。とくに、ブランドとの直接的な取引の機会を増やすことや、D2Cモデルの活用によって収益の多様化を図ることが重要となっています。
このような状況のなかで、独自のアプローチでクリエイターのマネタイズを支援するスタートアップが現れています。本稿では新たなクリエイターのマネタイズのトレンド事例を取り上げ、メディア/コマースの次の動きを考えていく材料となれば幸いです。
プログラマティック型YouTube案件動画マッチング: Agentio
AgentioはYouTubeクリエイター向けにブランドパートナーシップ(案件動画)をプログラマティック広告のようにマッチングできるプラットフォームを提供し、マネタイズの選択肢を増やすことを目指しています。従来、YouTubeクリエイターは主に代理店経由や直接コンタクトのあった広告主から動画案件を得ていましたが、クリエイターも広告主も適切なパートナーを見つけられているとは言い難い状況になっています。その結果、あまり質の高くない案件動画が制作されたり、クリエイターが安定した収益を確保するのが難しくなっていました。
これに対してAgentioはクリエイターと広告主を直接マッチングする広告プラットフォームを提供し、AIを活用した案件のマッチングを可能にしています。クリエイターは自身のコンテンツにもっとも適した企業案件を選択し、視聴者に対して違和感のない形で企業の宣伝を組み込むことができます。広告主にとっても、従来のプラットフォーム広告とは異なり、ターゲット視聴者により適切な形でブランドメッセージを届けることができます。Agentioは広告の入札プロセスを自動化するとともに、LLM を使用してクリエイターのデータとコンテンツ、およびキャンペーン概要、ブランド ボイス、ガイドライン、以前のクリエイター パートナーからの過去のパフォーマンス データなどの広告主データを分析しています。それにより、クリエイターと広告主のマッチング精度を上げています。人脈や労働力に頼っていた案件動画マッチング業界をITとLLMによりマッチングが自動化されたマーケットプレイスに変革させたのがAgentioの大きな価値となっています。
Agentioの収益源は広告主からの出稿金額に対する手数料(20%)となっており、出稿金額の80%はクリエイター側が取得できるモデルとなっています。
2024年11月時点でAgentioのマーケットプレイスは招待制ながらも約50のブランド(DoorDash、Mint Mobile、MasterClass、Notion、HelloFreshなど)との提携と1,000人以上のクリエイター(Nick DiGiovanni、Matty Matheson、Rhett & Link、Chad Chadなど)が参加しており、2024年3Qから4QにかけてブランドからAgentioのマーケットプレイスへの出稿費用が2.35倍に増えるなど着々と実績を積み上げています。
Agentioは2024年11月にシリーズAラウンドで1,200万ドル(約18.5億円)の資金調達を実施しました。リードインベスターはBenchmarkであり、Agentioはこの資金をクリエイターやブランドとのネットワーク拡大、新たな広告組織や人員拡大に充てると考えられます。Agentioは、YouTube広告市場における独自のポジションを確立し、従来の広告プラットフォームとは異なる新たなアプローチを提供しています。
ブランドの商品をクリエイターショップで販売: ShopMy
ShopMyはクリエイターがブランドとのコラボレーションを容易に行えるようにすることを目的としたプラットフォームです。従来、クリエイターがブランド案件を獲得するためには、自ら営業活動を行い、契約を交渉し、販売戦略を構築する必要がありました。しかし、このプロセスは時間と労力を要し、個人で活動するクリエイターにとっては負担が大きいものでした。
ShopMyは、1. クリエイターのお気に入りブランドの商品をセレクトしたオンラインストア開設、2. ブランドの商品のアフィリエイト販売による収益獲得、3. ブランドとのダイレクトスポンサーシップを獲得、の3つを可能にするプラットフォームを提供しています。クリエイターは、自身が気に入っているおすすめブランドの商品をまとめたストアを作成し、SNSで簡単に共有することができます。ShopMyはハイブランドも含め4万7000以上のブランドと提携しており、数百万の製品カタログからクリエイターが信頼性の高い商品のみを選択して紹介できる環境を提供しています。
クリエイター側はShopMy経由の購入で発生するブランドからのアフィリエイト収益(商品販売価格の10-30%程度)を得ることができます。ShopMyはクリエイターが販売する商品のアフィリエイト収益から18%とブランド側からの999ドル(約15万円)からはじまるサブスク料金を主な収益源としています。
美容系インフルエンサーのAlix EarleはShopMyを活用して自分のオンラインストアを立ち上げ、フォロワーに商品がフィーチャーされたTikTok/Instagramの動画とともに、おすすめのアパレル・スキンケア・メイクアップ・ギフトなどの商品を紹介しています。ShopMyはTechCrunchにクリエイターがこのプラットフォームで「数千万ドルの手数料を稼いでいる」と話しており、成功事例も生まれていると考えられます。
ShopMyは2025年1月にシリーズBラウンドで7750万ドル(約120億円)の資金調達を実施しました。リードインベスターはMenlo VenturesとBessemer Venture Partnersであり、調達資金はプラットフォームの拡張、ブランドとの提携強化、クリエイター向け機能の高度化に活用される予定です。
おわりに:メディアやコマースはどうクリエイターとの協業を進めるか
AgentioとShopMyはそれぞれ異なるアプローチを採用しながらも、共通して「クリエイターが自身のコンテンツや影響力を最大限に活用し、マネタイズを持続可能なものにする」ための価値を提供しています。従来、クリエイターのマネタイズ手段はYouTubeやInstagramなどのプラットフォームが提供する広告収益に大きく依存していました。しかし、プラットフォームのアルゴリズムや広告単価の変動によって、収益が予測しづらく、不安定な状態が続いていました。
このような状況に対し、AgentioはYouTubeクリエイター向けにブランド広告をより効果的にマッチングし、クリエイターが自らのコンテンツに最適な広告を選択できる環境を構築しています。一方、ShopMyはブランドとクリエイターのダイレクトなつながりを生み出し、クリエイターが自らの影響力を活かして製品を販売する新たな収益モデルを提供しています。このように両社ともに「クリエイターがプラットフォームに過度に依存せず、自立した収益基盤を築くこと」を支援する点で共通しています。AgentioとShopMyの事例はクリエイターエコノミーが単なるトレンドではなく、新たな産業の柱として確立しつつあることを示しています。今後、クリエイターエコノミーのさらなる発展に伴い、メディア企業やコマース企業がどのようにクリエイターとの協業を進めるかが事業成長の鍵を握ることになると考えられます。クリエイターの経済圏を支える仕組みを整え、テクノロジーを活用してマネタイズを最適化することがこれからの市場競争において重要な要素となります。
AgentioとShopMyのような企業が増えていくことでクリエイターのマネタイズの選択肢はさらに広がり、クリエイター自身がビジネスオーナーとしての役割を担う時代が加速していきます。メディア企業やコマース企業にとってもこうした変化を捉え、クリエイターエコノミーとどのように共存・発展していくかを考え抜くことが事業成長に求められます。
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