Ximera Media Next Trends #56|Ikuo Morisugi| Dec 26, 2023
はじめに
2023年はメディア/コマース業界はじめ社会的に大きなインパクトや転換点があった1年でした(2023年「も」といって良いかもしれません)。特にソーシャルメディアと検索エンジンの動向およびAIの進化は、メディア・コマース業界に大きな影響を与えています。本記事では、この一年の主要な変化を振り返り、それが業界にどのような影響を与えているかを挙げていきます。
Facebook / Googleからの流入リスクの高まり
Facebookにとって、パブリッシャーへのリファーラルトラフィックの重要度が年々低下しています。これは、Facebookがニュースフィードのアルゴリズムを変更し、個人間のコミュニケーションを優先するようになったことが要因の1つと考えられます。結果として、パブリッシャーのFacebookからのリファーラルトラフィックの割合およびトラフィック数は年々下がり続けており、トラフィック獲得元として伸ばしていくことは期待できない厳しい状況となっています。
Facebook以外のトラフィック流入元で大きいのはGoogle検索ですが、こちらも大きな変化が起こっています。検索UIにAI回答を組み込んだSGE(Search Generative Experience)が2023年8月に発表されました。内容としてはBing AIと同等のクエリに対する回答をトップ表示するものとなります。Search Engine Journalによると、SGEは当初2023年12月にトライアル終了予定となっていましたが、現在では終了予定日がサイトから削除されていると報じられていますこれはGoogleが今後もこの取り組みを続けることを示唆しています。
現在はまだGoogle Search Labsにオプトインした人のみが使える状況ですが、検索エンジントラフィックの95%を占めるGoogleでSGEが共通機能としてパブリックロンチした際には、検索エンジン経由の流入に頼る企業に大きな影響を与えることが予想されます。あわせて2023年12月に発表されたGoogleの新AIモデルのGeminiはSGEやBardに利用されることも発表されており、今後の検索体験に影響を与えることは間違いありません。
これらの変化により、ソーシャルメディアや検索エンジンに依存したトラフィックの流入は、今後さらにリスクが増すと予想されます。変化が起こりつつある状況に対して、トライクの多様化を常に意識して、新たな流入元を獲得するための戦略と戦術が必要になってきています。
ソーシャルメディアの変化と新たなメディア
Facebook / Google以外のソーシャルメディア界隈でも多数の大きな変化がありました。すべてを挙げるとキリがないため、Ximera Media Next Trendsとして特に今後に影響すると思われる出来事をピックアップしていきます。
Twitterのブランド変更(X)と広告主の離反
イーロン・マスクによるTwitterの買収とブランド名の「X」への変更が起こり、プラットフォーム上で次々展開される施策によりユーザが混乱したことは記憶に新しいかと思います。さらに追い打ちをかけるようにイーロン・マスクが失言したことにより、多くの広告主が離れていっています。Xは広告主の離反により今年の年末までに最大で7500万ドル(約11億円)程度の広告収入を失うだろうと報じられています。
TikTok、YouTubeのソーシャルコマース化
TikTokやYouTubeは、ソーシャルコマース機能を強化しており、これらのプラットフォームを通じた商品購入が特にZ世代を中心に起こっています。特にTikTok Shopと呼ばれるTikTok内で商品発見から購入までアプリ内で完結できるサービスが2023年9月にアメリカでロンチされ、クリエイターが商品をフィーチャした動画を投稿し購入されるとアフィリエイト収入を生むというモデルが提供されました。月1回以上TikTokを利用するユーザの64%はTikTok Shopを認知していて、その内28%はすでに購入したことがある状況となっており、ロンチ後間もないにも関わらず強いユーザ認知と購買行動を作り出しています。
Snapchatの有料サブスクリプションサービス
Snapchatは、Snapchat+と呼ばれる有料サブスクリプションサービスを開始し、2023年12月時点で700万ユーザーを獲得しており、ソーシャルメディアが展開するサブスクサービスとしては最大級の成功を収めています。
Snapchat+についてより詳しくは👇
新たなソーシャルメディアの勃興
Jack DorseyがTwitter時代から温めていた分散型SNSで自身のアカウントをポータルブルに別PFへ移動できるBlueSkyのiOSアプリが2023年3月にリリースされ、招待制のベータ版ながら2023年11月には200万のユーザを獲得しました。また、親密なグループ内だけで毎日ランダムに2分間フロントカメラとリアカメラの画像を共有しあうBeRealがZ世代中心に人気を博し、2023年11月時点で2500万のアクティブユーザを獲得するなど、新たなソーシャルメディアが登場し、ユーザーに新たな体験を提供しています。
AIベースの1to1メディアの登場
AIを利用してこれまでの1:NのメディアからN:Nを実現しようとしている新たなメディアも現れました。DelphiはデジタルヒューマンクローンをLLMで作成し、各個人に対してスケールできる1to1の対応を実現できるメディアを作り上げようとしています。
デジタルクローンやDelphiについてより詳しくは👇
おわりに
企業は、FacebookやGoogle検索だけに頼らないトラフィック獲得戦略および新たな収益機会を模索する必要があります。短期的には、新たなビジネス/テックトレンドを早期に捉え新たなソーシャルメディアやサービスに適応しつつ新ユーザ獲得するのが第一歩かと考えられますが、平行して自社へのロイヤルティの高いユーザとクローズドなコミュニティを構築することがこれまでに以上に重要になってきています。
本稿であげたようにソーシャルメディアは乱立しコミュニティは分断されている状況です。様々なプラットフォームを利活用しそれぞれのチャネルで異なるユーザ獲得戦略を実行していくことでトラフィックチャネルの多様化を実現できる可能性があります。またTikTok Shopのようにクリエイターを中心として「影響力のある企業ではなく個人」により注目が集まっています。クリエイターと共同して「推し」のサービスや商品を提供していくことも顧客ロイヤルティを生むための1つの策となりえます。
メディア・コマース業界は毎年大きなトレンドが発生しており、世の中が目まぐるしく変わっていきますが、人間の本質は基本的には変わらないはずです。何をしたらユーザが喜んでくれるのか、自社のサービスを見てくれる/選んでくれるのかを常に意識し行動することが重要だと考えます。Ximera Media Next Trendsではそんな姿勢を忘れずに来年も面白い・参考になると思っていただけるリサーチを提供していきたいと思います。本年もお付き合いいただきありがとうございました。
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