次世代のパーソナルメディア作り
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次世代のパーソナルメディア作り

メディアとECの境目は曖昧に

By キメラ|Ximera Media Next Trends #21|Oct 11, 2021

はじめに

メディアのトレンドとそれを巻き起こすスタートアップを追いかける連載シリーズXimera Media Next Trendsの第21回となる今回は、「次世代のパーソナルメディア作り」について紹介します。

本連載第9回「ノーコード/ローコードツールによって変革されるパーソナルブランディング」でも取り上げましたが、各クリエイターやインフルエンサーが持つパーソナルブランドを表現し運営するための一つの方法が、個人が運営するデジタルメディア(=パーソナルメディア)を立ち上げることです。古くはフルスクラッチで制作した個人ホームページからはじまり、現代ではさまざまなプラットフォームで、テキスト、音声、動画、VR/ARなど様々な媒体で自己表現が可能になりました。一方でパーソナルメディアの立ち上げや運営負荷、魅力の高め方、コンテンツの発見可能性、それぞれの点でまだ改善の余地があります。

本記事ではそうした課題を解決するスタートアップが提供する次世代パーソナルメディアのプラットフォームを紹介したいと思います。

AIによるパーソナルメディアの自動生成: Beacons

これまで各ソーシャルメディアでクリエイターが何者かを表す自己紹介文、ソーシャルアカウントの一覧、自身が運営するメディア情報などは各ソーシャルメディアに分散しており、総覧的にファンに知らせる機会が失われていました(多くのソーシャルメディアではプロフィールに設定できるURLは1つしかないため)。現代のクリエイターは、TikTok、YouTube、Twitterなどで獲得したファンをパーソナルメディアへ誘導し、ECによるグッズ販売、サブスクによるファンからの支援獲得、コミュニティへの参加誘致、クリエイターが提供する他ソーシャルメディアへの誘導を行い、継続的にエンゲージメントの高いファンを作る必要があります。望み通りパーソナルメディアを仕上げることはサイトのレイアウトや導線の知識や設計が必要になるため、例えノーコードツールを使ったとしてもクリエイターの頭を悩ませる問題です。

それに対して、AIスタートアップであるBeaconsは、最初にいくつかの質問に答えるだけで、モバイルに特化した形のパーソナルメディアを生成することができるソリューションを提供しています。Beaconsを使うと各ソーシャルメディアへのリンク、決済含めたEC機能を画面デザインやレイアウト含め、わずかな手間で立ち上げることが可能です。

メディアが立ち上がったあとは、ダッシュボードを使ってコンテンツの追加や編集を行います。一連の作業は当然ノーコードでかつスマホで完遂させることができます。現状はある程度テンプレート化された中でのデザインにはなりますが、Beaconsはパーソナルメディア立ち上げまでのハードルを大きく下げています。これにより、クリエイターは最も重要なタスクであるコンテンツ製作に集中することができます。

ECも含めノーコードで編集が可能なダッシュボードを提供 画像: Beacons編集画面
ECも含めノーコードで編集が可能なダッシュボードを提供 画像: Beacons編集画面

例えば、ロサンゼルス出身の15歳(本記事作成時点)の人気モデルClementine Leaさんは、Beacons上にパーソナルメディアを持っており、TikTok、Instagram、YouTube、IMDb(映画作品のDB)、ECストアCameo(セレブがユーザ個別にビデオメッセージを送ってくれるサービス、本連載第4回参照)、depop(Z世代向けの古着売買プラットフォーム、本連載第20回参照)など、自身が運営するあらゆるメディアやECへのリンクをまとめています。またBeacons上でパーソナルビデオメッセージの販売も行っており、最低20ドル(約2,200円)からリクエストが可能になっています。

さまざまなメディアへのリンクとECパーツを掲載できる
さまざまなメディアへのリンクとECパーツを掲載できる

Beaconsは、Creatorプラン(無料)でBeacons上の取引に対して9%の手数料、Entrepreneurプラン(月額10ドル)で取引に対して5%の手数料をクリエイターから取ることにより収益をあげています。2021年5月にアンドリーセン・ホロウィッツ(本連載第17回でも取り上げているUSのトップベンチャーキャピタル)をリード投資家として、シードラウンドで600万ドル(約6億円)の資金調達を行ったBeaconsは、競争が激化しているこの領域で、今後クリエイターのためのShopifyような存在になりたいと語っており、クリエイターが収益を稼ぐ手段がさらに増えそうです。

絵文字ユーザネームで独自性を出せる: Yat

絵文字は今や万国で使われるようになりましたが、多くの場合なにかのサービスにユーザ登録する際にユーザネームに絵文字を使うことはできません。現代においてユーザネームは自身を表すアイデンティティとして非常に重要な存在であり、ソーシャルメディア上で自分のユーザネームがいかに覚えやすいか、親しみやすいか、わかりやすいかといった観点は影響力の強いクリエイターほど気になる点です。

その課題に対し新たなソリューションを提供するのが、絵文字ユーザネームを発行できるYatです。

Yatはユニバーサルに利用できる絵文字ユーザネームプラットフォームを目指す

Yatは絵文字ユーザネームを含んだURLをYat上で購入することができるプラットフォームです。Yatはパーソナルメディアを運営する機能として、クリエイターが運営する各メディアのリンク集約、別のURLへのリダイレクト機能を提供しています。絵文字をうまく組み合わせ、独自のユーザネームを保有していることがステータスになり、パーソナルアイデンティティを個性豊かに表現する手段となっています。

Yatはユーザネームとして使える絵文字を限定した上で、絵文字ユーザネームの販売価格を独自のアルゴリズムである「リズムスコア」を使って決定しています。一文字や二文字で表現される絵文字は特に希少性があり、Yatのサイトから購入することはできず、Yatに個別コンタクトをとる必要があります。

さまざまな使い方が可能なYatのユーザーネームの代表的なユースケースの一つが、冒頭に紹介した「購入したユーザネームを使ってy.at/{絵文字ユーザネーム}のURLでパーソナルメディアを持つこと」です。上記のBeaconsの例でも取り上げたClementine LeaさんもYat上のパーソナルメディアを持っており、https://y.at/💋🍊⚡ でページにアクセスすることができます。ほかにも、ミュージシャンのLil Wayane(👽🎵.y.at)、Disclosure(😎🎵😎.y.at)などがYatで絵文字ユーザネームを作り、パーソナルメディアを公開しています。

現状のYatのドメインは既存のインターネットレジストラに登録されていますが、Yatは長期的にはブロックチェーンを使った分散型データベースで供給することを検討しています。これが実現されると、現在NFTマーケットで行われているようなデジタルアセットの所有権の移転が絵文字ベースのインターネットドメインの世界にも広がることと、絵文字ユーザネーム自体がドメインのように動く可能性が出てきます。

またYatはあらゆるIDの代わりにもなると考えられており、仮想通貨の売買ができるウォレットサービスのBRDCake Walletなどで、Yatの絵文字を仮想通貨アドレスの代わりに使用可能になるとされています。パーソナルメディアのアドレスやユーザネームを絵文字で表現することは、文化や言語の壁を超える可能性もあり、今後のYatの動きが非常に楽しみです。

開発者のための開発者によるblogプラットフォーム: Hashnode

パーソナルメディアは基本的にプラットフォームに属さず、コンテンツがユーザーに露出する機会が減るため、TwitterやTikTokやInstagramなどソーシャルメディアがクリエイターのコンテンツを見つけるための窓口となってきました。うまくソーシャルメディアの運用ができれば問題ありませんが、有象無象のユーザがいる中でトラフィックを獲得するのは並大抵のことではありません。

この問題に対して注目されるソリューションの一つがパーソナルメディア間でユーザ送客をしあう仕組みです。それを開発者blogプラットフォーム上で提供しているのがHashnodeです。

広告やペイウォールはなく、カスタムドメイン利用と同時にトラフィック獲得が可能 画像:
広告やペイウォールはなく、カスタムドメイン利用と同時にトラフィック獲得が可能 画像:Hashnode

開発者は従来MediumQiitadev.toなどさまざまなパブリッシングプラットフォームでコンテンツを提供する代わりにトラフィックを得るか、セルフホストでblogを立ち上げ自分で集客をするかの二択しかありませんでした。前者ではパーソナルアイデンティティを表現するカスタムドメインの使用を有料としていることもあり、後者では集客がままなりません。

これらの課題に対しHashnodeは無料でのカスタムドメインのパブリッシングと、フォローしているユーザやトレンドとなっている記事を容易に発見することができるコミュニティの提供で、これまでのパーソナルメディア運営のペインを解消しています。(カスタムドメイン配下で書いた記事もコミュニティフィードに自動的に流れていきます)。

上記のYatの話に通じる部分がありますが、パーソナルメディアで独自ドメインを使えることはSEOやプラットフォーム移行の容易性の観点からも非常に重要です。カスタムドメインはユーザが保有しているドメインを設定し使うこともできるため、元々セルフホストでblog運営をしていた開発者も移行しやすくなっています。

Hashnodeはさらに開発者がより使い勝手を感じられるようMarkdown(文書を記述するためのマークアップ言語)形式のサポート、ダークモードへの切り替えなどを含むデザインカスタマイズ、ニュースレター機能、githubへの自動バックアップ、簡易なアクセス解析機能も備えています。

Hashnodeのフィード画像:
Hashnodeのフィード画像: Hashnode

Hashnodeはグロースのための施策として、アンバサダー・プログラムを実施しています。ユーザが知人を招待リンクを使ってHashnodeに登録させると、Hashnode Tシャツのプレゼント、githubで書いた記事を自動的にHashnodeでパブリッシュする機能のアンロック、ベータ機能へのアクセス、アンバサダーだけがアクセスできるDiscordコミュニティへの参加など多くのユーザ特典を与えています。また各アンバサダーのリーダーボード(誰が一番貢献してくれたか)、ウォールオブラブ(貢献してくれたユーザの一覧)など視覚的にわかりやすい形でアンバサダーになる意義を強調しています。

Hashnodeは各記事に対する投げ銭機能Hashnode Sponsorsもベータ版ながらリリースしており、各開発者がHashnode上でマネタイズできる仕組みについても今後さらに拡大される可能性がありそうです。

Hashnodeは2021年8月時点で、100万のMAU、6万のアクティブなblogを支えており、順調に成長している様子が見て取れます。また、Salesforce Ventures(Salesforceが運営するコーポレートベンチャーキャピタル)をリード投資家とする670万ドル(約6.9億円)のシリーズAの資金調達を行ったことで採用やマーケティングが強化され、さらなる利用拡大が見込まれます。

おわりに

今回は「次世代のパーソナルメディア作り」についてとりあげました。ECの領域では、AmazonやWalmartなどに代表されるマーケットプレイスで集客を行い、コアなファンにはShopifyなどのブランドコントロールの効くストアでリテンションを高めるということが行われていますが、同じことがパーソナルメディアでも起こっています。またパーソナルメディア内のECの実装も容易になっていることや、Hashnodeのようにブランドを守りながら横断的なコンテンツディスカバリーも可能になっています。

前回でも取り上げましたが、このようにメディアとECの境目は曖昧になっています。多数のソーシャルメディアやECストアを持っていても一貫した世界感をもってユーザ獲得~エンゲージメント~リテンションまで一連の流れを実現することが非常に重要になっています。

キメラでは引き続きこのような新たなメディアとファンの関係性の新たな潮流を追っていきたいと思います。

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